頼まれごと
昼食を終えて学食を出る。
洸「しかし、意外と旨かったな~」
榎梨「洸君のお気に召したよーでなによりだよ~」
椿「ふふ、たまには学食も良いものですよね」
俺達が話しているなか楠木は一人距離を開けて黙ったままだ。
洸「…………」
楸「…!なんですか?先輩」
俺の視線に気づき少し不機嫌そうに聞いてくる。
洸「…いや、なんで離れてんだろうって思って」
楸「そんなの、自分の勝手じゃないですか…ほっといてくださいよ」
洸「う~ん…それは、できないないなぁ」
そう言いながら楠木の歩調に合わせて楠木の隣にならぶ。
楸「なんでですか…」
洸「だって、お前ほっといたら…いや、なんでもねぇ」
楸「なんですか…言ってくださいよ」
洸「やだ」
楸「子供ですか…途中でやめられると気持ち悪いんで言ってください」
洸「そのうちな」
楸「…ほんとめんどくさいなぁ…この先輩は」
洸「…めんどくさくて結構」
楸「独り言なんですから聞き流してくださいよ……」
俺と楠木が話している最中前を歩いている宮本と先輩がこちらを見ながら二人で笑っていた。
椿「あの二人は仲がいいんですね」
榎梨「基本的に洸君が話をしてるだけのよーですけど……洸君、昔からいろんな人に話しかけたりするよーな子供だったんですよー、と言っても同い歳くらいの子にはウザがられたりしてやしたけど」
椿「エリー、いつも思っていたのですが貴女の言葉使いはどうにかならないのですか?」
榎梨「あはは…昔からの癖みてーなもんで直らねーんですよ」
椿「駄目ですよ?女の子なんですから言葉使いにも気を使わないと…」
榎梨「ぶちょ~お説教なら後で聞きますからやめてもらえねーですか~」
あっちはあっちで楽しそうだな……。
俺がそう思っていると階段前に到着する。
洸「じゃあ楠木、また後でな?」
楸「自分としてはもう会いたくないんですけど」
洸「そう言うなって、じゃあな」
楸「はいはい……」
楠木はめんどくさいと言わんばかりにため息をつき、教室のある方向へ歩いていった。
榎梨「一年生は学食から近くて羨ましー」
洸「……宮本」
榎梨「ん?なにかな?」
洸「お前はなんで俺の肩に顎を乗せてるんだ?」
榎梨「ぶちょーのお説教で疲れたから」
洸「……そうか、それじゃあさっさと教室に戻って自分の席で寝てろ」
榎梨「え~…一人で戻っても仕方ないじゃ~ん」
洸「稲叢先輩と一緒じゃなかったっけ?」
榎梨「ぶちょーは用があるからって先に行っちゃったよ?」
洸「そうなのか?それなら俺達も教室戻るか」
榎梨「洸君おんぶして~」
洸「やかましい」
宮本がちょいちょい挟む冗談に苦笑いを浮かべながら
俺と宮本は教室に戻る。
竜悟「おっ!戻ってきた」
教室に入ると雨宮が近くに来る。
洸「なんだ?なんかようか?」
竜悟「用事っつーか次の授業が霧ちゃん先生が体育にするってクラス連中に伝えとけっていわれたから連絡してまわってんだよ」
榎梨「あれ?次の授業って確か数学だよね?」
雨宮「霧ちゃん先生がグラウンド使えそうだから体育にしようって」
洸「適当だな」
雨宮「なんでも、二年の貴族クラスが野外実習てーのをやるから居ないらしい、じゃあ俺っちも着替えて来るから神前も早くしろよ?」
洸「あっ、おい‼待てこら‼宮本俺いくわ」
榎梨「うん、じゃあグラウンドでね」
そう言って雨宮を追いかける。
竜悟「おっ!神前一緒に行くか?」
洸「ああ、つか一緒に行かねーとわかんねーんだよ‼」
廊下を移動しながら雨宮と話す。
洸「それより、俺体操服持ってねーんだけど?」
竜悟「それなら平気だぜ!更衣室のロッカーに毎年新しい体操服が用意されるから更衣室に行けば体操服がはいってる」
洸「ほんっとこの学園って変わってるよな」
竜悟「まぁ、この学園が建てられた理由事態変わった内容だった気がするし、そこら辺は気にするだけ無駄じゃね?」
洸「そうなのか?」
竜悟「ああ、よく覚えてないけどな」
そう話している内に更衣室に到着し早々と着替えを済ませてグラウンドに向かう。
そして、先生の指示により競技はドッヂボールに決定した。
洸「……競技がドッヂボールなのはいい…でも…」
榎梨「ふっふっふっふ」
竜悟「神前~あとは頼んだぜー‼」
元々一クラス40人で20人対20人でのドッヂボールとなれば時間が結構掛かる筈だなのに……開始十分足らずで俺だけ残して全員アウト……それと言うのも相手に宮本が居るせいだ…。
洸「…なんでお前は俺を最後に残すんだよ!」
榎梨「そんなの決まってるじゃねーですか…僕が君と本気の勝負をしたいからだ…よ!!」
洸「いって!!本気投げかよ…怪我したらどうすんだ…」
キャッチしたが手が痺れるほどの豪速球…ソフトボールかなんかしたほうがいいんじゃないかと思うほどの球だ。
榎梨「ちぇ、取られちゃったか…でも次はないよ」
こいつはなんでこんな本気なんだよ…めんどくせぇ。
洸「……どうしようかねぇ、このまま負けるのも癪だし…すぅ……ふぅー……」
俺は深呼吸をして構える。
榎梨「!!」
宮本もなにかを察知して本気の構えする。
洸「……行くぞ…」
榎梨「……いつでもどうぞ」
洸「…ぜいっ!!!!」
榎梨「…ふぅ…神前流格闘術……流れ星!!」
宮本はそう言って技を繰り出す。
神前流格闘術…俺の祖父が教えていた格闘術で剣術だけだと剣が奪われたり使えない状況のために作られた。
宮本は格闘術を初伝までの技なら使えるが……。
洸(それじゃあ、止められないぜ)
流れ星…初伝の技の中でも使いやすい技だが実質ただの蹴り上げだ…その技では回転をかけたボールは……。
榎梨「うっそ⁉」
横に吹っ飛ぶ。
雨宮「へぶっ!!!!」
洸・榎梨「「あ……」」
宮本が蹴ったボールはあらぬ方向に飛んでいき雨宮の顔面に直撃した。
霧香「宮本アウトだぞ~外野いけー」
洸「…雨宮放置っすか」
霧香「雨宮ならほっといても死ぬ訳じゃないし、気にするだけ無駄だ」
洸「…………」
竜悟「よくわかってらっしゃるね~」
マジか……本当に全然動じてない丈夫すぎんだろ。
榎梨「あ~あ、負けちゃった~……洸君!!次は負けないよ‼」
洸「次がないことを祈るわ」
俺はため息をつきながら相手側から投げられたボールをキャッチする。
そのあと、俺が一人で残りの18人にボールを当てて試合終了。
俺も結構負けず嫌いだなぁと思いつつ伸びをする。
洸「ふぅ、疲れた~……」
榎梨「流石だねぇ~洸君!」
洸「うるせぇよ」
霧香「五分休憩したらチーム変えてから2回戦始めっぞー‼」
洸「……次も宮本と違うチームだったらしんどいな」
榎梨「なに?遠回しの告白?」
洸「違うわ、アホたれ」
榎梨「あははは」
その後、4試合して4試合中3試合が宮本と違うチームになり、俺は結局しんどい思いをし続けたのは言うまでもない。
そして放課後になった。
洸「……帰るか…」
榎梨「あ‼洸君まって!!」
洸「んー?」
榎梨「今日も剣道部によってってよ」
洸「……なんで?」
榎梨「ほら、昨日男子剣道部が居なかったし今日なら見学できるよーって」
洸「……なにか…隠してないか」
榎梨「……カクシテナイヨ?」
洸「目をそらすな」
榎梨「ソラシテマセンデゴザイマスヨ?」
洸「………………」
榎梨「……うぅ」
洸「…………………………」
榎梨「わかった‼わかったから!!言う!言うから!!黙ったまま帰ろうとしないで‼」
洸「で?なんで俺を連れていこうってんだよ?」
榎梨「……僕に告白した男の子が居るから…」
洸「…まえに断ったって言ってなかったか?」
榎梨「…断った筈なのにしつこく言い寄って来るんだよ…」
洸「それで、俺になんとかしてほしいって?」
宮本が黙ったまま頷く。
俺は少し考えてから宮本のお願いを了承した。
─場所:剣道場─
榎梨「こんにちはー」
洸「失礼しまーす」
楸「なんで自分まで……」
洸「まぁまぁ、旅は道連れって言うだろ?」
楸「はぁ、まさか帰ろうとしてる最中に捕まるとは思いませんでしたよ」
そう言いながら楠木が大きなため息をつく。
椿「あ、神前君に楠木さん!いらっしゃったんですね」
洸「宮本に捕まっただけですよ」
楸「自分は神前先輩に捕まりました」
椿「え?…え?」
先輩が困惑した表情を浮かべている。
榎梨「おっまたせーい」
話していると着替えを済ませた宮本が戻ってくる……っていつの間に着替えにいってたんだ?
洸「……お前、いつの間に着替えに行ってたんだ?」
榎梨「え?それなら入ってきてすぐだけど?」
楸「先輩気づいてなかったんですか?」
洸「ああ、全然」
俺達が話をしていると一人の男子剣道部員……?
洸「あれって…学食で会った…」
寿樹「貴様!?なぜここに!!?」
洸「いや、連れてこられたからだけど…そっちこそなんでいるんですか?」
椿「そういえば言ってませんでしたね…彼は男子剣道部の部長を務めているんですよ」
洸「そうだったんですか…でも、ちゃんと練習をしているようにはみえませんけど?」
寿樹「どんな試合でも勝つと分かっているのに練習する必要があるのか?」
洸「………はぁ」
寿樹「なんだその空返事は!!」
洸「いや、別に…」
椿「倉野君、今日西城君は?」
寿樹「いえ、庶民の事はわかりませんので」
椿「そうですか…」
洸「…誰なんですか?その…西城って人は」
椿「それは…その……」
少し言いにくそうに顔をそらす先輩に替わって宮本が先に答える。
榎梨「元男子剣道部のぶちょーさんだよ!と言っても貴族クラスの生徒が男子剣道部を乗っ取ってからはあんまり顔を出さなくなったけどね~」
寿樹「乗っ取ったとは聞き捨てならんな、宮本女史」
榎梨「あはは!!だってほんとのことじゃねーですか(ボソッ)」
洸「落ち着け」
─スパンッ─
榎梨「あうぅ」
洸「お前、なんか変だぞ?なにそんなピリピリしてんだ?」
楸「…ピリピリしてるんですか?あれ?」
洸「ん?ああ、まぁ、雰囲気を感じるって程度だけどな」
榎梨「……ピリピリしてないもん…」
洸「…はぁ…ムキになってるし……」
榎梨「なってねーです……」
洸「…楠木…どうしたらいいと思う?」
楸「自分に聞かないでください」
竜悟「まぁ、実際かなり鬱陶しかったんだろうな~宮もっちゃん」
洸「お前はお前でなんでいるのか聞きたいんだけど?」
竜悟「こんな面白そうなイベントをほっとけるわけないっしょ?」
洸「なにをするのかわかってついて来てたのか?」
竜悟「いや、全然!!ただのカンってやつ?」
楸「……先輩のまわりって変な人多いですよね…」
竜悟「おお‼可愛い女の子引き連れちゃって‼すみにおけないね~このこの!!」
洸「うっさいわ」
楸「……先輩…この人…うざい」
竜悟「あっちゃ~ストレートに言われちゃった~!」
楸「いちいちオーバーリアクションなのが鬱陶しいんです!」
そう言って俺の後ろに隠れる楠木…こいつ俺の事嫌いとか言ってるくせになんで俺の後ろに隠れるんだ?
わけがわからん。
椿「神前君、少しいいですか?」
そう言って俺の腕を掴み引っ張る。
洸「え?あっ!ちょっと?!」
楸「あ、先輩!?」
竜悟「…行っちゃったな~、俺っちたちも仲良く談笑しないかい?」
楸「黙ってください、近づかないでください、はやく視界から消えてくれませんか?」
竜悟「おぉう…手厳しい……」
その話し声を後ろに危機ながら俺は稲叢先輩に手を引かれ剣道場を出る。
椿「………誰も居ませんよね?…」
そう言って誰もいないことを確認してから先輩が俺の方を向く。
椿「あの…神前君にお願いしたいことがあるんですけど!」
洸「…はいっ?!なんで……しょう…か……」
いきなり身をのりだし急接近してくる先輩に驚き数歩後退る。
椿「西城君を探してもらえませんか?」
洸「…え?…どう言うことですか?」
椿「実はここ数日程、西城君は学園に来てないんです」
洸「いや、俺が聞きたいのはそう言うのではなくて……とりあえず、少し離れましょうか…近すぎてちょっと……困るんで」
椿「え?……あっ!えと……その、あの…すいません…」
そう言って恥ずかしそうに俯きながら離れる先輩に俺はさっきの質問を聞き返す。
洸「それで、さっきの質問なんですが…俺はなぜ西城さんって人を探さなくてはいけないのかってことを聞いたんですけど?そもそも、俺はその人に会ったことすらないんですよ?」
椿「……それは、神前君なら西城君ときちんと話が出来るんじゃないかと思いまして」
洸「全然話が見えてこないんですけど?」
椿「えーっと……つまり…西城君を捕まえてきてくれませんか?」
うわー…いきなり話が物騒な方向に……。
洸「……嫌です」
椿「………え?」
洸「……………………」
椿「なぜですか…?」
洸「顔を知りませんし…理由もなく捕まえることなんて出来ませんよ…それに今は……」
楸「先輩!!」
俺が言葉を伝える前に楠木が慌てたようすでやって来た。
洸「楠木?どうしたんだ?何かあったのか?」
楸「あの、えーっと…神前先輩の知り合いの先輩が大変なんです!!」
洸「は?知り合いってどっち?チャランポランな方?それとも誰彼構わずちょっかいかける方?」
楸「ちょっかいかける方です!」
椿「その判断の仕方おかしくありませんか?!」
先輩が律儀にツッコミをしていたが、宮本の様子的にほっとくと危険だと思い剣道場に戻ることにしたのだった。
~おまけ 学食にて~
洸「んじゃ、そろそろ飯食うかね~…ん?」
榎梨「どうしたの?食べないの?」
洸「……宮本…ひとつ聞いて言いか?」
榎梨「なに?」
洸「なんでスパゲティにじゃがバターが乗ってるんだ?そもそもなんか盛り付けがかなりカオスな状態なんだけど?」
榎梨「さっきも言ったじゃねーですか…ここはお金持ちのために作られたって」
洸「…それが?」
榎梨「簡潔に言うと貴族側の盛り付けはちゃんと整えられているけど、庶民側は雑にしか盛り付けられねーってやつですよ」
洸「なるほど、確かに先輩の皿と比べてかなり雑になってるな」
榎梨「でも、味は最高なのが悔しいんだよねー」
洸「マジだ…めちゃくちゃうめぇ……」
学食の飯は味がいいのに盛り付けは最悪だったと知り、次からは弁当を忘れないようにしようと
誓った日だった。