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第13話 クラス分けのシステム

 寮を出ると、外は雲一つない快晴だった。桜並木からこぼれる日差しが心地良い。


「うーん! いい天気だよね。新学期日和って感じ」

「新学期日和って、どんな日和なんだ?」

「溶ける……灰になる……」


 一人死にかけているが、俺たちは気にせず話を続けた。


「そういえば、寮にあまり人が残ってなかったな」

「もう校舎の方に向かったんじゃない?」

「ん? なんでそんなに急ぐ必要があるんだ?」

「……それたぶん、クラス割りが見たかったんだと思う」


 太陽が生気を奪うぅぅ……! なんて死にそうな顔で言っていた野々宮が会話に混ざってきた。

 お前は吸血鬼か何かなのかと問いたい。


「そっか! みんな自分のバディと一緒のクラスになれたか気になるのか」

「あー、言われてみればそうだよな」


 友明の話を聞いて納得した。

 よくよく考えたら、歌恋と一緒のクラスになれるかわからないのか。


 自分がB組なのは知っているが、歌恋のクラスまでは知らない。

 一緒のクラスになれないと、過ごせる時間が限られてくる。バディになったからには、少しでも側で支えたいってのが俺の本心だ。


「組んでる相手がいると、優先的にクラスに割り振られるって聞いた……」

「うん。僕も先生から聞いた覚えがある。バディを組んでる相手がいる場合、なるべく一緒のクラスにしてもらえるらしいね」

「そんなシステムがあるのか?」

「うん……やっぱり、リンクバトルのパートナーである以上、多くの時間を共有出来るようにする意図があるって噂……」


 便利なシステムがあるもんだなぁ、と俺は素直に感心した。


「でもよ。バディって一度組むと永久的なのか? 別れても一緒のクラスなんて気まずくねえか?」

「いやー、実は出来るんだよね解散」

「実際、何回か変えてる人もいるらしい。うぅ……熱い。太陽に殺されるぅぅ……」


 野々宮が日除けをするように手で頭を守っていた。

 そんなに暑いのなら髪を短くしろよ、と言いたい。


 死に体な野々宮を見ていると、友明が肩を小突いて顔を寄せてきた。


「実は、歌恋ちゃんも何回かバディを解散しているんだ」

「あー……まあ、そうなるよな」


 リンクアウトとか呼ばれる断線症状のせいか。

 昨日の説明だと、今は組んでないとしか聞いていなかったな。

 いや、二学期に一回組んだとは言ってたっけか?


 断線する度に歌恋が泣いていなかったか、と少し心配になってくる。


「あいつのためにも、一緒のクラスになってやりたいんだが」

「うーん、確立的には中々シビアだね。うち、学年毎にクラス九個もあるから」

「……は?」


 いきなりの情報に口が閉まらなくなった。


「一学年で五百数十人も生徒がいるんだよ。男女合わせ、一クラス辺りが六十人くらい。それで計算するとね、なんと九クラスになるのさ!」

「……マジか」


 自分の顔が、アスキーアートみたいな真顔になった気がする。


 え? 九クラスとか無理ゲーじゃね?

 実際、さっき言ってたシステムがあるのなら、バディを組んでる奴ら次第で変わってくるとは思うが。


「ちなみに二人はバディの相手いるん、だよな?」

「もちろん愛ちゃんだよ」

「……おれも一応」


 友明は、十中八九愛奈だろうことは思っていた。けど、野々宮もすでに組んでいたのは予想外だ。


「おれもそうだけど、大抵の人は一年生のときに相手見つけてる……」

「あ……だよな」


 俺も歌恋に会わなかったら、バディを組む相手を探し回ってたのかもな。

 

「もりずみ君の場合、マルチリンクって言う能力があるから、より取り見取りなんじゃない……?」

「そうだよね。駿くんが持ってるそのリンクって、ハーレム物のラノベとかゲームでありそうな設定だからね」

「うん、分かる……」


 ……ハーレムか。

 複数の相手と接続出来る。なんて春日部先生は言っていた。

 その相手がもし、全員女子生徒だった場合。確かにハーレム物にあるご都合主義な能力そのものだ。


 けど、個人的にはハーレムものは好き以前に、性に合わなかった。

 俺自身が一人の相手に固執するタイプだし、複数に平等の愛を振りまく自信とかねえっての。


「生憎と、俺はそんなものに興味ないですな」


 話題を逸らしたいのもあって、俺はわざとらしく呟いてみた。


「もりずみ君は淡白……」

「淡白、ねー」


 率直な感想を言う野々宮。

 友明の方は意味を察したんだろう。同じ単語でも含みのある言い方だった。


「……バディも大事だけどさ。同じクラスになれるといいよね僕たち」

「おおば君の言葉を借りるなら、確立はかなりシビアだけど、ね……!」


 拓哉がニヤリと笑う。日差しのせいなのか、どうにも引きつって見えて仕方がない。


「むぅ、揚げ足とらないでよ野々宮くん」

「でもまあ、俺と友明は別のクラス確定だろ?」


 歩を進めながら、俺はなんとなしにそう言ってしまった。


「「え?」」

「ん? ……あ!」


 しまった! と俺は口を押える。

 俺がB組で友明がC組なのは、まだ発表されていないことだったのか!?


「ちょっと! なんで駿くんが知ってるの!?」

「……今のは問題発言」

「いやほら、配信で俺のクラス言ってただろっ?」

「配信? 春日部先生が割って入ったところで切れたよ。もしかして、そのあとなの?」


 マジか。これは完全に俺の失言だな……。


「駿くん。ひょっとして、他にも独り占めにしてる情報があるんじゃない?」

「お縄についてもらう……」


 俺を問い詰めようと、二人の魔の手がジリジリと迫ってくる。


「よ、よっし! さっさと校舎まで向かおうぜい!」


 俺はそう言って全速力で駆け出す。三十六計逃げるに如かずだ。


「うっわ! 形勢不利と見るや速攻で逃げ出した!」

「え……? 走る展開……?」


 背後から迫る友明と、肩を落としながらめんどくさいと呟く野々宮が見える。

 けど、俺も追い付かれる訳にはいかないと、桜並木を一気に駆けた。




 並木道を駆け抜け、俺たちは無事に校舎へ着く。

 周囲には他の生徒もいて、掲示板を見たり談笑したりしている。


「はあ……はあ……」

「ぜい……! ぜぇい……!」

「――――おぅふ」


 俺は比較的、息を切らさずに着けた。友明は息も絶え絶えといった感じだ。


 そんな中で無事じゃない人間が一人。白い目を()いて倒れてる野々宮だ。

 口からエクトプラズマっぽい物を放出していた。


 思わず、チーンという擬音が聞こえてきたのは、俺の幻聴なのだろうか?


「ふうっ……! いい運動になったな」

「……はあ! はあ! ……んっ……駿くん。速すぎる、よ……!」

「いやー、すまんすまん」

「――――っ」


 友明から恨めしそうにジト目で睨まれた。野々宮の反応はない。ただの屍のようだ。


「あのぉ、あなたたち。みんなが何事かと心配しているので、そこに倒れている野々宮くんを保健室に連れて行ってもいいでしょうか?」


 この状況に困惑していたのは春日部先生だ。

 先生の気持ちはわかる。俺も心配になってきた。


「えっと、すいません。俺のせいです」

「……ダメだったか、野々宮くん。彼のことをよろしくお願いします先生」

「わかりました。では、どなたか保険委員の経験者はいませんかー?」


 春日部先生の問いに生徒の一人が手を上げた。


「では申し訳ありませんが、彼を保健室まで運んでくれませんか? もちろん私も同行しますので」


 野々宮が、保険委員の経験者っぽい男子に背負われる。


「すまない野々宮! 俺の、せいで……こんなっ!」

「……気にしないで。これはおれが……弱かった、せいなんだ……」

「野々宮ッ!?」

「おれは必ず、戻って……くるよ。アイルビー……バック……ガクッ!」

「野々宮ぁぁああああああああああああああっ!?」

「いや、野々宮くん結構余裕あるでしょ?」


 友明の冷静なツッコミが入りながら、野々宮は保健室送りとなった。合唱。

 俺は一生懸命に手を振って見送ったあと、友明へと向き直る。


「うっし! んじゃ、クラス表確認しようぜ」

「切り替え早っ! 駿くんも薄情だよねー」


 そんなこんなで、俺たちは人が減った電光掲示板の前まで近寄る。


「しっかし、本当に多いなぁクラスの数」

「仕方ないことだけど、確かに名前を探すの大変だよね……」


 高校の合格発表で番号を探してたことを思い出しながら、俺は名前を探していく。

 自分のクラスは知ってるから、探してるのは竜胆歌恋の四文字だ。


「クラス分けの内容とかさ、パポスで知らせてくれれば楽だろうになぁ」

「……駿くん」

「んあ?」


 掲示板から目を逸らし、首を傾けて友明の顔を視界に収めた。

 目が合った友明から告げられた言葉は。


「天才……!」

「えぇー……」


 俺を指差しながら口元を押さえる友明。驚愕した表情をしてやがる。

 というか、この程度で天才扱いなんかされても困るんだが。


「あとで生徒会の投書箱に手紙を出しておこーっと。……あっ! 愛ちゃんと一緒でC組だ!」

「おー! おめ! ちなみに俺はB組な」

「知ってるのずるいよねー」

「そう言ってくれるな。……んー? 歌恋の名前が見当たらん……」

「え? 歌恋ちゃんならB組で見たよ」

「マジか!? ……あ、ホントだ」


 二年B組を見ると歌恋の名前があった。

 どうやら、自分のクラス以外に注目し過ぎて見逃していたみたいだ。


「ってことは、歌恋と一緒のクラスじゃねーかっ!」

「よかったね駿くん! おめでとう!」

「おう! ありがとうな!」


 友明が両手を上げる。その意図に気付いて、俺も手を上げてハイタッチを交わした。

 良いなあ。こういう喜びを分かち合う感じ。


「他には誰か一緒なのは――って、顔見知り皆無だから意味ないか。……ん? 野々宮も同じクラス!?」

「おー! クラスに知り合い二人とは、幸先(さいさき)よさそうだね! ……というか、僕だけ別とか酷くない?」


 自分だけ除け者だと友明はブーたれた。

 苦笑する俺は「お前は愛しの愛奈が一緒だろ?」と茶化してみる。

 その瞬間、制服の袖がクイッと引っ張られた。


「ん?」

「あ……」


 俺が振り向くと、袖を引っ張っていた人物が小さな声を上げた。


「お、おはよ駿ちゃん」

「おう! おはよう歌恋」


 犯人は歌恋だった。俺は挨拶ついでにその頭を撫でてみる。


「あ……んぅ……」


 歌恋はくすぐったそうに片目を(つむ)る。

 気恥ずかしいのか、その頬が少し赤くなっていた。


「あはは! 朝から駿くんに会えてよかったね。おはよう歌恋ちゃん」

「う、うん。友明くんもおはよ」


 友明の言葉に少し照れた様子の歌恋。


「おーい! お待たせ歌恋ちゃん!」


 そんな歌恋の後方から走ってきたのは愛奈だ。

 あいつは朝からテンションが高いみたいで、元気に手を振りながら近寄ってきた。


「お財布は見つかったの愛奈ちゃん?」

「うん! OK牧場! 昨日使ってたポーチに入れっぱなしだったのだ」


 歌恋の問いに愛奈が苦笑しながら答えた。


「おっす。おはよーさん」

「シュンくんおっはよー!」

「おはよう愛ちゃん。今日も可愛いね」

「ちょ!? そのセリフは素直に嬉しいのだけど! い、いきなりは卑怯だと思うよトモくんっ!」

「あはは!」


 こっちはこっちでデレデレだな。口の中が甘くなってきたぜ。


「って、もうクラスの確認しちゃった感じ?」

「俺と友明は済ませたぞ」

「てことは、カレンちゃんはまだだよね?」

「うん。まだ見てないよ」

「じゃあ、一緒に確認しよっ」


 そう言うと、愛奈は歌恋の後ろへと立った。

 そのまま歌恋の両肩に手を置いて、仲良く確認するつもりらしい。


「歌恋ちゃんはBで、愛ちゃんはCだったよ」

「そうなの? よーし! さっそく確認なのだー!」

「教えてくれてありがと友明くん」


 友明から聞いた通りのクラスに注目する二人。


「「え?」」


 言われたクラスを見て二人の表情が、それぞれ別の形で変わった。


「うわあああ!? 今年はトモくんと一緒だあっ!」

「よろしくね愛ちゃん」

「いやったああぁぁああっ!!」


 興奮した愛奈は、歌恋から離れて友明にハグする。

 人目を気にしろよ。と言いたくなったが、野暮なのでやめておいた。


 歌恋の方はというと、掲示板と俺の顔を交互に見比べていた。


「受験票と掲示板を見比べる中学生みたいになってんぞ」

「だ、だって……夢、じゃないよね? 駿ちゃんと一緒のクラスで、いいんだよね……?」

「おう。これから一年よろしくな歌恋」

「あ……うんっ!」


 返事をした歌恋は嬉しそうに頷いた。


 心底嬉しそうな顔だ。ったく、こっちまで嬉しくなってくる。

 本当、歌恋と一緒のクラスになれて良かった。


 こうして俺は、歌恋と同じクラスになったことを改めて実感したのだった。

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