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日が暮れても、ナオとザントが帰ってこないため、村から捜索隊が出たらしい。

おかげで2人とも、大事には至らずに済んだ。

体内の毒が消えたようだと医者に確認してもらったが、矢の傷が消えるまでは外出禁止をグエンに言い渡されている。


ナオは、丸1日休んだことですっかり回復した。

元々、怪我は何もしていないのだ。

ザントが休養中なので、家の中のことや庭の畑仕事などをして過ごした。


そんなナオを、ザントは自室の窓から見ていた。

今日もいつも通りに、ナオの前髪は下がり、その奥にあるであろう目は見えない。

あの日見たものは、幻だったのだろうか。

顔に傷なんかなかった。

その代わりにあった・・・あの両目は。


「ザントー元気ー?」


ノックと同時に入ってきたのは、リーザとトマだった。


「元気なわけねぇだろバカ」

「それだけ言えれば元気だね。立てるようになったんだ」

「一応な」


ようやく今日になって、ザントはベッドから出ることができた。

歩くとまだ足は痛むが、そこまで傷は深くない。すぐに治るだろう。

ベッドわきのイスに座ったリーザは、いつもは見せないような真剣な顔をしていった。


「ザントが見た罠について、詳しく聞かせて」


ザントはああ、と言い、ベッドに腰かける。


「ナオが、気付かずにかかっちゃったって言ってたんだけど」

「まあな。でもあれは、狩り用の罠じゃないかもしれねぇ。罠があるって印もなかったし、ここいらの村の連中じゃ、あの手の毒は使わないからな」


狩猟をする村はタシバ村の周りにもいくつかあるが、間違って人間が掛からないように、罠があるところには印をつける共通の習わしがある。

それがなかったということは。


「習わしを知らない外の者か、狩り用ではないか・・・」


トマのつぶやきに、ザントが頷く。

敵か、味方か。こちらに害がなければいいが。


「危なかったねーザント!ナオが毒を消してなかったら、死んでたかもよ?」


リーザのその言葉に、毒消しの処方の仕方を思い出してしまった。

いくらなんでも、あんな方法を取らなくたって。嫁入り前のくせに。


「ザント?おーいザントー?」


突然仏頂面で押し黙ったザントの目の前で、リーザが手をひらひら振る。


「何でもねぇよ。・・・それ、あいつから聞いたのか?」

「うん、ナオが言ってたよ。自分のせいでザントが死ぬかと思ったって」


ザントが自分の部屋で目覚めてから、一度もナオと顔を合わせていない。

寝ている間には、何度か怪我の具合やザントの顔色を見に来たという話だが。

どうやら、リーザにこぼしたことが原因らしい。


(・・・ったく)


そんなこと、気にされても迷惑だ。

こっちは命を助けてもらったんだから、何を気に病む必要がある?

リーザとトマが帰った後、ザントはゆっくり階段を降りた。

食堂を見ると、ナオがイスに座って、ぼうっと窓の外を眺めている。


「おい」

「ひゃいっ!」


急に声をかけたためだろう。ナオが返事とも叫びとも言えないような声を上げた。


「あ、ざ、ザントさん・・・あの、お体は・・・」


ザントから微妙に目線を逸らしつつ尋ねてくるナオに、ザントは苛立ちを覚える。


「気にしてんじゃねぇよ」

「え?」

「罠に引っかかったのはお前だが、お前がいなかったら俺は死んでた。お前が毒矢を食らってたってお前は死んでただろう。俺は毒消しなんてできねぇからな。結果的に2人とも死ななかった。それはお前のおかげだ。だから、気にすんじゃねぇよ」

「でも、そもそも、罠にかからなければ・・・」


弱弱しく反論するナオの言葉にかぶせるように、ザントは言い重ねる。


「仕方ねぇって言ったろ。あれは、見つけられる罠じゃねぇ。発見するのは難しい。遅かれ早かれ、どちらかがかかっていた」


いいから普通にしろよ、とザントが言うと、ナオは頷いた。

顔を上げ、今度はきちんとザントの顔を見て、にっこりと笑う。


「ザントさんが、無事でよかったです」


その口元を見て、また例の処置を思い出してしまい、ザントは赤くなった。


(こいつは何も思わねぇのか?)


ナオはというと、「ザントさん?どうしました?」と平然と聞いてくる。


(くそ、俺だけかよ!)


イラッとしつつ、「何でもねぇよ」と言い残し、ザントは食堂を後にした。

階段を慎重に上がりながら、イライラする気持ちを持て余す。


ここ数日、ザントは家にこもりっきりだったため、ナオを訪ねてくる客の多さに気付いていた。

それも、若い独身男性がやたらに。

ザントはおもしろくなかった。

そして、なぜおもしろくないと思うのか分からず、余計にむしゃくしゃするのだった。


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