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第10話 アームズスキル

 轟音と共に歌恋に放たれた槍。抉られたその場所から土煙が舞い上がる。


「か、歌恋ッ!?」

『――っ大丈夫だよ!』


 土煙の中から飛び出した歌恋がテレパシーで無事を伝えてきた。

 

「チッ! あの一投を避けたっていうの!?」


 着地した鹿島は舌打ちをする。

 確かにタイミングは完璧だった。あの状態で避けることは不可能だ、と鹿島も確信していたんだろう。

 だけど、歌恋はそれを無傷で避けてみせた。


『今のはやばかったな。正直、一発KOかと思ったぞ』

『あはは……心配かけちゃってごめん。とっさだったけど、水夜蛟(みなやみずち)を使うことで避けれたよ』


 歌恋が扱える我禅流の技が一つ、水夜蛟。自分の中に存在する気を使うことで体内の神経を活性化させる技。

 それによって極限まで尖らせた反射速度で回避したって仕組みだ。


 そして、これは俺たちにとってまぎれもないチャンス。

 鹿島は唯一の武器である槍を投擲した。その槍は、今も歌恋から少し離れた位置に突き刺さったままだ。

 つまり、槍による迎撃手段を持ち合わせていないことになる。


『今回のリンク係数は五十九まで上がってる。一気に仕掛けるぞ!』

『え!? 本当!?』

『ああ! 相手は八十一%だが、やれないことはないはずだ!』

『うん! あたし、がんばるっ!』


 俺の言葉を聞き、歌恋が姿勢を低くして攻撃の構えを取る。


「うおおおぉぉっ!」


 自らのリンク係数の数値が上がっていることを知り、歌恋は高揚してるみたいだ。これは良い傾向だと言えた。

 槍を所持しない今がチャンス。と歌恋は鹿島目掛けて突進する。


 ここでなんだかの迎撃手段があるとすれば、妨害を行える布施部のスキル。

 あとは鹿島のエクステリアが怪しい。背の針を盾にする可能性があるからだ。

 突っ込んだ結果、エクステリアを使って応戦されるのは充分にあり得る。


 布施部がスキルで妨害を行うことも考えれるが、それはあり得ないと確信していた。

 何故かと言えば、この試合は鹿島が告げた『プライドを賭けた戦い』だからだ。


 あくまでこれは二人の戦い。それに拘りを持っている鹿島が、布施部の妨害で水を差すようなマネはしてこないと俺は確信していた。


『気を付けろよ歌恋。あいつのエクステリアには注意するんだ』

『わかってる。なるべく背後を向かれないようにして攻撃するね』


 両者の距離はすでに五メートルほど。あと少しで鹿島が扱う槍の間合い、ミドルレンジに入る。

 戦う術を失った鹿島に猛攻を防ぐ術は――あった。けど、エクステリアでも布施部のスキルではなかった。


「――うぇっ!? なんで!?」

『どういうことだ……?』


 驚いて素っ頓狂な声を上げたのは歌恋だ。

 俺も声は出さないものの、見開いた目で状況を確認するのが精一杯だった。


「これで終わる訳ないでしょ! 甘いのよっ!」

「うっ……ぐぅ!?」


 キンッと金属が弾き合う音が鳴る。攻撃を歌恋が椀部のアーマーを防いだ音だ。

 鹿島が行った攻撃は突き。エクステリアに付いた『トゲ』のじゃない。それは稲光と呼ばれた『槍』による一突きだった。


『チッ! 歌恋! とにかく一旦、鹿島との距離を空けろ!』

『りょ、了解っ!』


 俺の指示に従って、歌恋がバックステップで背後へと飛び退く。

 しかし、鹿島がそれを許さない。


「今度こそ! 貫けっ! 稲光いぃぃっ!!」


 再度、鹿島の手に握られていた槍が歌恋めがけて投擲された。


『着地前の状態じゃ、水夜蛟での神経研磨は意味がねえ!』

『うん! ならここは……!』


 歌恋は両腕を広げて前面へ掲げる。それに意識を集中させると。


「我禅流闘技、風盾(ふうじゅん)!」


 大気中にある気を障壁のように展開する技。歌恋が展開した気の壁により、投擲された槍は一時的に押し留められた。

 更に添えた手を動かすことで角度をずらし、槍の軌道を変える歌恋。


 それによって、稲光と呼ばれる槍は歌恋の後方の大地に突き刺さった。


『やった! ずらすの成功!』

『ナイスだ歌恋!』


 着地に成功した歌恋は後方へもう一度飛び、即座に体勢を整える。

 汗を拭う俺の視線の先には、悔しそうに歯ぎしりをする鹿島の姿があった。




 駿たちの攻防を見て、観客は唖然とした表情で固まっていた。

 それはそうだ。一度もまともな勝負を行えなかった最弱レベルのリンクアウターが、自分たちですら出来ないだろう挙動をやってのけたのだ。


「誰だよ。勝負見えてて賭けにならねえって言ったやつ……」


 と弱々しい男子生徒の声が上がり。


「なんでリンクが低い未強化のやつが鹿島相手に互角なんだ!?」

「いやいや、鹿島が手加減してんだろ?」

「アホなんスか? 鹿島サンが手を抜いてるようには見えないっスよ」

「私と戦った試合では、竜胆さんはあんな動きしなかったのに……」


 どんどん反響が広がっていく。

 周囲のざわめきが大きくなっていく中、友明と愛奈も口を開いて会話を交わす。


「さすがにみんなの反応がすごいね」

「……うん。あのときとは状況が違う。リンク係数も決して低すぎる数値とは言えない。それに今は、頼りになるシュンくんがバディをしてるのだ。もう前までのカレンちゃんじゃない、から」


 愛奈が友明の袖をギュッと掴んだ。


「愛ちゃん……」


 少しだけ哀愁を漂わせる姿を見て、友明は悲しげな表情を浮かべた。




「今度は一瞬止めて、ずらした……? なんなのよ、あんたのそれは!?」


 イラただしく言葉を吐く鹿島の手の中に、武器である稲光が再度出現する。


『再転送? ううん、武器の再転送は試合中に行えないから』

『ルールマニュアルで見たな。破損したり、使用出来ない状態になったアーマメントとかの使い回しは同試合中には行えない。転送時に自動で行われる修復機能を悪用されないためのルールだったか』

『うん。だから、あれはルールに触れない範囲での転送……』

『じゃあ、アームズスキルの効果なのか?』


 歌恋が鹿島を見つめたまま頷く。

 そして鹿島の槍が手元へと戻る事象は、アーマメントに付属されたスキルによるものだと俺たちは予想した。


 アームズスキル。アーマメントやエクステリアを装備してると使えるスキルのことだ。

 アーマメントやエクステリアは、ランクポイントと呼ばれるポイントを使って強化することが出来る。


 ランクポイントとは、文字通りランク戦の勝敗で得られるポイントだ。俺たち生徒は、これを使って装備品の調達や強化、アームズスキルの追加などが行える。


 今までランク戦で勝利したことがなかった歌恋は少量しか持っていない。そして、今回が初めてのランク戦である俺にはまだ無縁なものだ。

 しかし、強くなるためにはこれから必要不可欠なものになるのは間違いない。


「鹿島、槍がお前の元に戻ったのはアームズスキルの効果か? 手元に戻ると言うより、正確には再出現させるスキル」


 歌恋とのやり取りで確信した俺は、立ち尽くす鹿島に問いかける。


「へえ……ご明察通りよ守住くん。ウチの稲光が取得出来るスキルの一つ。『手元帰り(リターナブル・ハンズ)』よ。ウチの手の中を初期位置に指定して、念じることで再転送させることが出来る。つまり、ウチの投擲(とうてき)による攻撃の欠点を補ってくれる訳」


 鹿島は槍をバトンのように回し、柄を地面へと突き立てる。


「槍が届かないロングレンジに対しては投擲。近づかれても、剣や斧では範囲内に入ることすら叶わない。ましてや、竜胆みたいな武器を扱わずに体を使って戦うクロスレンジタイプには! ゼロ距離まで近づかれない限り負ける要素がないのよ!」

「……うっ」


 相当な自信家とも取れる発言。その言葉に歌恋も言葉を返せないのか声を漏らした。


 ゼロ距離を取られれば、槍は不利になる。逆に言えば、懐にさえ入らさなければショートからミドルレンジに至る距離での最強クラスの武器と言える。それが槍だ。


 槍は剣術ほどの技量はあまり必要じゃなかったりする。

 大雑把な言い方だが、矛先を向けて敵に向かって駆ける。それだけでいいんだ。


 槍による戦果は、多くの戦で示されていた。

 古代ギリシャなどで用いられたファランクスなどの陣形。戦国の時代では一番槍などの言葉が生まれるほど、戦で活躍している。


 世界大戦中の日本でも、女子供が竹槍という簡易な武器の使い方を学んでいた。

 素人から兵士に至るまで幅広い人種が戦いの基本として扱っており、戦果を上げているのもまた、長い人類の歴史が物語っているんだ。


 広いこの場所では、槍が最も不得意とする閉所の屋内戦とは無縁。だからこそ、歌恋が相手の懐に入れるかがカギとなる。

 まあ当たり前だが、鹿島が歌恋の接近を許すとは思えないがな。


 俺の予想通り、三度目となる投擲の構えを取る鹿島。あくまで遠距離からの牽制がメインって感じか。


『こうなりゃ、相手の技を利用して近付くしかないな』

『技の利用? カサルナちゃんのときみたいに?』

『ああ。つまり、鹿島のあの投擲をキャッチして投げ返す』

『なるほ……へ?』


 シンプルでわかりやすいだろう。んでもって、わかりづらい。

 転移するのに意味あるのそれ? と思うかもしれない。そもそも槍を掴むとか普通は考えないしな。


 歌恋も意図が理解出来ないようで困惑しているようだ。


『あいつから目を逸らすな。ほら、投げてきたぞ!』


 その言葉にサッと振り返る歌恋。

 鹿島はすでに手に持つ槍を歌恋に向かって思いっきり投げていた。


『走れ歌恋! 槍に向かって!』

『ちょっと、駿ちゃん! 走れメロスみたいに言ってない!?』


 不満げな反応を返す歌恋だったが、俺の指示に素直に従って走り出す。

 向かってくる歌恋を見て鹿島が怪訝な顔をした。しかし、それに対して特に行動を起こしたりはしない。


『おそらく槍は帯電している。気をまとう手で、そいつを掴んで投げ返す』

『えっと、投げ返して驚いてるところを強襲して、投擲での攻撃が出来ない範囲まで走り抜ければいいんだよね?』

『ああ。んで、水夜蛟を用いて更に接近して、ショートからクロスに』

『クロスレンジからの攻撃で一気に畳み込む! だよね? やってみるよ駿ちゃん!』


 伝わって良かったぜ。しかし、やっぱり慣れないな。意識を伝えるってのがさ。


 作戦に納得した歌恋は、なおもスピードを上げて槍との間合いを詰める。

 雷槍との距離は、残り三メートル。この一手にどう対応するよ鹿島?

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