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狩りのない日に薬草取りに行くことを繰り返し、ナオは大体の植相を把握した。

この辺りは山あり、川あり、湿地ありと、いろいろな環境が整っているので、それぞれに生える薬草が採り放題だ。

そういったことに長けた人がいないらしく、野放しになっていたため、希少な薬草も多く自生している。

ナオにとっては、宝島のような場所だった。


ここでの暮らしは快適だ。

グエンは親切だし、リーザとトマはいろいろと世話を焼いてくれる。

ザントは相変わらず、いい人なのか悪い人なのか分からないが、特に可も不可もなく。


ただ、他の村人とは、相変わらず疎遠だった。

村の人たちの役に立ちたいと、少しでもコミュニケーションを取ろうとするが、ナオの姿が見えると、よそよそしく立ち去ってしまうのだ。

タシバ村についてまだ10日も経っていない。

仕方がないだろうと思いながらも、心の中では寂しさややるせなさが募っていった。




ある夜、眠りにつこうとしていたナオの耳に、玄関のドアをノックする音が聞こえた。

慌てているのか、何度も繰り返しどんどんと叩いている。

上着をひっかけ、下に降りていくと、グエンと話している客人の顔が見えた。

オミットだ。


「どうしました?」

「ああナオ、オミットのところのアロムがな、高熱と咳でうなされているようじゃ。急に体調を崩したとか」

「高熱と咳・・・」


アロムは、聞いたところによるとまだ4歳。

大人より体力がないので、高熱が続くことは命にかかわる。


「水は?飲めていますか?」


ナオが尋ねると、父であるオミットが青い顔のまま答える。


「あまり飲もうとしないんだ。咳き込んで吐いてしまって・・・」

「とにかく医者じゃ。夜道でも動ける者・・・ザントとイエゴに行ってもらおう」

「グエンさん。お医者様がいらっしゃるまで、私が診ます。何もしないよりはマシなはずです」


ナオの申し出に、オミットが戸惑いを浮かべる。


「オミットさん。気持ちは分かりますが、このままではアロム君が危ないです。お医者様がいらっしゃるまで、2日ほどかかります。幼いアロム君では、体力がもちません。できる限りのことをします。私に、アロム君を診させてください!」


頭を下げるナオの肩に、グエンが手を添えた。


「オミット、ナオの腕はわしが保証する。でき得る限りのことをしよう。タシバ村の子どもは、タシバ村全員の子どもだ」

「・・・分かりました。お願いします」


ナオは急いで台所に保存していた薬をいくつか持ち出し、オミットについて家に行った。


ベッドに寝かされたアロムは顔を真っ赤にし、ゼイゼイと苦しそうに呼吸していた。

母のエレンナは、アロムの背中や胸をさすりながら、狼狽し、憔悴しきっているのが見て取れた。

ナオはアロムの額に手を当てながら言った。


「首筋やわきの下を冷やしましょう。呼吸を楽にする薬を持ってきました。これを焚いて・・・。後は水と、ルトをお願いします」

「ルトですか?」


ルトは調味料だ。この場では意外な名前が出て、不思議そうに聞き返すエレンナに、ナオは説明する。


「食べられない時は水分と、少しのルトが重要なんです」


アロムを見ると、熱のせいが汗をたくさんかいていることが分かる。

一度、着替えさせた方がいいだろうか。


「アロム、聞こえる?咳の薬を持ってきたからね。ゆっくりでいいから飲んで」


アロムの上体を起こし、薬と水を少しずつ与える。

朦朧としながらも、アロムは薬を飲んだ。

効果が出るまでは時間がかかる。他にできることは何だろう。

命が助かるどうか、それは結局、本人にかかっている。

薬師、しかも見習い程度のナオには、症状を少しばかり抑えることができるくらいだ。


『命にかかわることには、全力で取り組め』


父がよく言っていた言葉だ。


「全力でやって、それでも救えなかったら?」


まだ幼かったナオが尋ねると、父は言った。


「それは、そういう運命だったのだから仕方ない。私達やお医者様たちは、神様ではないから、救えない命もある。だが、努力次第で救える命があることもまた、覚えておかねばいけないよ」


少し薬が効いてきたのか、アロムの呼吸が穏やかになってきた。

しかし油断は禁物だ。幼子は体調が急変しやすい。

ナオは泊まり込み、オミットやエレンナと共に看病を続けた。

翌日の夕方、ザントとイエゴが医者を連れてきた。


「だいぶ容態が安定しておるな。初期対応がよかったんじゃろう。このまま安静にしておれば、明後日には回復するじゃろうて」


アロムを見た医者は、感心したように言った。

一緒に話を聞いていたナオは、医者の言葉を聞いてほっとした。

そっとアロムの部屋を出る。


自分にできることはここまでだ。


そう思った時、意識がプツッと途切れた。

一睡もしないまま、ろくに休憩もとらずに看病していたため、気を失ったのだ。


「おい、こんなところで寝んじゃねぇよ」


誰かが倒れるナオを支えてくれたが、それが誰だったのか、ナオには分からなかった。

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