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第7話 二人のスタートライン

「話が逸れてすまない友明。んで、聞きたいのはエクステリアの装喚(そうかん)のやり方と種類についてだ。確かスタイル? とかに加えて、動物の名前らしきものを告げてたよな? エクステリアには動物の特性が備わっているのか?」


 先日の戦闘で歌恋と榊坂がやった装喚。

 転送技術を用いたシステムだと思うが、詳細についてはまったくわからない。


「装喚っていうのは、パポス内に登録しておいた武装や外装を指定して呼び出すのだよ。カレンちゃんたちがやっていたみたいにパポスを操作し、装喚のページを立ち上げる。それから、音声認識でエクステリアを呼び出すの。エクステリア、なんとかかんとかを装喚ーっ! って感じでね!」


 愛奈が外装を呼び出すセリフを言いながら、変身ヒーローのようなポージングを決めた。


 ほう、なるほどな。そういうノリでやる感じか。

 うん。良いなぁそれ。やべえ……テンションが滅茶苦茶上がってきた!


 俺が内心で震えてるのを悟ったのか、歌恋はなんとも言えない顔でこっちを見ていた。


 仕方ないだろ……そういう体質になっちまったんだから……。


「てことは、実際は転送技術で出してるけど、みんなは召喚術的なノリで呼び出してる訳か?」


 歌恋の視線をかいくぐって俺が聞くと「その通りなのだ」と言って愛奈が頷く。


「愛ちゃんに先越されちゃったけど、次は僕の番だね。スタイルについて簡単に説明すると、戦闘の方向性を決めるものなんだ。それと駿くんが察した通り、エクステリアは動物の特徴を取り入れたパワードスーツになっているんだよ」

「方向性って戦い方のことだよな? 近距離やら遠距離。高機動とかカウンタータイプみたいなので良いのか?」

「そうそう。正確には現状、六種類のスタイルがあるんだ。それがこれ」




 アサルトスタイル――高機動に特化した高速戦闘を視野に入れたスタイル


 バーストスタイル――装着者の肉体を一時強化し、瞬間的な高火力を出すことが出来る


 ブラストスタイル――遠距離戦闘を得意とし、特殊な離脱能力や命中補正が備わっている


 サーチャスタイル――隠れている相手の位置探査やデータの解析などが可能


 アシスタスタイル――前衛の強化や補助。リンク係数の微上昇効果がある


 ディスタスタイル――相手への妨害行為やマイナス効果の付属が出来る




 友明がパポスを操作して画面を表示する。俺の方に向けられたディスプレイには、簡易的な説明が表示されていた。


「こんなのまでまとめてあるんだな? 前衛用が三に、後衛用が三か? やっぱり、色々調べないとダメだなぁ」


 俺は片目をつむって頭を掻く。まだまだ情報不足な感じが否めない。


「これは僕が独自にまとめたやつなんだ。一年生の教科書にも載ってることなんだけど、わかりやすくパポスのメモ帳に書き写したものなんだよ」

「わざわざまとめてるのか。しかし、一年の教科書に載ってる内容ねぇ……。なあ友明、あとでこいつをコピーしてもらっても良いか?」

「もちろん。なら、追加で色々な資料なんかも送るね」


 友明から心良い返事をもらえた。俺は一年の教科書をもってないからありがたいぜ。


「サンキュー! んじゃ、次は動物に関してだな」

「その辺は単純ですわ。わたくしが使ってたライノはサイを模しており、突進力に優れていますのよ。特徴として、小型のブースターが内蔵されていますわ」


 今度は榊坂が流調に説明をし始め。


「あたしが使用していたのはウォルフ。つまり狼。仲間との連携を重視してるタイプなの。リンクの数値を補うようにして、ウォルフの伝達能力値が加わる。これによって、リンク係数に上昇補正がかかるんだよ。だから自分のリンク係数を少しでも上げるために、あたしは連携や意思の疎通が得意な狼型を使ってるの」


 歌恋も使用したエクステリアの特徴を話す。


 確かに榊坂の戦闘は直線的なものだった。火力に特化してるバーストスタイルに加え、突進力のあるサイ型のエクステリアなら、あの戦い方にも納得がいく。

 歌恋は回避を考慮して機動力を重視し、欠点であるリンク係数の低さを狼型を利用でカバーしている感じか。


 どちらも自分に合った組み合わせにしているのがわかる。特に歌恋に関しては深刻な問題にも通じるものだ。


「あっ! そうだ駿ちゃん! リンク係数の話題になったからついでに聞きたい!」

「聞きたいって何をだよ?」

「カサルナちゃんと戦ったバトル! あのときに言ってた、あたしたちのリンク係数って本当なの!? あの数値で間違いないっ!?」


 突然、思い出したかのように歌恋が早口で巻くし立てる。

 矢継ぎ早な口調に戸惑ったが、なんとか取り繕って応対した。


「あ、ああ。この前の五十二%ってやつだろ? 俺の見間違いじゃなければ、その通りのはずだ」

「う、そ……」

「嘘をついてるつもりはないんだが……。なあ友明、あの数値は他のバディよりも低い数値だったんだよな?」

「うーん……確かに高い数値とは言えないね。バディになったばかりの相手でも、少なく見積もって六十前後の数値にはなるんだ。けど、それ以上に……ね。正直、これを駿くん伝えるべきか迷っていたんだけど」


 友明は伝えるべきか悩むように言い淀んでいた。けど、意を決したように言葉を告げる。


「僕や愛ちゃん。それに歌恋ちゃん自身が知る彼女の最大リンク係数は……十七%なんだよ」

「…………は?」


 こいつは何を言ってるんだ……?

 だって、俺と歌恋の五十二だって低いんだろ? なのに十七って……。


「十七%? たった、それだけなのか?」

「そうだよ。たった、それだけなんだ」


 自分の頬を汗が流れるのがわかる。ゆっくりと横を向くと、唇を噛み締める歌恋が口を開く。


「……言ったよね駿ちゃん。あたしへのリンク係数はとっても低くなるって。それこそ、誰もあたしとバディを組みたがらないほどの数値に……。だから、そんな高い数値が出たんだって聞いて、あたし本当なのか気になって……!」

「た、確かにあのときはそう言ってたが……! 五十二%ですら高い数値だなんて思わなかった。いや、改めて考えると、他の奴らの数値より低いんだよな? それって俺たちの信頼や理解度が足りない――いや、すまんっ! 俺は何を言って……!」


 予想だにしなかった事実を知り、俺は動転していた。 

 それに伴って失言をしたことで目を逸らす。歌恋の顔を見続けることが出来なかった。


 そもそも、数戦しか戦ってない榊坂と野々宮が七十台の数値だぞ。

 俺たちの数値はあいつらよりも二十ほど低い。俺としては、それでも充分過ぎるほど劣等しているはずだった。

 けど実際の歌恋の数値は、現状と比べても三分の一しかない。


 十七%という数値でのリンクバトルは、前回の戦いよりも更に酷い内容だったはずだ。

 歌恋は、前のバディと組んでたときにそんな戦いばかりしていたのか?


 重苦しい空気が俺たちの間に流れる。


「……ねえ、それはこんな空気にならなきゃいけないこと? 少なくとも、それまでの相手では引き出せなかった数値でしょ……その五十二って数は。……だったら、むしろ喜ぶべきじゃないの?」


 それを打ち破ったのは、今まで会話に参加してなかった野々宮だった。


「そう……だよ。そうだよね! シュンくんは、カレンちゃんが今まで引きだしてもらえなかった数字が出せてる! タクヤくんが言うように喜ぶべきなのだ! 暗くなるのはなんか違うよねっ!」

「そうですわね。駿と繋いでも五十二%しか出ないと考えるよりも、駿とだからこそ、五十二%も出せると思うべきですわ」


 二人の頃場を聞いて俺は顔を上げた。


「俺だから……?」

「ええ。小さい頃からの知り合いだから、前のバディよりも数値が高い。その通りだとわたくしも思いますわ。そして、互いのことを色々と知っているのだから、他のバディよりも分かり合っているなのでは? と思うあなたの気持ちも、もちろん理解出来ます」


 そこまで言うと、榊坂は息継ぎをするように間を空けた。


「しかし、ここに来てからの歌恋の一年間を、あなたはほとんど知らないはず。歌恋にも同じことが言えますわ。だからこそ、掛け違えたように互いの思考にズレが生じる。人というものは、たった一つの綻びで簡単に(たもと)を分かつ生き物ですわ。酷な言い方ですが、幼馴染であろうとどんな関係であろうと、あなたたち二人は所詮()()()()に過ぎない。そうではなくて?」

「それは……そう、だな……」


 榊坂の正論を聞き、俺はやるせなさから再び俯く。


「ですが、今のあなたたちにはリンクがある。互いの心をリンクで繋ぎ、改めて気付かされる相手の本音。それを知る今だからこそ、あなたたちは真の意味でスタートラインに立ったと言えるのですわ」

「スタートライン……」

「ねえ駿。これから前を向いて歩き出さなければいけないのに、そんな風に下を向いてしまっていては……辿り着くべきゴールを。いえ、隣に立つ歌恋の顔さえも見れないのではなくて?」

「――っ!?」


 そうだよ……何やってんだよ俺……!

 俺の方からバディになりたいって、隣で支えたいって言ったんだぞ! なのに、歌恋との数値で不安になって、簡単にあいつから目を逸らして……!

 そんな弱腰な人間が、どうしてみんなに認めてもらおうなんてカッコつけたセリフが言えるんだよ!


「……お前の言う通りだ榊坂。小さい頃から一緒にいる歌恋とバディになれたのに、まだわかり合えてないんだって勝手に絶望してた。でも、まだ何も始まってないのに俯くなんて、笑っちまうくらいおかしな話なんだよな」

「……駿ちゃん」


 悲しげな顔をする歌恋へ振り返り、俺は晴れやかな笑みを浮かべる。


「なあ歌恋。こっからが俺たちにとってのスタートラインで、同時に最底辺のラインなんだろうさ。あとは上に上がるくらいしかない最底辺だ。だったら、無様でもカッコ悪くても、俺たちなりのやり方で心を通わせて数値を上げていこうぜ! んでさ、みんなに「お前らすげー!」って認められて、この島の頂点まで駆け上がる! なーんてカッコ良くねえかっ?」

「あ……うん! あたし、駿ちゃんと一緒ならがんばれる! 後ろ指差されないくらいリンク係数上げて、みんなに認めてもらいたい! 駿ちゃんと一緒に一番になりたいっ!」


 その言葉に俺はニッと笑ってみせる。隣に座る歌恋も、同じように八重歯を覗かせて笑い返してくれた。


 これからやるべきことはいっぱいある。リンク係数上げたり、歌恋のトラウマ克服したり、他の奴らを見返したり。

 だったら、最初の一歩目から俯くなんて間違ってる。


「あはは! その意気だよ二人とも!」

「ふっふーん! だったら、まずは私とトモくんレベルの数値が出せるくらいにならなきゃだねっ!」


 爽やかに笑う友明と胸を張ってドヤ顔する愛奈。


「何を!? お前らの数値は知らんが、必ず追いついてやるからな!」

「うんっ! 一緒にがんばろ駿ちゃん!」


 俺と歌恋は友明たちにも勝ってみせると、互いの顔を見てまた微笑み合った。




 駿たち四人が談笑している姿を横目に、拓哉がテーブルの上で突っ伏しながら、隣に座るカサルナに小さく声をかける。


「……これでいいのでしょうか?」

「ええ。上出来ですわ拓哉。なんというか……あの二人を見ていると、どうしても放っておけませんのよね」

「それは昔の自分を見ているようで? それとも――」

「今は前者ですわ」


 袖で口元を隠しながら会話するカサルナは、拓哉の問いかけを聞いて微笑んだ。

 そんなカサルナにならうようにして、拓哉は顔を少しだけ上げて駿たちを見つめる。


「……まあ、いずれは友明たちの数値を抜いて、わたくしたちや高峰(たかみね)さんたちの段階にまで上がってくるでしょうね」

「ええ、そのときは……」

「ふふっ……機会があれば、あなたとも戦うかしら? 期待していますわ野々宮拓哉。『反撃(カウンター・)返し(カウンター)』の呼び名を持つ我が騎士よ」

「イエス、マイロード」


 小さな声で語り合うカサルナたちとは別に、駿たちの騒がしい雑談は未だに続いている。

 とても楽しそうだ。とカサルナは心の底からそう思うのだった。

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