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第14話 始業式

 クラスの確認が終わり、俺たちは教室に向かった。


「シュンくんと一緒のクラスでよかったねカレンちゃん!」

「うん! 愛奈ちゃんも友明くんと同じだね!」

「まあ、なんだかんだで一緒になれるか、怪しかったからな」


 俺はやれやれといった感じで肩をすくめた。内心は安堵でいっぱいなのは内緒だ。


「だよねー。うちの学校ってマンモス校だから、私もトモくんと一緒になれるか不安だったのだ」

「クラスの数を教えたときの駿くんの真顔。ふふっ、面白かったなー」

「そりゃあ真顔にもなるわ!」


 なんて取りとめのない会話が続く。


「あ! そういえば、二人はもうバディの登録したのだ?」

「ん? ……いや、まだしてないよな?」


 俺は歌恋に聞くと、歌恋は頷いて答えた。


「てか、どうやって登録するんだ?」


 口約束程度で可能なら、すでに済んでいるはずだ。

 正式に書類を提出するとなると、昨日今日で可能な方法とは到底思えない。

 となれば、他の方法があるんだろうな。


「バディの登録の仕方はね。アドレスを登録したのと同じやり方なのだよ!」

「アドレスと一緒なのか?」


 アドレスの登録っていうのは、相手が持つ学生証をパポスにスキャンすることで、相手の情報を登録すること。

 要は名刺交換みたいなものだ。


 ちなみに昨日、俺たちは寮に戻る途中で番号を登録していた。


「んじゃ、相手の学生証をもう一回読ませりゃ良いのか?」

「そういうこと。すでに登録した相手だと、今度はバディの申請が表示されるのだよ。言い方を変えれば、知り合いとしてアドレスを入れてない相手とはバディを組めない訳。わかったかねシュンくん?」


 愛奈は教授のような話し方で説明してきた。


「ほほう、理解したぜ愛奈女史。でもよ、それってネトゲの『フレンド登録欄からのパーティ申請』みたいには出来ないのか? パネル操作から簡単に申請って感じで」

「……シュンくん」

「なんだよ?」


 神妙な感じの顔をする愛奈。俺、なんか変なことでも言ったか?


「天才か……!」


 俺を指差して ながら口元を押さえる愛奈。驚愕した表情をしてやがる。


「って、お前らバカップルはなんなんだ!? 二人揃って、同じ反応をしないといけない規則でもあんのかっ!?」


 さっきの友明と同じ反応じゃねえか。

 もちろん、その反応に当然のようにツッコミを入れている俺がいた。


「ふっふーん! ネタ振りは基本なのだよっ! でも確かに変だよね。言われるまで気にもしてなかったけど」

「それは単純に、申請する意味が違うからじゃないかな? 駿くんの例えだと、パーティの勧誘って、人によっては結構行うものでしょ? でも、ここでのバディの誘いはそんなに多くない」


 友明は、俺の話を例えにして説明する。


「それを考えると、相手の学生証の再登録っていう手順そのものに意味がある。僕はそう思っているんだ」

「お互いに合意の元で交換する、ってことがか?」

「そうそう。要は、個人情報を相手に預けることだからからね。それをもう一度行う。それって、相手が気を許せる仲になってなきゃ、踏ん切りがつかないと思うんだ」


 言われてみると納得出来る。

 改めてバディとして登録してください、って学生証を渡すのは、結構恥ずかしそうだ。


「一年生の二学期に、学園側がバディを推薦してくれるんだ。救済処置みたいな感じでね。……けど、お互いが全然相手を理解してないまま組んだりするから、最初のバディは解散しても仕方ない。みたいに言われているんだよ」

「友明くん……」


 友明が自嘲するような顔をする。

 もしかして、友明にもそういう経験があったとか?


 俺は、そんな友明を励ますように言葉をかけた。


「まあ、誰しも苦い経験なんてあるさ。それよりも、大事なのはこれからだって言うだろ?」

「駿くん……」

「そだよ友明くん。気にしないで」

「歌恋ちゃん……」


 友明が歌恋と視線を交わし、そこから俺を憂いを帯びた瞳で見つめてきた。


「ん? どうしたんだよ?」

「ううん。なんでもないよ。ありがとう。二人からそう言ってもらえると救われるよ」


 そう言って友明は微笑んだ。


「……?」


 友明の言動に違和感を感じたが、それについて追求することは出来なかった。

 その理由は。


「よかったねトモくん。っと、B組はここなのだ」

「ん? もう着いたのか?」


 目的地である二年B組に着いたからだ。色々話してると、あっという間だった。

 友明と愛奈が更に歩いて振り返る。


「じゃあ、僕たちはこっちだから」

「なのだ!」

「二人とも色々教えてくれてありがとうな」

「いえいえ、どういたしまして。そうだ! 今日は半日だから放課後になるんだけど、学食に行って四人で昼食を取ろうよ」


 学食か。結局、昨日は行くことなく終わったんだよな。


「あっ! さんせーい!」

「あたしもいいよ」

「ああ。俺も良いぜ。んじゃ、終わったら合流だな」

「なら中庭で集まってから学食に行こうか」


 別々のクラスなのを考えてか、友明が新たに提案してきた。


 まあ、中庭まで行くのは迷わないだろ……迷わないよな?

 フリじゃないはず。と俺は懸念しながらも頷いた。


「了解だ」

「それじゃあ、放課後にまた!」

「二人ともバイバーイ!」


 そう言って友明たちはC組の教室に入っていった。


「俺たちも教室に入るか」

「うん」


 友明たちが中に入ったを確認し、俺たちも教室の扉を開けた。




 駿教室に入って無言で歩く俺――だったが。


「お? きみって噂の転校生?」

「あー! 昨日パポスで配信されてた彼じゃん!」

「一緒のクラスだって知って驚いたよ。これからよろしくね」

「ウチの名前は鹿島桜花(かしまおうか)って言うの。よかったら握手させてほしいなっ」


 これである。有名人とかタレントとかじゃないんだぞ。と俺はちょっとげんなりしていた。


「えーっと……みんなよろしくな。あと握手は勘弁してくれ」


 一方的に握手を求められても困るから、丁重に断らせてもらおう。

 俺はなんとなく隣を見るが、歌恋はすでにいなかった。


 どこだ? と見渡すと、歌恋は自分の席にもう座っていた。


 薄情者め! ……って言いたいところだが、あの反応が今の歌恋にとっての、たぶん必要な処世術(しょせいじゅつ)なんだろうな……。


 なるべく人と関わり合いたくない。そんな態度があいつの表情から見て取れた。

 そういうとこも払拭(ふっしょく)してやりたいところだ。


「――てる? ねえ! 守住くん聞こえてる?」

「え、あ……すまん。聞いてなかった」


 俺はかけられた声で我に返った。声の相手は鹿島と名乗った女子だ。


「もう! えっと、握手は出来なくてもいいからパポスの番号を交換しない?」

「え? あー、いや……それはもうちょっと仲良くなってからでも良いか?」

「えー!?」

「ごめんな」


 友明が言った話だと、アドレスの交換は個人情報の交換と等しいことになる。

 何も知らない初対面に教えられるほど、俺も軽薄じゃない。


「……うぅ、分かった」


 鹿島はしょんぼりとしながらも引き下がってくれた。

 他のクラスメイトにも席を確認したいと伝え、俺はなんとか解放してもらう。


「ふぅ……えっと、俺の席は……」


 最初の席は男女混合の名簿順らしく、俺の席は右から二番目の最後列だった。そのせいで、ラ行である歌恋とは一列分ズレている。


 左隣りは通路となっていて、右隣りに至っては席自体が存在しない。

 そんな奥まった席に辿り着いた俺は、前の席に座っている女子に挨拶をした。


「これからしばらく休み時間とかうるさくなるかもしれないが、ごめんな。俺の名前は守住駿だ。よろしく頼む」

「……あなたが謝る必要はないのでは? 物珍しく集まるのは、周りの人の好奇心から来ているものですから。少なくとも、あなたが罪悪感を持つ必要はないはずですが?」


 言いながら、そいつは読んでいた文庫本から顔を上げて振り向く。


 なんていうか、クールな委員長っぽい見た目だな。

 紺色の髪を中央で分け、額を大きく露出したロングヘアー。目が悪いのか、メガネをかけてるのも相まって、俺の中で委員長キャラなイメージが浮かんだ。


「まあ、それでも迷惑かけそうなことに変わりなさそうだしな」

「変なところで律儀なようで。そういえば、自己紹介がまだでしたね。私の名前は美鏡(みかがみ)蜜柑(みかん)と言います。これからよろしくお願いします」

「おう。これからよろしくな。美鏡……って呼んでも良いか?」

「ええ。私も守住くんと呼ばせてもらいます」


 軽く挨拶を済ませた美鏡は再び文庫本に視線を戻した。読書家なのか?


 会話が終わったことで俺もイスに座る。

 そこから周囲を観察するように眺めてみたが、野々宮はまだいなかった。


 うーん、あとで謝らないとなぁ。と考えていたら、教室の扉が開いた。


「みなさん席に着いてください! これからの流れについて説明しますので、一旦席に着いて! 終わったら講堂に移動しますよ」


 その声に談笑してた生徒たちも席に座る。

 全員が席に着いたところで、担任である春日部先生が挨拶をした。


「さてと。改めて自己紹介をしたいと思います。これからこのクラスの担任を勤める春日部麗です。みなさん、よろしくお願いします」


 春日部先生のお辞儀に合わせて拍手が鳴る。

 同時に、美人な春日部先生が担任だったことへの喜びの声も上がっていた。


「ほらほら、静かに! みなさんの自己紹介は教室に戻ってきてから行います。このあとは名簿順で廊下に並んでもらって、講堂へと向かいますからね」


 春日部先生の「では、何か質問はありますか?」との問いに、挙手は上がらなかった。


「では、みなさん静かに廊下へと並んでください」


 その言葉で立ち上がった俺たちB組の生徒は、静かに廊下へと並んだ。




 静まる講堂の中で、俺はクッション性のある座席に座った。


「ここもでかいな……」


 呟いたのは、この島に来て何度目かわからないセリフだ。

 始業式は一般的な体育館ではなく、この巨大な講堂で行われるらしい。

 まあ、第一校の生徒だけで千人超えるのだから仕方ない。


「次は生徒代表。星燐学園第一校の生徒会長である財前(ざいぜん)(みかど)君によるあいさつです」


 進行役を務めるのは卜部先生だ。その言葉に男子生徒が立ち上がって壇上へ上がった。


「生徒のみなさん、おはようございます。今ご紹介に預かりました、第一校の生徒会長を務めている財前帝です。新入生のみなさん。星燐学園への入学、本当におめでとうございます」


 生徒会長は一年生側の席に向かって言葉を発した。


「遠路はるばる、親元を離れての学生生活に不安を抱くのもあることでしょう。しかし、この白銀島はとても住み易い場所です。多くの先輩方も、あなたたちの面倒を見てくれるでしょう。リンクについて学ぶことも多くある反面、同時に戸惑う場面もあるとは思います」


 一年側の席が少しざわついた。


「そんな僕からみなさんに一言! リンクを通して強い心を手に入れてください。その能力が、あなた方を支える確かな力となるはずです。選ばれた学生としてここにいるあなたたちが、良き三年間を過ごせることを僕は祈っています」


 一年生側の座席の方から拍手が上がった。

 続けて二年生には先輩としての自覚を。三年生には最後の一年を悔いなく過ごすようにと生徒会長は話していた。


「さて、長くなりましたが、僕の方からの挨拶は以上となります。これから始まる一年と言う日々。共に学び、共感し、学園生活を謳歌(おうか)してください」


 帝は一歩下がって礼をする。それに伴って全校生徒から拍手が送られた。


 へえ、あの生徒会長さん結構良い人そうだな。誠意的で実直な印象だ。

 ……それにこの感じ。かなり場慣れした人間と見た。


「素敵な挨拶をありがとうございます財前君。続いて学園長のあいさつです」


 照明が消え、十六夜学園長による三校同時ライブ配信が始まった。

 他の二校も考慮してらしいが、正直、やることのスケールが一々でかいっての。


「では以上を持ちまして、一学期の始業式を終了します」


 司会の言葉を最後に始業式は終わった。


 隣同士で話し始めるクラスメイト。他にも、固まった身体を伸ばすように背伸びをしてる奴もいる。

 俺も背伸びをしながら、これから過ごす一年間に胸を弾ませていた。

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