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第11話 それぞれの距離間

「カレンちゃん寝ちゃったね」

「ったく、人を支えにして幸せな寝顔をしやがって」

「悪態つきながらもニヤけてるね駿くん」

「う、うるせー……」


 友明に茶化されて気恥ずかしくなる俺。


「よーし! カレンちゃんが寝ちゃったから、ここでシュンくんへの質問に移りたいなー」


 愛奈が少し、いやだいぶ含みのある顔をした。それを見て嫌な予感に襲われる。


 よし逃げよう。腹も減ってきたし売店行こう。

 がダメ。歌恋のもたれかかる攻撃で逃げられない。


「……ったく。んで、何が聞きたいんだ?」


 俺は仕方なく聞き返すことにした。


「シュンくんってさ、カレンちゃんをどんな風に想ってるの?」

「どんなって……」


 質問の意図は理解出来るが、その心情は理解したくない。絶対面倒そうだ。


「ごめんね駿くん。愛ちゃんってば、恋愛事が絡む話が好きでさ。こういう話になるとジッとしていられない(たち)なんだよね」


 愛奈のお下げ髪を弄りながら、友明は苦笑いを浮かべていた。


「で、どうなのっ? カレンちゃんの一番の友達としては、やっぱり聞いておきたいのでございますのですよ、はいっ!」


 髪を弄られていることは気にしていないようで、愛奈が目を輝かせて聞いてきた。

 さっきは照れてた『一番の友達』をここぞとばかりに使うのは卑怯だろ。


「……それはまあ、あいつを異性として見てるのか、ってことなんだよな?」

「そうそう! カレンちゃんがあなたのことをいつも話してたから、シュンくんに好意を抱いていると私は確信してるのだ。で、あなたはどうなのかな? と思いまして」

「うーん……」


 さすがにどう答えたもんか。少しの間唸った俺は。


「出会ったばかりの相手に、自分の恋愛事情語れる訳ねえだろ……」


 と至極まともな返事をした。


「まあ、普通に考えればそれが普通だよねー」


 なんとなく察していたようで友明は納得している様子。


「えーっ! それは私たちがシュンくんの信頼がないってこと!? 私もトモくんもシュンくんのこと信じてるつもりなのに、ひっどーい!」


 と一人納得いかない感じの愛奈が抗議してきた。


「信頼っつーか、距離間の問題だろ。さすがに出会ってすぐのやつに言うには抵抗がある」

「あー……じゃあ、私がトモくんにどんな気持ちを抱いてるのかを晒すから……ダメ?」

「あのなあ。回答が提示された問題出されても、解きたいなんて意欲がわかねえよ」


 今度は下手に出たみたいだが、見当がついてる話題にホイホイ乗るほど俺もチョロくない。


「じ、じゃあ……! えっと! と、トモくん何か良い案ない!?」


 案が浮かばないみたいだな。今度は友明に助言を求め始めた。

 救援を受けた友明は、なんとも言えない顔をしている。


「ねえねえ、トモくんっ」

「うーん、そう言われても……」

「うーっ!」


 あいつも諦めが悪いな。うーん、ずっと聞かれ続けるのも面倒そうだ。

 このままじゃ埒が明かねえし、しゃーねえか……。


「ったく……俺は歌恋が好きだ。これで良いか?」

「言わなくてもわかってるってば! だから、私はあなたを篭絡(ろうらく)させる次の作戦を練って――はいぃっ!?」


 さすがの愛奈も素っ頓狂(すっとんきょう)な声を出した。


「ひゅー! 駿くん大胆ー!」

「言わなきゃお前の彼女が延々(えんえん)と聞いてくるだろ。彼氏なら手綱くらい引いておいてくれよ」

「あははー……ごめん。次からは止めれるように精一杯努力するよ。ってことで、満足いく答えだったかな愛ちゃん?」

「え? あ、うん。……だけど、よかったのシュンくん?」


 思わぬ形で答えを手に入れたからか、愛奈は戸惑ってるみたいだ。なら聞くなと俺は言いたい訳だが。


「今更しおらしくなるなよ。まあ、他言しないなら良いさ。……ちなみに聞くが、お前らは歌恋が俺のことをどう思ってるのか知ってたのか?」

「えっと、知ってるかと聞かれると……。さっき私が言ったけど、どっちかと言えば、察してる感じかな」


 難しそうな顔をする愛奈はそんな答え方をした。


「そっか。じゃあ、直接あいつが言ったわけじゃないか……」

「ねえ駿くん。つかぬことを聞くんだけど、キミたち二人ってもう付き合ってるの?」


 と質問する友明。こっちの気持ちを知った側からすれば、俺たちが付き合っているかは気になるわな。

 それに対して俺は素直に答えた。


「いや、付き合ってない」

「ええっ!? 両想いなら、カレンちゃんと付き合っちゃえばいいじゃんっ!」


 まあ、こいつの気持ちはわからなくもない。俺だって立場が逆ならそう言う。


「……うーんと、そうだな。お前らは歌恋から昔入院してたって話は聞いてるか?」

「んん? 入院?」

「ううん、そう言った話はまだ聞いてないね」


 愛奈はキョトンとし、いきなり何のこと? といった感じの表情をしている。

 友明は問いに対して素直に答えてくれた。


 そうだよな。なら、事故に関することは話せないか。

 歌恋本人が寝てる間に話す訳にもな。そもそも、俺の口から言う気にはなれないし……。


 色々悩んだあげく、俺は二人の顔を見て口を開く。


「さっきの付き合う云々の話に戻るが、歌恋がその件で心に傷を負っちまってるんだ。で、歌恋がそれを克服するまで、俺は告白しないと決めている。むしろ、歌恋自身が克服してるからこそ、俺から告白をするつもりはないんだ。もし付き合うのなら、こいつが自分自身としっかり向き合って、覚悟を決めたときだと思ってる」


 俺は、肩に寄り掛かって眠る歌恋の頭を撫でた。触れられたのがむずがゆいのか「うぅん……」と歌恋が声をもらす。


「むー……告白しちゃえばいいのに、って言うのは無粋だよね。まあ、なんとなくシュンくんが言いたいことは理解出来るのだけど、説明が漠然(ばくぜん)としてるから、私的には納得いかない感じかなぁ」

「今まで僕たちに話していなかったことを考えると、歌恋ちゃんのそれは、結構深刻な問題だと言えるんだよね?」

「ああ。正直、かなりデリケートな問題だ……」


 あの事故で歌恋は両親を亡くし、下手をすれば俺だって死んでいた。


 初対面のこいつら相手に、そんな話をしゃべる気はない。二人がどんだけ良い奴でも、いや良い奴だからこそ、滅入って離れていくかもしれない話をしたくなかった。

 ましてや、歌恋の知らないとこでこいつらに話すのはやっぱり違うと思う。


 無言になった俺の雰囲気を察してか、友明が口を開いた。


「……わかった。それじゃあ、この話はここまでだね。どうも、僕らがまだ入り込める領域ではないらしいし。……愛ちゃんもそれでいいかい?」

「……うん。二人が両想いなのと、歌恋ちゃんがまだ話してないことがあるってわかっただけでも、充分な収穫だよ。ごめんねシュンくん。私も調子に乗っちゃったせいで、配慮が足りなかったのだ……」


 自分の言動を省みたのか、愛奈は頭を下げて謝ってきた。


「別にいいさ。そんなに気にすんなって。……まあ、なんだ。さっきも言ったが、お前らのことを信頼してない訳じゃない。ただ、あまり込み入った話をするには、やっぱりまだ壁がある。いずれ、歌恋と二人で話し合ってちゃんと伝えるからさ」


 俺は「それまで待ってくれ」と歌恋を起こさないようにして頭を下げる。

 まだ俺は、こいつらとの距離感を計りかねていた。


「了解。今聞いちゃった話は、カレンちゃんには内緒にしておくね」

「ああ、すまないな」

「ではでは、今度は質問タイムの続きをしようか。さっきはネタでああ言ってたけど、駿くんにも聞きたいことはまだあるでしょ?」

「まあな。学園のルールとか、流行(はや)りモノとか、授業内容とか聞きたいことは山ほどある」

「それじゃあ、お詫びを兼ねてシュンくんの質問になんでも答えちゃうよっ! クエッションカミーーーングッ!」


 そのあと俺たちは和気あいあいと雑談を始めた。




「へー……じゃあ、授業は前の学校と差はないのか」

「うん。うちは他の学校と比べると授業の種類も多いからね」


 なんて世間話をしていると、もたれている歌恋が動いた。


「……ん……う? ふぁああぁぁ……あれ……?」


 俺に体重を預けたまま目を擦り、大きな欠伸をする歌恋。


「起きたみたいだね」

「おはようカレンちゃん」

「あ……愛奈ちゃんに友明くん。むぅ……おはよございまふ……」


 友明たちのあいさつに答える歌恋だが、まだ寝ぼけてるのか言葉が怪しい。


「おう。起きたか歌恋? おはようさん」


 俺も声をかける。それに対して歌恋は寝ぼけ眼であいさつを返してきた。


「おはよ駿ちゃん。…………駿、ちゃん?」


 けど、俺のことを見上げて歌恋は何度も瞬きを繰り返す。

 なんだ? まだ寝ぼけてるのか?


「――っ!?」


 歌恋はいきなり驚いた顔をすると、体を起こして俺を見つめてきた。


「な、なんで駿ちゃんがいるの……?」

「は? なんでって――」

「だ、だって! ここは星燐学園なんだよ!」

「……えっと、もしかしなくてもカレンちゃん寝ぼけてる?」

「みたいだね」


 歌恋の発言を聞いて愛奈と友明が肩をすくめていた。

 俺もすくめたくなったが、歌恋を落ち着かせようと説得をする。


「あのなぁ、言っておくが俺は本物だぞ。リンクの力に目覚めてこの島に来たって、さっき説明しただろうが」

「本当に……?」

「本当だ」


 まだ信じられない感じの歌恋。おいおい、しっかりしてくれよ。


「うっ……ぐすっ……!」

「か、歌恋!?」

「ちょっ!?」

「カレンちゃんっ!?」


 なぜか泣き始めた歌恋を前に、俺たち三人は同時に立ち上がっていた。


 ちょっと待て! なんでいきなり泣き出した!?


「と、とりあえず泣き止んでくれ歌恋。一体どうしたんだよ? なんでいきなり泣き出したんだ?」

「だって……ひっぐ……駿ちゃんが側にいてくれるって……うっく……思い出したら……嬉しくなっちゃって……! 駿ちゃんがいるのが、夢の中じゃないってわかったから、あたし……ごめ……っ!」

「じゃあ、カレンちゃんは嬉しくなって泣いちゃったんだ?」

「ぐすっ……う、うん……」


 歌恋が目元を擦りながら頷く。その目は、泣いているのと擦ったせいで赤くなっていた。


「だってさ駿くん」

「茶化すなよ。あーもう、こういう雰囲気は俺苦手なん――」


 と言ったところで『ぐー』と音が鳴った。その発信源は間違いなく俺の腹からだ。


「……くっ! あっはははっ! シュンくんのおなかが、ぐーって鳴った! ぐーって! しかも、絶妙なタイミング……!」


 それ聞いて愛奈が爆笑し出した。

 こいつ、自分の膝叩いてまで爆笑してやがる。


「駿ちゃん。もしかして、おなかすいたの?」

「も、もう夕方だからな! そりゃあ、俺も腹が減ってくるってもんだ」


 友明からもらった分じゃ足りなかった。なんて言えやしねえよ。


「え? もうそんな時間?」


 歌恋が困惑した顔でパポスを見た。


「あれ? 起動しない? ……あっ! そうだった。充電、切れてた……」


 肩をすくませてガックリとうな垂れる歌恋。


「なあ友明。歌恋への連絡が途切れたのってもしかして……」

「うん。僕もそれ思った。繋がったはいいけど、充電がなくなって切れちゃったみたいだね」


 通話の件を思い出した俺たちは、互いになんとも言えない感じで苦笑する。


「今の時間は四時半前ってところだよカレンちゃん」


 と愛奈もパポスを見て歌恋に時間を伝える。


「そっか。もうそんな時間……二時間くらい寝てたんだ……」

「そうだよ。起こすのが申し訳ないくらい幸せそうな寝顔だったのだ」

「うぅ……なんかごめんね。駿ちゃんもずっともたれさせてくれてありがと」

「良いっての。気にすんな」


 謝る歌恋に俺は優しく微笑んだ。


「……さて、まとまったかな? じゃあ歌恋ちゃんも起きたし、駿くんもおなかを空かせたみたいだから、今回はそろそろお開きにしようか?」 


 友明の提案を聞いた俺は頭を掻きながら立ち上がった。


「おう。初日だって言うのに、今日は色々あり過ぎて疲れちまったな……」

「色々ごめんね駿ちゃん」

「だから良いっての。今更お前のことで愚痴るほど、俺らの付き合いは浅くねえだろ?」


 俺は気にすんなと歌恋の頭に手を置く。


「う、うん。駿ちゃんありがと」

「それじゃあ、四人で寮までレッツラゴーなのだっ!」


 と元気の良い愛奈の声が室内に響き渡った。


 俺が島に来た初日はこんな感じで終わる。まあ寮に戻ってからも色々あるが、その辺は割愛だ。

 そして、俺の学園生活は登校初日を迎えることになった。

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