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翌日は雨、その翌日は再び狩りの日、そのまた翌日は狩り、その次は雨・・・と続き、結局ナオが森に行くことができたのは、1週間後だった。


採取には、ザントがついてきている。

ナオとしては、話しやすいリーザかトマについてきてほしかったのだが、ザントに却下された。

曰く、「リーザは話に夢中になって罠を見逃す。トマは半人前。これ以上狩場を荒らされてたまるか」とのこと。


特に話すこともなく、2人は黙々と歩いた。

しばらく進むと、木々がまばらになり、様々な草が生い茂っている場所に出た。


「うわあ・・・!」


ナオは感動のあまり、自然に声を上げていた。


「あ、これ解熱の。あ、こっちは腹下し用。鎮痛剤に咳止めに化膿止め・・・こんなにあるなんて・・・」


熱に浮かされたように呟きながら、目を輝かせて草を取り始めるナオを、ザントは観察していた。


(こんな草に、そんな価値あるのか?)


「それは煎じて飲むと体が温まるんですよ、ザントさん」


考えが顔に出ていたらしい。

ザントの目の前の草を摘みながら、ナオが教えてくれた。


「ただの草に見えますし、実際ただの草なんですけど、効能と使い方を知っていれば、薬になります。お医者さんに見ていただくのが一番ですが、そうもいかない時が多いですから。軽い症状なら、対応できますよ」


にこにこと嬉しそうに言うナオから、ザントは顔を逸らした。

こんなに明るいナオを見たのは、初めてだった。


「そうだ、ザントさん!村の方々の持病とかかかりやすい病気、ご存じないですか?」

「あ?何だそりゃ」

「それが分かったら、効く薬を作っておけるじゃないですか」


先に聞いておくんだったと言いながら、ナオは草とにらめっこしている。


「一通り作っておけばいいじゃねぇか」

「まあそうなんですけどね・・・。作り置きできるものと、そうでないものがあるんです。乾燥したり加工したりして保存できるものは持って帰りますが。それに、薬草だって、いつでも確実にここに生えているわけではないですし。取り過ぎて、無くなってしまうこともあります。狩りと同じですよ。『必要最低限しか獲らない』」


リーザに先日習ったことを持ち出してナオが説明すると。


「何、知った風な口きいてんだ」


ザントには冷たくあしらわれてしまった。

ナオはめげずに、目の前の薬草たちの種類を覚える。

持って帰れないものは、頭に叩き込む。

薬草があることを知っていれば、いざというとき役に立つかもしれない。


「・・・腰痛」

「え?」


集中しすぎて、ザントのぼそりとした声を聞き損ねてしまう。


「くそジジイが、歳だから腰が痛ぇって言ってた」

「グエンさんが?じゃあ、飲み薬と膏薬も持って帰りましょう」

「あとの奴らは知らねぇよ。自分で聞け」


何だかんだ、ナオの言ったことを考えてくれていたらしい。少しほっこりした気持ちになる。

その後もいくつかの薬草と、薬作りに使えそうな石などを持って帰り、ナオはさっそく台所を借りて薬作りを開始した。

採ってきた植物の葉、花、実、根などを、水に漬けたり、煮たり、すり潰したり、天日に干したり・・・。

ナオは記憶を探り、間違えないようにしながら、慎重に作っていった。

両親と共に作った日々を思い出し、つい感傷に浸りそうになる。

頭をぶんぶんと振り、目の前の薬作りに集中する。

夢中になって作っていると、あっという間に日が暮れていた。


「おい」

「はいぃぃっ!?」


急に声を掛けられ、ナオは飛び上がらんばかりに驚いた。


「まさか夕飯が薬のフルコースとか言うんじゃねぇだろうな」

「・・・いけない!夕食当番!」


ここでの生活に慣れてきたナオも、先日から食事当番のローテーションに組み込まれている。


「どうしよ、一度片付けて・・・あ、でもまだ煮込み途中の・・・あ、えっと・・・熱っ!」

「馬鹿!鍋触んな!」


慌てすぎて、火にかけている鍋を触ってしまったらしい。

ザントが火傷した方のナオの手をつかみ、流水に浸す。


「ご、ごめんなさい・・・」

「ったく。何やってんだ。危ねぇだろうが」

「はい・・・。あ、夕飯!」

「いいから、冷やす!」

「はい・・・」


そのまましばらく、ザントはナオの手を冷やし続けた。


「こんなもんか?おい、火傷に効く薬とかねぇのかよ」

「今日行ったところにはありませんでした。あ、でも大丈夫ですよ、これくらい」


安心させようとザントの方を向いて、その近さにナオは赤くなる。


(男の人にこんなに近づいたの初めてだ・・・)


「おい」

「はいっ」

「痛むようならもう少し冷やしとけよ」

「あ、はい・・・」


ザントは距離の近さなど気にしていないらしい。

ナオの手を離すと、食堂に行ってしまった。

ナオはよく冷えた手を、自分の頬に当てる。


(みっともなく、赤くなってないといいけど・・・)


「何やってんだ」

「うひゃあ!」


急に後ろから声を掛けられ、ナオはまたまた驚いた。

今日はよく驚かされる日らしい。


「ザントさん・・・部屋に戻ったのかと」

「んなわけねーだろ。おら」


ぽんと、紙の包みをナオに投げてよこす。


「これ・・・?」

「来週1週間、お前の当番だからな。時間考えてやれよ」


そう言い残すと、ザントは廊下に出ていってしまった。

階段を上る音がする。今度こそ、自室に戻ったらしい。

ナオは紙の包みを開けた。

そこには、パンの間に保存用の干し肉と、少しの野菜が挟まったものが入っていた。


「・・・いい人・・・なのかな?」


ナオは呟きながら、もらった夕食を食べて、薬作りを再開するのだった。

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