第16話 乱入者 -Rush in Enemy-
「…………」
駿が出ていったあと、拓哉は机に突っ伏していた。
(なんか、すごい起き難い雰囲気になった……)
狸寝入りをしていた拓哉は、起きるタイミングを逃して寝たふりを続ける。
「……リンクドライブ」
その傍らで、一人の少女がリンクを繋ぐ言葉を呟いた。少女から緑の粒子の光が発生し、宙を舞う。
拓哉の方には体を通過するように魔方陣が現れ、音もなく消えてしまった。
『なかなか面白いものが見れましたわね拓哉』
『……』
『あら? リンク中も無心を貫くんですの?』
少女は文句ありげに片目をつむり、拓哉へ問いかけた。
『……おれは寝てる』
『ええ。おはようございます拓哉』
彼女は起きていることを確信してあいさつをしてきた。
『だから、寝てるんだって……』
『彼、面白い性格をしていますわね。今時は珍しい熱血系。そして、竜胆歌恋の学園での立ち位置。個人的には非常にそそられますわ。……ねえ拓哉。仮に彼が、アベルと無関係だったとしても。あの問題の渦中に入った場合、すごく楽しめそうだと思えません?』
『……あの、聞いてる? 寝てます。おれは寝ています』
どうにも拓哉の言葉は右から左に流されているようで、取り扱ってもらえない。
『色々な意味で興味が尽きませんわね。守住駿が持つ異名の実用性を調べるためにも……ここいらで、あの二人に仕掛けますわよ』
『……彼、おれのルームメイトだからお手柔らかにして……』
『あらあら~? やっぱり起きていたのではありませんの』
『ぐっ……めんどくさい』
少女の口元が嬉しそうにつり上がる。
彼らのリンクでの会話は、拓哉定番のめんどくさいという言葉で締めくくられた。
学食で食事を取った俺たちは、再び中庭に戻ってきた。
テーブルを囲うようの置かれた四つのベンチ。その内の二つに、俺たちは向き合う形で座って話す。
「はふーっ! 美味でござりましたなー!」
「愛奈って、たまに変な口調になるよな?」
「愛ちゃんはその場のテンションで生きてるからねー」
「ん……でも友明くんもそんな感じだよね?」
パックの飲み物を飲んでいた歌恋が会話にツッコミを入れた。ちなみにパッケージにはココア味の豆乳と書いてある。
そして歌恋の言葉に対し、息がピッタリほバカップルは「ひどーい!」と抗議していた。
俺も歌恋に同意なんだが、あえて言わないことにする。
「そういえば、リンクバトルって授業でやるのか?」
「ううん。講義としての授業は存在するけど、実際に戦ったりはしないんだ」
なんとなしにした俺の質問を、友明が当たり前のように拾う。
「んじゃ、どんなときにバトルをするんだよ?」
「バトルそのものは学業外。こういった放課後なんかに生徒間で行われるものなんだ」
「強制的って訳じゃないんだな」
「ふっふーん! ただ戦う訳じゃなく、私たちバディはランク戦を行うのが主流なのだよシュンくん!」
友明に続き、愛奈が人差し指を立てて話す。しかしランク戦か。
「リンクバトルには、ランキング制度が存在するってことか」
「そだよ。この島にいるバディ全部が対象なの」
飲み物を飲み終えた歌恋がゴミ箱にパックを放る。
放物線を描いたパックは、見事なダストシュートを成功させた。ナイスシュート!
「しっかし、バディの数だけとなると、かなりの順位になりそうだな」
「ふっふっふ! そのバディの最大数は! なな、なんと! 二千にも及ぶのであったー!」
両手を上げて「うおおおおぉぉっ!」と吼える愛奈。うるせえ。
「また数字の暴力。もう数に関する話は腹いっぱいなんだが……」
愛奈女史が発せられる、力強いお言葉からなるお数字の暴力によって、俺のスピリットポイントにダメージが入った。クリティカルである。
「あはは! この学園にいる間は数値が色々と付きまとうよ。これから頑張ろうね駿くん」
「さいですか……」
その言葉を聞いた俺はガクッと肩をすくめた。
「……どのみち、そのランク戦をするにも、相手を見つけなきゃダメだよな?」
「そうだね。戦うなら、まずはランクの低い相手を探すべきかな」
「シュンくんはまだ戦ったことないから、完全にビギナーだものねー」
俺に限っては未経験だからな。歌恋の実力もまだわからんし。
「その辺も調べていくか。他の奴らに追い付くのも大変だなぁ……」
「駿ちゃん。あたしたちの再会は遅すぎじゃない、だもんね。これから一緒にがんばろっ!」
「そうだったな。栄光の未来を手に入れるためにも頑張りますかっ!」
俺は拳を握り締める。
俺から言ったんだもんな。今からだって巻き返してやるさ。
「なんなら、今から僕たちと戦う?」
「い、今からか?」
「もちろん加減した練習試合だけどね」
友明は柔和な顔で笑った。
「ふっふっふー! 私たち、自分で言うのもあれだけど、結構強いのだよっ!」
「マジか……お、お手柔らかにお願いします」
仕方ないが、下手に出るしかない。
教師の新土先生があの実力だ。リンクを繋いだ友明たちが、どれくらいの実力を発揮出来るのか、検討すらつかない。
「大丈夫。歌恋ちゃんとのリンク指数次第ではあるけど、ちゃんと加減はするってば」
続けて友明は「まあもっとも、必要ないくらい駿くんのリンクの力が凄かったりしてね」なんて言葉を付け加えた。
こっちが下手に出てるんだから、変におだてないでくれ。実力を勘違いするのが一番怖いからな。
そんな俺の内心は他所に、歌恋が話に加わる。
「えっと、フリー対戦でやるの?」
「うん! フリーでやろう! 私、カレンちゃんと戦うの初めてだから楽しみっ!」
「うん。あたしも二人相手なら、緊張しないで済みそう」
「それじゃあ食後の運動も兼ねて、実践してみよっか駿くん」
「まあ、気楽な感じで良いなら俺も賛成だ」
俺も含め、全員が対戦に賛成した。
「まず戦う前に説明を――」
「その勝負、ちょっと待ったあああぁぁあああぁぁああっ!! ですわ!」
「――えっ!?」
友明の説明を遮るように叫び声が響いた。俺たちはずぐに元凶の方へ振り向く。
視線の先。校舎を繋ぐ一階の渡り廊下に一組の男女が立っていた。
「あれは……?」
見たことない女子と野々宮?
女子の方は、黄金の瞳と気品のあふれる銀色の髪だった。ハーフアップ……だっけか。お嬢様とかがする髪型をしている。んで、胸や尻がでけえ!
てか、あの女子は同じクラスだったような。考え事してて自己紹介聞いていなかったか。
「改めて要件を言いますわ。わたくしは守住駿に用がありますの」
いかにもなお嬢様は、胸ほどの長さの髪を手串ですくい、反対の手で俺を指差すと軽くウインクした。
くっ! ちょっと可愛いじゃねえか……!
「って俺に用?」
「そう! あなたの処女戦は、このわたくしが頂きますわっ!!」
「……は?」
その瞬間、俺は固まった。てか、歌恋たちも固まっていた。
えっと、つまりどういうことだってばよ? 処女戦って初めて聞いたぞ。
「なんですの? ……拓哉まで同じように固まって」
「あの……『処女戦』って言葉はこの世に存在しないから……」
お嬢様の疑問に野々宮が溜め息を付きながら答えた。
「え!? 処女作や処女航海があるのだから、別におかしくないのでは?」
「……おかしいから。そんな日本語は存在しませんってば……。それに、相手の処女頂くとかただのレズビッチ……」
「れ、レズビッチ!? 拓哉! いくらあなたでも、言って良いことと悪いことがありましてよっ!」
「えー……」
なんだかわからないが、乱入者二人が口論を始めた。
「……なあ、この隙に逃げた方が良くないか?」
「駿ちゃんの意見に同意」
「僕も右に同じくかなー」
「見てて楽しそうだけど、めんどうくさそうだもんねっ」
俺たちは頷き合うと後退りをする。
「シャァアアラアアァァプッ!! 逃がしませんわよ! 転校生っ!」
――がダメ! 気付くの早すぎだろあいつ!
「あらら……これはダメか」
諦めた顔で言う友明。お前は諦めが早えよ。
「くっ! イベントバトルか……! がんばってね二人ともっ!」
「愛奈ちゃんの薄情者ぉ……」
愛奈が他人事だからとエールを送ってきた。歌恋が頬を膨らませてムスッとしているが、俺も同じ気持ちだ歌恋。
もう逃げれないと悟り、俺は意を決して処女戦お嬢様へと向き直る。
「んで、なんなんだ?」
「まず言っておきますわ! わたくしはレズでもビッチでもありませんっ!!」
「わ、わかった! それはわかったから本来の用件を頼む!」
んなもんわかってるから話を進めてくれ。
「むう……こほん! お見苦しいところをお見せましたわね」
一つ咳払いをする処女戦お嬢様。やっと説明が始まるのか。
「では拓哉。説明してあげなさい!」
「はいはい。分かりました……」
ってお前から説明しないのかよ! なんてツッコミを入れたい気分だが、話が進まないから我慢だ。
「みんなに紹介する。この方はカサキガサ・サカルナ! もりずみくんに勝負を挑みたいとのことであらせられるのです! ……ふぅ、疲れた」
「何が「……ふぅ、疲れた」ですの!? わたくしの名前は『サカキザカ・カサルナ』ですのよ! 処女厨でも、レズやビッチでも、ましてやサカリのついた動物でもありませんっ! 訂正なさい拓哉っ!!」
「めんどくさい……」
「なんですってー!?」
野々宮の反応に一々声を荒げるカサルナとかいうお嬢様。
これ系のコント最近どっかで見た気がするな。どこだっけ? ……あー、あれだ。襲撃教師三人衆だ。
「えっと、さかきざか……かさるな、だっけか?」
「ええ! 榊の木の『榊』に、登り坂などの『坂』で榊坂。名はカタカナで『カサルナ』ですわ! あなたもご存じでしょうけど、榊坂財閥の人間ですのよ」
お嬢様は誇らしげに胸に手を当てて言った。
てか、こいつが榊坂家の令嬢なのかよ……そういえば、守衛所で榊坂が云々とか話してた気がするな。
榊坂財閥っつーのは、全世界で五本の指に入る大企業の名前だ。
主に機械関係の業務でトップシェアを誇っている。ひょっとすると、パポスもこいつの会社が作ってるのかもしれない。
「で、そのお嬢様が俺とリンクバトルしたいってことなんだよな?」
「ええ、その通りですわ!」
榊坂は澄ました顔で腕を組む。
「えっと……未経験者の俺と、噂になってる歌恋がバディなのを知ってての対戦希望で? もしかして、初心者狩りとかでござりましょうか?」
「ええ、その通りですわ!」
「えぇー……」
ふふーん! とドヤ顔で言う榊坂。悪びれる様子もねえ。
さすがの俺もドン引きだ。
「でも、勘違いしないで下さいませ。わたくしも実際に戦った経験は少ないのです。だからこその対戦希望ですわ」
「は?」
「分かり難くてごめん。カサルナはまだ片手で収まるくらいしか対戦してない……」
野々宮は目をつむり、申し訳なさそうに説明した。
「去年は海外にいることが多く、単位も対戦回数も少ないんですのよ。ご理解頂けて?」
俺はハキハキと答える榊坂を見て、それが嘘ではないことがなんとなくわかった。
理由は単純。あいつの目があまりにも真っ直ぐだったからだ。
「……わかった。その勝負受けるぜ」
「駿ちゃん!?」
対戦の承諾を聞いて、歌恋が驚愕した声を出す。
歌恋が何か言いたげに近付くが、俺はそれを後ろ手で制止した。
「その代わり条件がある」
「条件? なんですの?」
「そのリンクバトルの審判兼サポーターを、友明たち二人にしてもらいたい」
「えっ!?」
「シュンくん!?」
突然の指名で、今度は友明と愛奈が驚いた声を出した。
「正直言って、まだ俺は聞いた程度の知識しか持ち合わせてない。だから、戦う上で必要な物があるのか、気を付けることは何か。それら全部がわからねえんだ。歌恋も含めて、友明たちにもその辺のサポートを頼みたい。……ダメか?」
「……駿ちゃん」
「そうだね。僕たちとしても、その辺はしっかり教えたいな。元より君たちが介入してこなければ、そうするつもりだったからね」
「うん! 急に乱入してきたのだから、それくらい認めてもらえなきゃ、お嬢様でも二人とは戦わせないのだよっ!」
友明と愛奈は、俺の要望に嫌がることなく答えてくれた。
「カサルナ……」
「ええ。もちろん構いませんわ」
心配そうな顔をする野々宮。けど、そんな心配は無用だと、榊坂は笑みを浮かべて返事をした。
「その条件を飲めば、わたくしと対戦して頂けるのですわね?」
「ああ」
「ならば、交渉成立ですわっ!」
榊坂のその言葉に俺も覚悟を決めた。
これから俺にとって初めてのリンクバトルが始まる――。




