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数日経ち、ザントの傷は完全に癒えた。


ナオは久しぶりに、薬草採りに来た。例の罠の件も考え、今回は村の近くでの採集にした。

ザントにとっては、久々の外の空気だ。

いつものように、ストックできる薬草を採取する。

ザントがすっかり元気になったことが嬉しくなり、ナオはつい鼻歌を口ずさむ。

根を薬にする薬草を抜こうとして、なかなか抜けずに引っ張っていると、いきなりずるっと抜けた。


「わっ!」

「あ、おい!」


ザントは支えようとしてくれたようだが、残念ながら間に合わず、ナオはぬかるみの中に盛大に尻餅をついた。


「・・・何やってんだよ。ったく」


腕を掴み、立ち上がらせてくれた。手のひらもドロドロだ。


「ああ・・・」

「すぐそこに川があったろ。洗ってこい」

「はい・・・」


ナオは少し、しゅんとした様子で川のほうに歩いて行った。

最近では山歩きに慣れ、この辺りならばザントもぴったりくっついて来なくていいと判断してくれている。


ザントは近くの倒木に腰を下ろした。

少し体がなまっている。

狩りをするまでに、もう少し山を歩いた方がいいだろうか。


その時、ナオが行った方向とは別の方から気配がした。

ザントは耳を澄ます。

狩人は、常人より耳がいい。


「・・・から、・・・って言って・・・」

「でも・・・」


人が2人。聞き慣れない話し方をする。このあたりの人間ではない。

平気で話しながら近づいてくるあたり、野盗の類ではなさそうだが。


ザントは持ち歩いているナイフを取り出しながら、木の陰に隠れて様子を見る。

がさがさと草をかき分け、男が2人出てきた。

軽装ではあるが、男たちの服は質がいい。村人ではないだろう。


「少し休憩しましょうよ」


背が低くて小太りな方がそう言い、早くも腰を下ろす。


「何言ってんだバカ。シャマール様は一刻も早く探して来いと仰ったんだぞ」


年上なのか、背がひょろりと高い方が、小太りを立たせようとする。


「そうは言っても・・・もうあれから、2か月以上でしょう?もっと遠くに逃げてるんじゃあ・・・」

「いや、所詮は小娘だからな。1人じゃ生きていけないだろう。誰かがかくまっていると考えた方がいい」

「おい」


ザントは自分から声をかけた。

隠れていて見つかったときの方が、言い訳が立たない。

自分から出ていった方が、有利に話を進められそうだと判断したのだ。


「お前たち、見ねぇ顔だな。こんなところで何の用だ?」

「近くの村の者か?」

「ああ、タシバ村の者だ」

「うちのご主人様が人を探していてね。この辺りに、最近居着いた女を知らないか?髪が明るい茶で、身長はこいつくらいの・・・」

「そうは言われてもな。この辺りは、よく迷い人が出るところだ。その女の特徴は?もっとねぇのか?」


ザントが尋ねると、小太りが得意げに言った。


「あるある!一番の特徴は、そいつの目がオッディ・・・」

「バカ野郎!」


ごん、と音がしたと思ったら、小太りが頭を押さえてうずくまっていた。


「言っていいことと悪いことがあるんだよ!このボケ!・・・あー、えっと、すまないが、これ以上は・・・」


ザントはあえて、追及しなかった。

今の言葉で十分だ。


「うちの村じゃ見かけねぇが、他の村のことは分からねぇ。ここから一番近くの村は、東に半日歩いたところだ。聞いてみろ」

「そうか。ほら、さっさと行くぞ」

「ああ、ちょっと聞きたいんだが」

「何か?」


背が高い方が、ザントをにらむ。

次の目的地ができたから、さっさと行きたいのだろう。


「最近、西の方であまり見ない罠を見かけた。あんたらのか?」

「・・・ああ、あれか。携帯食ばかりじゃ味気ないからな。何か捕まえて食おうと思って張っておいたんだ。まさか、あんたかかったのか?」


そのまさかだ。もちろん、言うつもりはないが。


「いや。気付いたから避けた」

「悪かったな。あまり狩りはしたことないから、適当に作ったんだ。それじゃあな、先を急ぐんで」


小太りを引きずり、男は東に消えていった。

ザントは考える。

探し人は、ナオのことだろう。

男たちが、ザントの話を信用したかも怪しい。

とりあえず別の村を教え、遠ざけはしたが、いつかタシバにもやって来るに違いない。

ナオの情報は、他の村に出してはいないが、だからと言って漏れていないとは限らない。


ナオの目・・・あれは見間違いではなく・・・。


「ザントさん」

「うぉっ!?」


急に声を掛けられ、ザントはつい驚いた声を上げた。

思ったよりも思考することに没頭していたらしい。ナオの気配に気づかないとは。


「あ、すいません。無事洗い終わりました。・・・誰かいました?話し声がした気が・・・」

「ああ、迷い人がいたから、道を教えといただけだ」


もしナオがターゲットなら、本人にこそいうべきなのだろう。

だが、ザントは言わなかった。

それは、ただの勘だった。

今は、話さない方がいい。まず、グエンあたりに相談した方が。


「そうでしたか。では、戻りましょうか」

「もういいのか?」


いつもよりも採取時間が短い気がする。


「ええ。頼まれていた薬があったのを、先程思い出しまして。戻って、作っておかないと」


ザントとしてもありがたかった。

この辺りをうろうろしていて、先程の2人組に会っては困る。

作り忘れた薬が気がかりなのか、ナオはいつもより速足で村に戻った。

そして着くなり、台所に籠って薬を作り始める。


「今日採取した薬草、ちょっと手間がかかるやつなので・・・」


ザントが食事の支度をしている間は、自室で薬作りをしていたようだ。

夕食の時間には台所に現れたが、どうにも落ち着かない。


「この後も、もう少し作ります」

「あまり根を詰めると、体がもたんぞ」


ナオが淹れてくれた食後のお茶を飲みながら、グエンがやさしく言う。


「そうですね。ほどほどにしておきます」


そう言って、ふんわり笑ってナオは台所を出ていく。

その後ろ姿は、すぐに暗闇に溶けて消えた。

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