また明日…です。
剣道部の練習が終わり俺たちは帰り支度をして校門に向かった。
外は日が沈み始めていて夕方になっていて、
柊は人酔いで疲れたのか眠ってしまい、今は俺がおんぶしている。
洸「……今さらなんだが、男子部員がいなかった気がするんだけど?」
榎梨「本当に今さらだね…」
宮本は呆れたように苦笑いを浮かべている。
椿「男子剣道部の方々は練習試合で他校に行ってるんですよ」
洸「へぇ、そうなんですか」
榎梨「たいして強くないんだけどね~」
宮本はふてくされるように呟く。
椿「エリー?そうゆうことはあまり口に出さない方がいいですよ?」
榎梨「はーい」
洸「強くないって……どうゆうことだ?」
俺が聞くと宮本と稲叢先輩が顔を見合わせてから俺に教えてくれた。
榎梨「男子剣道部はお坊っちゃまが多いって話したよね?」
洸「ああ、先生方もそいつらの味方してるって話か?」
榎梨「そ、でさ金握らせて相手にわざと負けてくれって言ってるんだよ」
洸「ふ~ん、だけど純粋に剣道をやってるやつはそんなの了承しないだろ?」
椿「はい、確かにその通りなのですが…選手だけでなく審判にも賄賂を渡しているので審判の方がこちらの要求を飲んだ場合……」
洸「ちゃんとしたジャッジをしてくれないってことですか?」
稲叢先輩は黙って頷き、呟いた。
椿「どうして、人はこんなにも愚かなんでしょうね……」
その言葉に対して俺は稲叢先輩に言葉を投げる。
洸「それは多分……人だからじゃないですかね?」
椿「え……?」
洸「人だから過ちを犯すし、人だから過ちを後悔することもできる……だから…愚かでもいいんじゃないですか?」
稲叢先輩はポカンとした顔で俺を見ていた。
俺は自分で言った言葉を思い出して少し恥ずかしくなっている。
多分今俺の顔は赤くなってるだろう。
榎梨「洸君……その台詞……クサイ!!」
洸「ううううう、うっさい!!わかっとるわ‼んなこと!!」
俺は宮本にツッコミを入れられ動揺と恥ずかしさで
正直死にそうな状態だった。
洸「そんな事よりさっさと靴履き替えて帰るぞ!!
宮本、柊の靴を履き替えさせてくれ」
榎梨「わかった~」
椿「フフ……楽しい時間はあっと言うまに過ぎてしまいますね」
校門を出たところで稲叢先輩と別れる。
椿「では、ごきげんようエリー、それから神前君と…上島さん……は眠ってましたね」
洸「起こしましょうか?」
椿「いいえ、気持ち良さそうに眠っていますので遠慮しておきます では、また明日」
榎梨「はい‼また明日です部長」
洸「道中気を付けて帰ってください」
椿「はい、ありがとうございます」
俺と宮本は稲叢先輩と別れて帰る。
洸「しかし、転校初日だってのにスゲー疲れたな~」
榎梨「とか言いつつ、顔がにやけてるよ?洸君」
洸「……まぁ、転校してきて昔からの友人に会えて、
ほっとしてるのかもしれないな」
榎梨「なにそれ~?告白?」
洸「ちげーよ」
俺と宮本はお互いに冗談と昔の話をしながら家路を歩く。
そうしているうちに家が見えてきた。
学園に行くさいは気にしていなかったが家のとなりに喫茶店があった。
洸「へぇ、家の隣にこんな喫茶店があったのか」
榎梨「ああ、僕の家だよ」
洸「……今なんて?」
榎梨「僕の家…言ってなかったっけ?」
洸「宮本の家が喫茶店だったのは知ってたけど……まさかお隣さんだとは……」
榎梨「僕もだよ…寄ってく?」
洸「やめとくよ…柊を早くベットに寝かしてやりたいし」
榎梨「そっか……まぁ仕方ねーですね…じゃあ、洸君
また、明日」
洸「おう」
俺は宮本と別れて家に入る。
~視点変更 椿・場所 稲叢邸~
椿「ただいま戻りました」
私は神前君たちと別れて家に帰りつき言葉を発する。
しかし返事は帰ってこない。
椿「……いつものことですものね」
そう呟きながらお屋敷の自分の部屋に向かいます。
お父様は大企業の社長で遅くまで仕事をしている。
お母様は社長秘書でいつもお父様と一緒にいる。
そのため私は家に帰るといつも一人です。
椿「……今日はいつもより楽しかったですね…その分家に帰れば少し寂しい気がしますが……」
神前君…エリーの昔からの知り合いでよく話を聞いていましたが……。
椿「他の殿方とは明らかに違う方でした……」
私は自分の部屋に入り着替えを始める。
椿「…胸が少しきつくなってきましたね……」
自分の胸が成長していることに少し憂鬱を感じる。
胸が大きくても剣道をする際に正直いって邪魔になって仕方ありません。
椿「…エリーにこの事を言ったらどうゆう反応をするんでしょう?……きっと、怒るか泣いてしまいますね」
そんな事を考えながら私は着替えを済ませ部屋を出ます。
椿「今日のお夕飯どうしましょう?」
私はご飯のことを考えながら買い物の準備を済ませてだれもいない家に言葉を発する。
椿「……では、いって参ります」
もちろん、返事は帰って来ません…でもいつものことですね……。
私は家の扉を静かに閉じた。
~視点変更 洸・場所 上島家~
洸「ふぅ……やっと一息つける」
俺は柊を部屋のベットで寝かせてリビングへ移動する。
洸「……晩飯どうしようかな?……柊が起きたときのために柊の分も作るとして……いや、まずそれより…冷蔵庫中がほとんどなにも入ってないから買い物いかねーと……」
そんな事をぶつぶつ呟きながら買い物の準備をして、自分がまだ制服であることに気付きどうしようか考える。
洸「……着替えはあとでいいか…」
そして、あることに気がついた。
洸「……そもそも…この近くに買い物できる所あったかな?」
命さんと一緒の時は、2つ3つ先の駅近くにあるスーパーだったし……。
洸「……宮本に聞くか…」
そう思い買い物袋と財布を持って家を出る。
まず、向かう先は隣の宮本の家だ。
宮本の家の前につき深呼吸をしてから扉を開ける。
洸「こんばんわー……」
ゴツイおっさん「おう‼いらっしゃい‼」
洸「…………」
思わず絶句…喫茶店には似合わない感じのゴツイおっさんが目の前にいた。
てゆーか、宮本の父親の透さんだった。
透「なんだにーちゃん!!鳩がドラゴンになったような顔して!!」
洸「いや、意味わかんねーっす」
どんな状況だそれは……もはや言葉が鳩しかあってない上にドラゴンになるとかどこのファンタジーだ……つかおっさんからツッコミどころが多いわ!!
とりあえず気にしないで用件を済ませることにした。
洸「……娘さんいますか?」
そう言うと透さんが笑顔のまま固まりこっちに寄ってくる。
透「……お前さん…よく俺に娘がいるとわかったな……」
洸「……ええ、まぁ、知り合いですし」
透「その知り合いが……家の娘に……なんのようなんだ……?返答によっては…お前さんの命はないぞ?」
この人は昔から面倒くさい性格で親バカだ……娘の事となると我を忘れる性格も全然治ってない。
洸「……聞きたいことがあるだけなんですけど…」
透「……なにを聞こうってんだ…小僧」
お前さんから小僧になった…つーかこの人昔俺にあってるのに俺のこと忘れてるな…。
そう思い俺はため息を漏らしながら伝える。
洸「おっさん、俺神前 洸です」
透「……あ?」
洸「だから、俺神前 洸なんです…昔あったことありましたよね?」
おっさんはしばらく考えたあとポンッと手をうち、答える。
透「知らん」
洸「…………」
こ、このじじいは……娘のこと以外、眼中に無しか!!!
そう思ったが、どうせ聞くなら宮本じゃなくてもいいと思い切り出す。
洸「……はぁ、じゃあ、おっさんでいいや」
透「…知らんやつの言葉など聞く耳持たんわ‼!!」
洸「おっさんマジでなんなの!!!?」
うぜぇ、それにめんどくせえ!!
そうやって騒いでいると宮本が出てきた。
榎梨「お父さん?騒がしいけど何かあった?」
透「おお、榎梨!!いや、怪しい小僧を追い払おうとしてただけだ」
榎梨「怪しい小僧って……洸君!?なんで?」
洸「宮本…このおっさんが話を聞かない人なんで困ってるんだが」
透「なんで呼び捨てにするんだ?貴様とは会ったばかりだろ?」
洸「娘の方だよ‼それとおっさんとは昔あってるよ‼」
榎梨「あはは……これは厄介なことになってやがりますね……」
それから、30分くらいたった。
透「そうか!!あの洸ちゃんだったか!!いやー見違えたな!!小さいときと印象が違いすぎるんで忘れちまってたよ!!」
洸「ははは……ほんっと相変わらずっすね」
俺は苦笑いを浮かべ、さっさと本題に持っていく。
洸「宮本、ここら辺で買い物出来るとこってあるか?」
榎梨「ああ、それなら学園を越えた先の方に商店街があるよ」
洸「先の方って稲叢先輩の家の方角か?」
榎梨「うん、そこなら安いしそこらのスーパーより品揃えも豊富だよ?」
洸「マジか、サンキュー恩に着る」
そう言って、喫茶店を出ようとしたところでおっさんに呼び止められる。
透「ちょいまち、洸ちゃん」
洸「……なんですか?」
透「洸ちゃんは、榎梨の事をどう思ってる?」
洸「……はい?」
榎梨「ちょ!?お父さん?!!」
透「俺はな洸ちゃん……娘の事が心配なんだよ」
洸「それは、見ればわかりますけど……?」
透「ぶっちゃけ、嫁の貰い手があるかすら心配なほどだ‼」
いや、貰い手があったとしてもおっさんが全力で阻止すんだろ……とは、言わない…面倒くさいことになりそうだから。
透「だから、洸ちゃん……娘の事は君に託そうと思ってるんだ‼」
洸「……はぁ‼?」
榎梨「お父さん!!なにいってやがるんですか!!!?」
透「榎梨、お父さんは彼にならお前を託せると思うんだ」
いやいやいやいや、さっきまで俺を全力で追い払おうとしていたおっさんがなにいってんだ!!?
話に脈絡無さすぎんだろ‼?
榎梨「お父さん…ちょっと……正座してもらえるかな?」
透「なんだ?どうしたんだ榎梨!!?なぜ竹刀をだす?!!」
榎梨「何でなんだろうね?ああ、洸君これからちょっと父娘同士の話し合いをするから…もう行っていいよ?」
洸「お、おう…じゃあ、あんがとな?」
透「ちょ!?洸ちゃん?!!いかないでくれ‼」
ごめんおっさん…今の宮本は正直俺が手に追える状態じゃない。
そう思い俺は喫茶店をあとにする。
おっさんの断末魔を背中に浴びながら俺は宮本に教えてもらった商店街に向かう。
洸「……ふぅ、確か…学園の先の方だって言ってたな」
学園の前にたどり着き宮本の言葉を思い出して歩みを進める。
そして、商店街につき俺は辺りを見回す。
洸「……へぇ、意外とでかいんだな」
色々な店が並んでいた。
八百屋、肉屋、魚屋、電気屋、花屋、ジャンク屋、
寿司屋、駄菓子屋、建築屋、鍵屋、看板屋、花火屋
何てのもあるのか他にもファストフード店がいくつかがある。
洸「…とっ、買い物買い物……て、晩飯なに作るか決めてなかったな……ハンバーグにでもするか……」
そう思い俺はまず八百屋に向かう。
洸「こんばんわ~……」
八百屋のおっさん「へいらっしゃい‼お!にーちゃんここいらじゃ見かけない顔だね?」
洸「ええ、まぁ、昨日越して来たばかりなので」
玄「そうかい!!ああ、俺は玄ってんだ‼気軽に
玄さんと呼んでくれい‼」
洸「はい、玄さん!!」
玄「いい返事じゃねぇか!!気に入ったぜ‼」
俺は玄さんとしばらく談笑してから買い物を済まし
八百屋をあとにする。
そして次は肉屋へ行くと気品がある女の人が肉屋の
定員であろうおばさんと話していた。
俺はその女の人に少し見惚れてしまった。
すると、女の人が俺に気付き近づいてくる。
綺麗な女の人「こんばんわ、神前君!!お買い物ですか?」
声をかけられてはじめて気づいた。
洸「…え、ええ…はい……え?稲叢…先輩?」
椿「?…あの……どうかしましたか?神前君」
洸「あ、いえ‼なんでも…ないです……ははは…」
さすがに見惚れてましたとは言えない。
椿「……そうですか?少し顔が赤くなってるような気もするんですが……」
洸「そ、そんな事より、稲叢先輩も買い物ですか?」
俺は恥ずかしさを隠すため慌てて話を変える。
椿「はい、そうなんですよ!それで、お買い物の途中で凪さんに声をかけられて少し話をしていたんですよ」
凪さんとはどうやら肉屋のおばさんの名前らしい。
凪「なんだい、椿ちゃんの彼氏かい?椿ちゃんもすみにおけないね~!!」
椿「そ、そんなのじゃありませんよ!」
洸「あはは…」
おばさんってやつはなんでこうゆう話が好きなんだろうか?
そんなことを考えていると稲叢先輩が何やらモジモジしている。
椿「あ、あの…べ、別に、神前君が嫌と言う訳じゃなくて……ただ、えっと…その……」
なにか言おうとしているようだが、言葉が続かず恥ずかしそうに俯いている…年上なのに顔を赤らめて可愛い人だな…と思いながら苦笑して答える。
洸「…いえ、気にしてませんよ あ、おばさんひき肉ください」
凪「はいよ~、そうかい彼氏じゃないのかい…結構
お似合いだと思うんだけどね~」
椿「も~!!凪さん!!」
凪「あはは、ごめんごめん、赤くなってる椿ちゃんが可愛いもんだからついからかいたくなっちゃってさ」
赤くなってる稲叢先輩をからかい続ける肉屋のおばさんを見ながら俺は苦笑いを浮かべていた。
しばらく二人の会話が続いたのが終わり俺と稲叢先輩は並んで歩いていた。
椿「…なんだか、恥ずかしいところを見られちゃいましたね」
洸「あはは…あのおばさんすごいパワフルでしたね……よく行くんですか?」
椿「え?ええ、はいここの商店街は皆さん優しいですから…」
そう言って少し寂しそうな顔をする先輩……しかしすぐに笑顔に戻る。
椿「それに、今日は素敵な出会いもありましたしね♪」
そう言って、悪戯ッこのように笑っている姿に少し
ドキッっとしてしまう。
椿「ふふっ神前君赤くなってますね?可愛いです」
洸「ちょ!?あんまりからかわないでくださいよ!」
椿「うふふ、ごめんなさい」
そう言うと先輩は俺をまじまじとみる。
洸「……あの…どうかしましたか?」
椿「あの~、神前君はどうして制服なんですか?」
洸「あはは、今さらっすね…ただ着替えるのが面倒くさかっただけですよ」
椿「いけませんよ?そうゆうことはきちんとしないと!めっ!ですよ?」
叱られてしまった…しかし嫌な感じはしないむしろ少し暖かい感じがした。
そうして話していると声をかけられる。
男「な~にイチャついてんだ!!コラ!!」
洸「へ?」
椿「え?」
いきなり声をかけられ驚く。
男「俺ぁな、てめぇみてーななよっとした餓鬼がだいっきれぇなんだよ‼」
うわぁ…今どきいるんだなぁこうゆう難癖つけてくる人……。
よく見ると顔が紅潮しているのがわかる。
この人……酔っぱらってるのか?
洸(……しかし、どうするかな…)
さすがに酔っぱらいをぶっ飛ばす訳にもいかないし。
男「こないのかぁ?こないならこっちから行くぞおらあぁぁ!!!」
洸「…っち!こうなったら!!猫だま…し!!!」
─パアァァン!!!!─
男「うおっ!?!」
洸「先輩!!今のうちに行きましょう!!」
椿「きゃっ!神前君?!」
俺は先輩の手を引き走り出す。
ある程度走ったところで足を止め振り返る。
どうやら酔っぱらいのおっさんは追って来ていないようで安心する。
椿「はぁ…はぁ……」
洸「先輩…大丈夫ですか?」
椿「はぁ…ふぅ…はい…大……丈夫です…」
洸「……すいません」
そう言いながらも少し苦しそうに息をする先輩を見て俺は思わず謝ってしまう。
椿「本当に大丈夫ですから……それにしても、神前君は凄いですね 凄く走ったはずなのに息ひとつ乱れないなんて」
洸「…まぁ、鍛えていましたから」
椿「過去形ですか?」
洸「…それは…また今度で…今日はもう遅いですし」
そう言って俺は空に指を指す。
もう日が沈み暗くなっている空をみた先輩は少し考えてから、頷いた。
椿「そう…ですね、では機会があれば話してくださいでは、また明日」
そう言って立ち去ろうとする先輩に声をかける。
洸「先輩!よかったらなんですけど…家まで送りましょうか?」
そう俺が言うと先輩は身を翻し微笑みながら答える。
椿「いえ、大丈夫です!家まではそう遠くないので…それに……」
先輩はそこまで言って言葉止める。
洸「どうかしましたか?」
椿「いえ、なんでもありません…では、今度こそまた明日…です」
洸「…はい、また明日」
手を振りながら走って行く先輩に対して
俺は先輩の後ろ姿が見えなくなるまで手を振返していた。
優しく強いお姉さん。
稲叢 椿
一人称 私
3月24日生まれ 17才
AB型
164㎝ 48㎏
スリーサイズ 88、58、88
好きな食べ物 蒲鉾、海苔巻き煎餅、ぼた餅
嫌いな食べ物 明太子、栗きんとん、魚
趣味、特技 家事全般、パズル、合気道、剣道
詳細
風町学園の三年生で榎梨が所属する剣道部の部長。
稲叢財閥の一人娘ではあるがそれとは関係なく人望がある。
特別扱いされるのが嫌いで、榎梨達のような学生に
憧れがある。
家では花嫁修行の一環で家事全般を叩き込まれている。
剣道を始めたのは小さい頃一度だけ見た試合に感動をしたかららしい。
優しい性格で誰でも分け隔てなく接するため告白を
よくされているが全部断っている。
父親からは縁談話を持ちかけられているが、自分で
決めた人と結ばれたいと反発している。