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裏側(うらがわ)  作者: maaaa氏
1/2

裏社会でしか生きられない男達の物語

 この世の中は表の世界と裏の世界が混じり合うことで成り立っている。

物事には、表と裏が必ずある。 右があれば左があり、上があれば、下がある。 北があれば南だし、善があれば、悪がある。 昼があれば夜がある、という風に、すべて表があれば、その反対は裏なのである。

どちらが表で どちらが裏かは分からない。 いま当たり前にある日常生活、道徳、法律が表の世界なら、それに反するもの、嘘、非道徳、犯罪は すべて裏いうことになる。


(1)

  1999年 7月 夏

 「あぁ金がほしい~、どっかええ話ないんかのぉ。 のぉ、淳 どっかええ話ないかぁ?。」

 「はぁ、兄貴 金もええですが、ノストラダムスの大予言 あれホンマですかねぇ、ホンマなら今年やないですか、世界の終わりは・・・。」

 「おお、それよそれ、ホンマに世界の終わりが来るなら そこら歩きよるええ女 全部犯しまくっちゃる。」

 「あー、ええですね。 なら自分、あゆ いったりますわ。 中に出したりますわ。」

 「バカやのぉ お前は、あれクラスのアーティストになったら ごっついSPがついとるわ。 お前なんか赤子の手を捻るようにして殺られるわ。 間違いなく瞬殺よ。」

 「ははは、その前に 後ろから こうバーンですわ。 世界の終わりですよ、殺したってええでしょ。」

 「おぉ、ええ ええ。 でも あゆ そのSPに先に犯られとるやろのぉ。」

 「なんすか?兄貴 人の夢 壊さんでくださいよ。」

 「なんやお前? 夢っち、こまいのう。 てか、ノストラのそれに絡めてリアルな感じかもしだしやがって、想像力豊かか!お前は・・・。」


 兄貴などと呼ばれているが、ヤクザではない。 若いころ一度は席を置いていたことがあるが、結局は長続きせず辞めた。 辞めたと言っても、会社やバイトみたいに 辞めます、はいそうですかなんてことにはならない。 そんな風にして辞めれる組織など皆無といっていいだろう。 若いヤクザの辞め方なんて、逃げるくらいしかないだろう。 だから例にならって次郎も その逃げたくちだ。 辞めたいなどと言おうものなら、100%説得される。 兄貴分やらなんやらが出てきて、親父にこんなに世話になっときながら・・・とかなんとか言われ、丸めこまれるのがオチだ。 そして、結局は辞めれないのだ。 それでも、辞めると言える剛の者もいるだろう。 しかし、そうなると今度は、暴力で訴えてくる。 暴力団なのである。 得意分野である。 だから逃げるしかない。 逃げると大抵 破門 にされる。 うちを逃げた奴だから拾わないように と他組織に対しての伝達である。 地元なんかには居られない。 居るところを見つかれば、酷い目にあわされるからだ。 大抵の場合一人では来ない。 必ず人数で来る、それがセオリーと言うやつだ。 ヤクザは負ける喧嘩はしないのだ。 その時勝てたとしても、必ずこっちが負けるまで来るのだ。 ヤクザが堅気に負けたら、商売あがったりである。 暴力団なのである。 例にもれず、次郎も地元を離れざるを得なくなり、今は九州にある地方都市で生活をしている。 大したお金も持たず、着の身着のままにとびだしたのである。 まともな職に就けるはずもなく、またその気もなく、とどのつまり 結局はその地区で知り合ったヤクザに取り入り そのシノギを手伝いながら なんとか生計をたて暮らしているのである。 いわゆる準構成員と言うやつだ。 分かりやすく言えば、チンピラである。 金持ちのチンピラなど聞いたことがない。 多分に漏れず 次郎もやはり金が無かった。 ジャニーズばりの容姿でもあれば、そこらの女でもコマしていい暮らしでも出来ていたかもしれないが、次郎の容姿はそうでもない。 バレンタインのチョコレートなど母親と姉以外からはもらったことがない。 畑中次郎(29)今年の終わりでもう30歳である。


 「兄貴、どこ行くんですか?。」

 「おう、ちょっと事務所にの、お前も付いてこいや。」

 「は、はい。」


 次郎クラスのチンピラが用も無いのに事務所に顔を出せるはずもない。 出せば面倒な用事を言いつけられるのがオチだ。 普通であれば近づきもしない。 

 ヤクザの事務所に常時人が詰めている組は それなりの大きな組である。 次郎が世話になってる その組事務所は、5時になると留守番電話になり、当番と言っても事務所の掃除をするだけの 掃除当番。 外で出来ないような話の時に使ったり、何かの集まりの時に使うくらいの機能しかはたしてないのである。 そして次郎は、事務所に人が居ない時間帯を知っているのである。 時々用も無いのに その時間帯に自分の舎弟を連れて行っては、自分の威厳を高めているのだ。


 「ん、なんやぁ、誰もおらんやないやぁ。 どうなっとんかいの、この組は、おう。 ま、淳、どこでも座れや、遠慮すんなや。」

言いながら次郎は いつも兄貴分が座る場所にドカッと座った。

 「は、はぁ。 し、失礼します。」

 「おう、淳、コーヒーかなんか入れえや。」

 「え?、あの、どうやって?。」

 「バカかお前、そこのキッチン行ってみれや。 なんかあるやろ。 ホンマお前は、なんも出来んのぉ。」

いつも自分が兄貴分に言われてるように言い放つ。

 「は、はい、すみません。」


  ”ピンポーン”


 「あ、兄貴、だ、誰か来ました。」

 「う、うろたえんなやバカ、出て見れや。」

言いながら、いつも自分が座る隅の席に素早く移った。 淳が応対にでて何やらしゃべっている。

 「あ、兄貴。」

 「なんや。」

 「ちゅ、中国人が来ました。」

 「はあ?。」


淳に言われ応対に出てみると、ドアの前に男が4人立っていた。 言われないと中国人だとは分からない。そこら辺を歩いているサラリーマンと変わらない。

 「ナカタサン、イマスカ?」

4人の中の1人がたどたどしい日本語で聞いてきた。

 「は?、中田裕司のこと?」

 「ハイ、ナカタユウジサン、イマスカ?」

 「今、居らんのやけど、なんか伝えとこうか?」

 「トテモダイジナヨウジネ、スグレンラクネガイマス」

4人の中国人が一斉に頭を下げる。


 中田裕司と言うのは、次郎と同じ 影山組に面倒を見てもらってるチンピラで、次郎と歳も近いことから、時々飲みに行ったりする。 仲は良い方だ。 そう言えば、最近やたらと羽振りがよく 中国人がどうのこうの言っていたような気がする。

 淳に応対をまかせて、奥で事務所の電話から連絡を入れる。 先月の携帯電話の通話料など、どこでどう使ったのか 7万も来て、目が飛び出しそうになったばかりである。


 「はい、裕司です。」

事務所の電話からかけて正解である、3コール以内に中田は出た。 これが、自分の携帯からかけようものなら、10コールは待たされるだろうし、たまに出ないときもある。

 「ああ、裕司くん、俺、次郎。」

 「次郎くん?、なに?、どした?。」

 「なんか中国人が事務所に来とるぞ、中田さんお願いしますって。」

 「ええ!、マジで?、アイツら・・・事務所まで・・・。 今、事務所 誰が居るん?。」

 「俺と淳だけやけど。」

 「兄貴らは?」

 「おらん。」

 「そう、良かった。 ちょっと次郎くん悪いんやけど、アイツらに もう中田は連絡取れんっち言うてくれんね?」

 「え?、言いけど・・・、でも儲かるんやないん?」

 「いや、儲かるけどもうええわ。 面倒くさいし。 次郎くん好きにしたらええよ。 あと、絶対に兄貴に言うたらいかんよ。」

 「ああ、分かった、兄貴には黙っとく。」

 「ホンマ頼んどくよ、兄貴には絶対やけね。」

 「大丈夫って、言わん言わん。」

 「オッケー、じゃああとはよろしく。」

そう言って次郎に押し付けるようにして 裕司は電話を切った。 次郎にしても断ろうと思えば断れたはずだが、アイツらは儲かる という 前に裕司が話していたことに興味があったのだ。


 「さてと・・・どうしたもんかねぇ・・・。」



 当時、全国にあるヤクザ組織のほとんどが 不良外国人(中国人も含む)との交際を禁じていた。

特に激しかったのは新宿歌舞伎町で、毎日のようにヤクザ組織と不良外国人組織とが小競り合いを起こしていた。 ヤクザ組織のシノギと言えば、みかじめ、博打、等なのに対し、不良外国人のそれは 盗み、殺し、薬物売買、等 で 一貫性として相反する等の理由から 信仰、交際は御法度 等の通達が 全国のほとんどのヤクザ組織に萬栄していた。 しかし、そんなものは建て前に過ぎない。 ようは、誰に断って日本の国で悪さしよるんじゃい と言ったところだろう。 日本の治安はワシらが守る、警察がナンボのもんや、ワシらは必要悪なんじゃ などと書かれた記事を読んだことがあるが、賛否色々あるだろう。 

やれ中国人だ、イラン人だ、だからと言って、全てが悪いのかと言えば それも違う。 真面目に生活をしている立派な人間の方が断然多い。 ヤクザ組織にしても、薬物御法度などと謳い文句にしている組織であっても、営利に関しては暗黙の了解で、使用が発覚して初めて処分される なんてことは よくあることである。 立派な親分になりたいと心に決め、門をたたき なにが良くて なにがダメなのか 結局は分からないまま志半ばで断念した若者は多い。 どこの世界でもあることだが、ずる賢い人間、要領が良い人間ほど出世するものだ。 かく言う 次郎の属する影山組の上部団体も不良外国人との信仰、交際は御法度を謳っている。 裕司がしきりと影山への発覚を恐れたのもこのためだ。


 「おう、中田は連絡とれんわい。」

 「エ、コマルヨ、ソレ トテモコマルヨ。」

 「しるかボケ、とれんもんは とれんのじゃい。」

 「ダメダヨ、コマルヨ。 ナカタサン ヤクソクシタヨ。」

 「そんなもん知らんわい。 帰れ 帰れ。」

 「ダメダヨ ヤクソクシタヨ。 オカネ モッタイナイヨ。」

 「ん、金?」

 「ソダヨ、オカネダヨ モッタイナイヨ。」

 「金ってなんや? 儲け話しかい。」

 「ソダヨ、モウケハナシヨ。 タイキンヨ。」

 「・・・・」

 「ナカタサン、ヤクソクシタヨ。 モウケハナシヨ。 タイキンヨ。」

 「・・・・」

 「ニホンジン タスケイルヨ。 タイキンヨ。」

 「おい、それって ナンボになるんや?。」


 1989年に六四天安門事件が起き、1990年頃から日本への不法集団密航が始まった。 1993年までの中国人による不法入国のほとんどが福建省からの密航だったとされる。 その後1997年に香港返還を迎え、その様式は変わり上海、北京と言った主要都市からも密入国してくる中国人も多くなったという。 その背景の多くには 蛇頭じゃとうと呼ばれる密航を斡旋する組織の活躍があった。 1998年頃には日本の漁師と組んで、日本に違法で密入国させるという手口が横行していた。 日本の漁師側にはヤクザ組織が絡んでいる。 しかし2000年に入っては、その密航も激減している。 結局は日本のヤクザ組織が手を引いた為だ。 中国人 1人が日本に来るのに300万のお金が要るらしい。 勿論 密航でだ。 食うに食えず、貧しい中国人にそんな金があるはずがない。 そのほとんどが借金である。 担保は,家族である。 借金を踏み倒したら、残された家族はどうなるか分からないぞ と言うわけだ。 いわゆる人質だ。 貧しい村の中から代表者を決め、村全体を担保という形を取って日本にやって来た娘が、日本の生活に染まり、日本人男性と駆け落ちをしたことによって、村人全員が 皆殺しにされたと言う話もある。 中国では人の命は軽いのである。 日本人は小さい頃から、命は大切だと言う教育を受けて育つ。 世の中で一番大切なものは命だと、そこら辺の幼稚園児に聞いたとしても そう答えるだろう。 次郎たちのような裏側で生きてる様な者たちでも、世の中で一番大切なものは命だと答える。 しかし中国では違う 人の命がビックリするほど軽いのだ。 世界人口の6分の1は中国人が占めている。 6人に一人は中国人なのだ。 その人口難から、1夫婦1子制度なるものがあり、一つの夫婦には、子供は一人しか認められないのだ。 2人目、3人目の子供には戸籍が与えられないなんて嘘のような話も耳にしたここがある。 法律も厳しく、人の物を盗めば腕一本ちょん切るとか、殺人未遂=死刑、覚せい剤の所持=死刑、と日本とは比べ物にならないほど 厳しくアバウトだ。 人口難の為、そうでもして人を減らさないと国が成り立たないのだろうが、どうかと思ってしまう。 だから、日本に来て3万の金欲しさに人を殺したり出来るのかもしれない。 しかし、そんな中でも、お金持ちの家に生まれた子供は幸せだ。 華僑の出身で10人兄弟なんてざらにある話だ。 どこの世界でも、金が物を言うのだろう。 話を少し戻すが、そうまでして日本に来て果たして利益になるのか?。 答え、なるのである。 多くは2~3年で借金を清算してしまうらとか。 後はもう利益である。 300万もあれば、一生家族が食うに困らない。 密航できた中国人だが、女性であればいくらでも金にするすべはある。 いつの世もそうだが、女性は身体が商品になるからだ。 しかし、男性はそうもいかない。 肉体労働 いわゆる3Kと言われる職に就けたとしても、女性のそれとは比べ物にならないくらい安い。 それでも、蛇頭に支払う金額は300万と変わらない。 そういった密航男性中国人たちが日本に来て悪事を働きだすのに そんなに時間はかからなかったことだろう。


 「ワタシタチ7デショ、アナタタチ3ネ。」

 「おいおい、なに眠たいこと言いよんじゃボケ。」

 中国人グループが7割で、日本人が3割だと言う。

 「ミンナコレヨ。 イママデ ズットコレヨ。」

 「知るかそんなこと、折半にせんかい 折半に。」

 「ヨクカク ヨクナイヨ。」

 「日本じゃ昔からこんなのは、取り半って相場は決まっとんや、折半じゃい折半。」

 「アナタタチ ナニモシナイ。 オカネトリニイクダケダヨ。」

 「その取りに行くのが一番大事やないんかい。 そんときなんかあったらどうするんや?。 日本人やないといかんのやろ。 リスクは大きいやないか。 ほんとなら俺らが7でもええくらいや。」

 「ソレジャ ハナシニナラナイヨ。」


 他の人間が来たらまずいので、中国人達が宿泊してると言うホテルのラウンジに場所を移した、兄貴が来たら大変だ。 

 中国人達の持って来た話とはこうである。 中国人達が用意した 会社名義の銀行貯金通帳を使って、お金を引き出して欲しいとのことだ。 勿論、その貯金通帳は正規の物ではない 盗品である。 要領はこうだ。 まず銀行が開くと同時にATMに行く。 そこで通帳を入れ、通帳記入を選択するのだ。 盗難届が出ていれば、何らかのアクションがあるので 走って逃げる。 何らかのアクションとは、ブザーが鳴ったり、通帳が吸い込まれたまま出てこなかったり、警備員が駆け付けたり、と銀行によって違うらしい。 なんの問題もなく記帳されて出てきた通帳に関しては、まだ盗難届が出てないということだ。 そして、予め通帳とセットで渡されている 銀行印 捺印済み のお取引用紙に金額を記入し、窓口にて通帳と一緒に提出して お金を引き出すといったものである。 1回の上限は300万円までらしく、丁度 この中国人たちが、密航時に蛇頭に支払う金額と同じ金額なので 思わず笑ってしまった。 窓口で お取引用紙と、通帳を渡された行員は、通帳裏の印と お取引用紙に捺印された印とを目視で確認し、記入した金額を渡してくれる。 今考えると、目を疑ってしまうような光景だが、1999年 当時の銀行は どこでもこのスタイルで営業していたのである。


結局 中国人達は、折半で折れた。 いや、折れざるを得ないのだろう。 今から、仕事をする日本人を探す困難とを天秤にかけたら 折半でもいたしかたなかったのだろう。 仕事は明日の朝からで、何人の人間が要るかを 夜中連絡があると言うことで、その場を後にした。

 「しかし、淳。 ホンマ儲かるんかのぉ。」

 「どうですかねぇ。 あんなので大金がホントに入って来るなら、苦労はないんですがねぇ。」

 「おう、まあの。 で、人間はどうやって集めるや?。 一人はお前として、通帳一通に対して人間一人は集めんとのう。」

 「え、兄貴はやらんのですか?。」

 「当たり前やろ、俺は采配や采配。」

 「えー、ずるくないですか それ。」

 「アホ、ずるない。 主犯格が実行に手を染めてどうするんじゃい。」

 「はぁ、でも どうやって人間集めるんですか?。」

 「そうやのぉ、まぁ そこらのポン中やらなんやらに声かけてみぃ、なんぼでも集まるやろ。」

 ポン中とは、覚せい剤中毒者のことで、覚せい剤を買うお金欲しさに 何でもする輩が多い。

 「はぁ。」

 「報酬は、引き出した金額の一割や。 俺も何人か心当たりあたってみるわ、お前もがんばれや。」

 「はぁ、わかりました。」

 「なんやお前。 頼りない返事やのぉ。」

 「はぁ。」


 その夜、と言っても朝方の午前4時ごろ 約束どおり中国人達から連絡があった。 通帳は3通だ。 淳が一人 人間を連れてきたので、あと一人。 次郎は、清原と言うバンドマン崩れのポン中をあてることにした。 清原には何度か薬を段取りしてやったことがある、金の為なら何でもするような奴だ。


 「マズ、コレモッテATMイクデショ。 キチョウ スルデショ。 デテクルデショ。 マドグチイクデショ。 コレニキンガク カクデショ。 オカネモラウデショ。 タッタコレダケヨ。 カンタンネ。」


 まだ朝の5時だがミーティングを兼ねて一度集まることにした。 中国人達の中の1人 自称パルコがいとも簡単そうに説明している。 だが実際はそう簡単ではないだろう。 次郎は実行犯の3人にスーツ着用を義務付けた。 企業用の通帳なので背広の方が自然だからだ。 無い者には洋服のよこやまで一番安いセール品を用意してやる。 多少の出費だが仕方ない。 それともう一つ、中国人達に注文を付けていた。 金額100万以下の通帳に関しては実行しないと言う点である。 実行犯が逮捕された際、100万以上でも以下でも 罪はそう変わらないと考えたからだ。 被害弁償などは、初めからさらさら考えてない。 リスクが高い分、それに見合った報酬でないと人は集まらない。これには中国人達が難色を示したが、最後は伝家の宝刀 じゃあ、他をあたれ! の一言で解決した。


 「ええか、マジックで顔に黒子書くとか眼鏡かけるとか 何らかの変装もして来いや。」

 「え、なんでですか?。」

 「バカやの お前ら?。 カメラがあるやろが。 なるべくカメラに映らんように死角を通るように心がけや。 それと出来るだけ行員の印象に残らんように自然に振る舞えよ。」

 「はあ。」

 「あと、これや。 行く前は これでバッチリ手を洗うて行けや。」

 「なんすか、それ?。」

 「除光液や。」

 「除光液って、あのマニキュア落とすやつの?。」

 「そや、指紋が付かんらしいわ。 軍手してったら可笑しいやろ?。 ホンマはシンナーがええらしいけど、すぐ手に入らんやろ。 ま、代用品ちゅうことやな。」

 「へー、すごっ。 でもそれ誰から聞いたんです?。」

 「そこに居る中国人や。 中国三千年の歴史の知恵らしいわ。」

 「ははは、でも何か本格的ですね。」

 「アホ、本格的やなくて ホンマにやるんやホンマに。 よっしゃ、一度 解散や、各自取りあえず仮眠でもとっとけや。」


 仮眠を取るために一度解散したが、数時間ほどでまた集まった。 10時に銀行が開店するので、8時には集合した。 取りあえず、隣の市まで車で移動する。 ホントは、県をまたいでも良かったのだが 近場で済ませることにした。 本当に大金が手に乗るかどうか半信半疑だからだ。 わざわざ遠くまで移動して、1円にもならない なんてことにでもなれば目も当てられない。

 車は次郎が所有する 型おくれのパジェロと、清原が所有する年代物のジープに分散することにした。 淳 所有のシビックもあったが、これは置いていく。

 「いよいよっすね、兄貴。」

 「おお、頼むで 淳。」


 通帳は3通。 F銀行、十一銀行 の地方銀行2通と 都市銀行のみずき銀行が1通。 それぞれ 捺印済みの お取引用紙 と通帳を実行犯の3人に渡し 近くの100円パーキングに車を停めた。 F銀行と十一銀行が隣合わせになっていて、みずき銀行はその100メートルほど先にある。 その中間に100円パーキング位置する。 思わず笑ってしまう様な立地に、この計画が上手く行くような気がした。


 「ハタナカサン、ダメネ チュウシャジョウ トメタラ。」

 犯行を待つ車内でパルコが言ってきた。

 「なんでや。」

 「ニゲル ジカンカカルデショ。」

 たしかに、パルコの言うとおりである。 もし何かあった場合 悠長に駐車場に車を停めてたんじゃ話にならない。 おまけに駐車場には大抵カメラも備えてある。 軽率な行動に思わず自分を恥じてしまった。

 「ホンマや、ま、初めてなんで勘弁してくれや。」


 パルコに言われ、駐車場から車を出している時、淳が帰ってきた。


 「おう、えらい早いの。 ダメやったんか?。」

 「いや、はいコレ。」

 淳が 胸内ポケットから封筒を取り出す。

 「おお、成功か。 ナンボいったんや。」

 「130です。」

 「マジか?。 やったのうお前。」

 「楽勝っす。」

 この時ばかりは淳が いつもより大きく見えた。


 車内で淳とはしゃいでると、もう一人 淳が連れてきた奴が帰ってきた。 手には封筒を持っている。 金額は200万だと言う。 そして もうしばらくすると清原が410万円の大金を持って帰ってきた。 一度に引き出せる金額は300万円までなので、2回に分けて引き出したことになる。 一分一秒でも早く出て来たいはずなのに、2回に分けて同銀行で引き出してくるという離れ業をやってのけた清原は、なかなかの剛のものである。 こいつは使えると思った。


 「合計でナンボや?。」

 「740です。」

 「マ、マジか、マジでこんなんで金になるんか。」

 「ナルヨ ワタシタチ イッタデショ。 ウソ イワナイヨ。 タイキンヨ。」


 帰りの車内では、皆が饒舌になる。 まるで遠足にでも行くバスの中みたいである。 この金額をまず中国人達と折半して、実行犯の3人に一割、それを差っ引いても296万円の金額が次郎の手元に転がり込んで来る計算になる。 淳と清原に20万ずつの特別ボーナスを支払うことに決めた。 次も良い仕事をしてもらわないといけないからだ。 諸経費をざっと引いたとしても250万の儲けだ。 それも今日だけではない。 次郎にしたら、ちょっと車を運転して 車内でドキドキしながら短時間待機していたに過ぎない。 時給計算したら、いったい幾らの計算になるのだろうか。 運が向いてきたのだ。 今までのクソのような人生が、音を立てて崩れ去り 代わりに素晴らしい世界が福音と共に目の前に現れたのだ。 隣に座る淳を見つめ、初めて可愛いと思った。 まるで、足元にじゃれ付く子犬のようだ。 笑い合う中国人達を見つめ、もしかして妖精達ではないかと疑った。 さっきからしきりに話しかけて来るパルコを見つめ、本当は天使なのだと思った。 人の姿を借りて、自分の前に現れたのだ。 深い眠りからやっと目が覚めたのだ。 思い出した、この世界は楽園で、自分はこの国を治める王だったのだ。 



 その日を境に、生活は一変した。 毎日数百万の金が転がり込んで来るのだ。 まず、淳の名義でウィークリーマンションを借りさせた。 アジトである。 中国人達には、ホテルからそこに移ってもらう事にした。 そして これもまた淳の名義で車を一台用意した。 シルバーのホンダオデッセイ、勿論 中古車だ。 淳には実行犯、いわゆる(出し子)の仕事はさせないことにした。 その代わり、中国人達の仕事の手伝い 主に運転手やら雑用やらをさせることにした。 夕方くらいに中国人達を車で仕事先へ連れていく。 そして、朝方戻ってくるのだ。 仕事先は県外である。 仕事と言っても普通の仕事であるはずはなく、無論、犯罪である。 淳はその犯罪には加担しない。 車の中で待機である。 当時、ピッキング犯罪と言うものが流行していた。 金属の棒状で、先がフックみたいになっている物や、尖っている物 そういったピッキングという専用の道具を使って鍵を開け、家に忍び入り 金目の物を盗むのだ。 ピッキング犯罪のそのほとんどが、中国系不良外国人の犯行であった。 そのピッキング犯罪も手を変え品を変えして進化を繰り返し、一般家庭に入るのではなく、会社に侵入し、金庫から貯金通帳のみを摂取し、侵入した形跡を残さないようにして出て 後日、その預金を引き出すという手口が横行していた。 形跡を残さないようにして出てくるのは、発覚を遅らすためである。 中国系不良外国人といっても、上海系中国人グループと福建省系中国人グループとがあり 同じ中国人でありながら、その二つのグループは非常に仲が悪く、事あるごとに小競り合いを繰り返している。 上海系達は、福建省系のことを 田舎者の野蛮人だとさげすむ。 ホントか嘘かは確かめていないが、福建省の田舎とは 猪や熊と言った獣の毛皮を着て生活をしていて、隣の家と言えば 隣の山まで行かないといけないらしい。 勿論 電気も無いのだろう。 野蛮人と言うより、まるで原始人だ。 その福建省系中国人達は、上海系のことを イモ引きの腰抜けだと言う。 犯罪にしても、同じピッキングを使った犯罪でも、上海系のそれは 貯金通帳のみを摂取し形跡を残さないのに対して、福建系のそれは 金目の物を片っ端からさらい、酷い時には最後に火を付けて出て来ると言う大胆なものが多く、同じ中国人とは思えない犯行である。 次郎達に声をかけてきた中国人達は、上海系である。 パルコなど、事あるごとに福建省系の悪口を言いバカにしている。 しかし、通帳だけを持ってきてもお金は引き出せない。 銀行印が無いからだ。 はじめ、予め全銀行の取引用紙を持って行き 犯行時 その場で捺印して元に戻して出て来るのだと思っていたが、実はそうではなかった。 貯金通帳とその銀行印が同じ場所に保管しているとは限らない。 当然、用心深い人間なら別々の場所に保管するであろう。 仲良くなって後から聞いた話だが、実はプリントごっこを使うらしい。 お正月の年賀はがきをプリントする アレである。 通帳裏の銀行印部分をコピーして、予め用意している取引用紙の印の部分に プリントごっこを使って印刷するのである。 プリントごっこのインクリボン部分からインクを空にして、朱肉を入れ、それをインク替わりにして印刷すると 本当に捺印したようになるのである。 パルコ曰く、これも中国3000年の歴史だそうだ。 犯罪とは言え、何とも賢く 思わず関心してしまう。 言葉の通じない異国の地で、我々日本人が 同じことをしろと言われてもどうだろうか。 中国人達のそのバイタリティーには、脱帽だ。

 





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