昔の話をしようか…
榎梨「ふぃ〜、いいお湯でした〜っと」
柊「榎梨ちゃんオジサンみたいだよ?」
私たちはお風呂から出て部屋に戻ると雨宮君が先に戻っていた。
竜悟「あれ?神前は一緒じゃなかったのか?」
榎梨「え〜?知らないよ?男子は男子で一緒にいると思ってたし」
柴田「おれは女の子以外に興味ねーし」
竜悟「電話かけてもでないし…本当にどこ行ったんだ?」
命さんから洸ちゃんの話を聞いてから洸ちゃんがなにか無理してるんじゃないかってなんだか少し不安になる。
柊「洸ちゃん…」
榎梨「ん〜?どうしたの〜?ラギー?」
柊「え…あ、ううん…なんでもない。それより雨宮君…なにかかわったことなかった?」
竜悟「…質問の意図が読み取れないんだけど…」
柊「えっと、つまり…洸ちゃんに…」
竜悟「神前?そうだな…風呂に誘って断られたあとはみてないしな…」
榎梨「洸君はど〜こに行ったんだ〜ろね〜?」
竜悟「…どうでもいいけど、宮もっちゃんがさっきからふぬけてるのが気になるんだけど…なにがあったの?」
榎梨「ん〜?眠くな~ると僕はい~っつもこんなか~んじ~だ~よ?」
竜悟「…そう、ならいいや」
洸ちゃんがいないからなんだか話が進まない気がする。
柊「……」
加藤「…お風呂に行く途中で先生とすれ違ったから先生ならなにか知ってるんじゃない?」
竜悟「おお、いつも無言の加藤ちゃんが喋った!」
榎梨「…すぅ…すぅ…」
竜悟「こっちはこっちでたったまま寝てる!?」
柴田「おれナンパしてきていいか?さっき綺麗な女子大生見つけちゃってさ〜!」
竜悟「いや、知らないし!」
柊「…私、先生の部屋に行ってみる」
竜悟「ああ、ちょっと!柊ちゃん!って…いっちゃったよ…」
榎梨「…で?雨坊主はどうするの?」
竜悟「宮もっちゃん…その呼び方は流石に俺っちでも怒るよ?つーか、寝てなかったのかよ」
榎梨「うん?寝たよ?10秒程ね。で、洸君はたぶん先生と一緒にいるのは間違いないとして…この宿泊施設内にいるのか気になるところだね〜」
竜悟「…宮もっちゃん…それはもうちょっと先に言って欲しかったんだけど…」
榎梨「ん〜…なんかね…ちょっと気になることがあから、少し様子を見たいって思って」
竜悟「様子見って…どういうことだ?」
榎梨「…まぁ、気のせいなら気のせいでいいんだけどね…それより、柴田君がいなくなってるんだけど?」
竜悟「…へ?あ、本当だ…」
先生の部屋へ向かう途中、洸ちゃんを見た人がいるかもと思い各部屋の人に聞いて回りながら先生の部屋に向かっていると後ろから声を掛けられた。
柴田「柊ちゃーん!!」
柊「え…柴田…君?どう…したの…?」
柴田「…柊ちゃんに聞きたいことがあってさ」
柊「いいけど…でも、今は…洸ちゃん…を探さないと…」
どうしよう…柴田君とはあまり話したことないし…うまく話せない…それに…なんだか…すごく柴田君が怖い。
そう思っていると柴田君がいきなり腕を掴んできた。
柊「っ!」
柴田「…柊ちゃんさ〜今付き合ってる男とかいんの?」
柊「いっ…ない…けど…それより…放して…!」
痛いくらいに掴まれた男の子の手は簡単には振り払えない。
だんだん恐怖心が強くなってくるのがわかる。
柊(この感覚は…知ってる…お父様が死んでしまって…お父様の会社の人が私に向けていたのと…同じ…)
いや、それよりも…恐ろしいと感じている。
怖い!怖い!!怖い!!!だれか…だれか…助けて…怖いよ…
柊「洸…ちゃん…っ!」
柴田「泣いてんの?いいね〜…おれってば女の子の泣き顔見んの超好きなんだよね〜。おれってばSだから!くははっ!もっとよく見せてよその泣き顔!」
柊「いやっ!!放してっ!痛い!」
私が言っても柴田君はやめる気はなく腕を掴んで壁に追いやられる。
怖いよ…だれか…助けてよ…だれかぁ……
洸「なにやってんだ?」
ー視点変更 洸ー
柴田「…ちっ…神前…」
柊「っ…っ…」
柊が声にならない声をだしながら泣いている。
洸「…柴田…柊になにか…したのか?」
柴田「あ?してねーよ…」
洸「じゃあ、なんで柊が泣いているのか…説明してくれるか?」
柴田「…転んだからだって言ってたぞ?」
洸「…そうか、じゃあさ…なんで柊を追い詰めるかのように腕を掴んでいるんだ?」
柴田「…はぁ〜…神前…おれはな…お前をみてるとさ…苛つくんだよ…なぜだかわかるか?それはな、おれが狙ってる柊ちゃん(エモノ)の近くにお前がいて邪魔だからなんだよぉ!」
洸「そうか…だったら…遠慮はいらねーなぁ!!」
そう言って殴りかかって来る柴田に対して俺は怒りをこめておもいっきり拳を柴田の顔面に叩き込んだ。
柴田「っっっっっっっっ!?!?!!?!!?」
声にならない叫び声をあげながらキリモミ状に吹っ飛び壁に激突する柴田から目を放して柊に駆け寄る。
洸「…柊…もう大丈夫だぞ」
柊「洸…ちゃん…っ!」
涙目になりながら俺にしがみつく様にタックルをしてくる柊の勢いにしりもちをついた。
その際鳩尾に入って一瞬息ができなくて焦った。
洸「…けほっ…柊、大丈夫だから…泣くな〜…つっても今は無理か…」
柊「ひぐっ…っ…」
そのあと柊が落ち着くまでのあいだ、俺は柊の手を握っていた。
それから、一時間近く経って柊がやっと落ち着いてきた。
柊「……」
洸「…落ち着いたか?」
柊「うん…ごめんね…洸ちゃん」
洸「いいけど…大丈夫か?顔色悪いぞ?」
柊「…大丈夫……だから…」
そう言っているが体が震えている。
よほど怖かったんだろうな…。
そう思っていると柊が聞いてくる。
柊「洸ちゃんは…どこか行ってたの?」
洸「ああ、暁先生に捕まっててな…さっきやっと帰ってこれたんだ…」
柊「そう…なんだ…」
洸「…」
柊「…」
会話を続けようとしてもなかなか続かない…なぜだかお互いに黙り込んでしまう…。
俺はなにか話した方がいいか、迷っていると柊が口を開いた。
柊「洸ちゃん…私ね…洸ちゃんに聞きたいことがあるの…聞いてもいい?」
洸「いいぞ。俺に答えられることなら」
柊は深呼吸をしたあと俺の目を真っ直ぐにみて言葉を発する。
柊「洸ちゃんは…どうして…そんなに優しいの?」
洸「…優しい?」
柊「うん、洸ちゃん…いつも誰かの為に一生懸命になってるから…」
そうかな?別に特別なことはなにもしていないんだが…。
柊「それに、命さんに聞いたけど…洸ちゃんのお父さんたちのことも…」
洸「…ああ…なるほどね…」
俺は柊から目を背けて考える。
柊が言いたいことはだいたいわかった…だけど…話してもいいものか…そう思いながら柊に目を戻すと柊は変わらず真っ直ぐに俺の顔をみている。
その真っ直ぐな瞳に俺は柊に自分のことを話すことにした。
洸「……そうだな…なんで優しいのか…その質問に対して正解をあげるなら…俺は人に優しくしていることで…自分の心が救われると思ったからかな…」
柊「……」
柊は黙ったまま俺の言葉を待っている。
洸「…俺が昔殺人犯に親を殺されているのは知ってるよな?」
柊「うん…命さんから聞いただけだけど」
洸「そんで、爺さんに拾われた俺は、神前家の養子としてお世話になることになった。
だけど…俺は自分の親が死んだショックで誰にも心を開かないでいたんだ…それをみかねた爺さんが俺を鍛えるとか言い出して…爺さんに鍛えられながら神前家の父さんと母さんたちといる日々を過ごしていた。
無茶苦茶だったけど俺は幸せになに不自由なく過ごしていた…ただそれから、しばらく経ってある事件が起きた」
柊「事件?」
洸「……爺さんが…父さんと母さんを殺して…失踪した…」
柊「…え…?…どういう…」
俺は柊に苦笑いを浮かべながら答える。
洸「爺さんが父さんたちを殺していなくなっちまったんだ…親戚連中は父さんたちは事故で、爺さんは寿命で死んだってことにしたみたいだけど」
柊はなにも言わず握っていた手に力を込める。
洸「…それで、質問の答えなんだけど…俺は優しいんじゃなくて、優しくならなきゃ行けなかった…ってところかな?」
柊「……それって…?」
洸「…今日はもう遅いし…ここまでにして…部屋に戻ろう」
正直、これ以上話すと思い出したくないことを思い出しそうだし…。
俺の言葉に柊は少し考えてからうなずく。
柊(洸ちゃんの手…暖かいなぁ…なんでだろう…洸ちゃんに手を握ってもらってるだけなのに…すごく…安心する…それに…大きいな…)
洸「どうかしたか?」
柊「え…ああ、なんでも…ないよ…あはは…」
洸「そうか?ならいいけど…しんどかったら言えよ?」
柊「うん…大丈夫だよ…洸ちゃん」
洸「……」
柊の顔が少し赤いように見えたけど俺は大丈夫と言う柊の言葉を信じてなにも言わなかった。
その日の夜は更けていった。
そして修学旅行二日目の朝は雨宮の第一声から始まった。
竜悟「猿山行こーぜー!!!」
洸「一人で行けよ…つーか…朝からうるせーな」
柊「…まら…ねむひよ…洸ひゃん…」
柊は柊でろれつがまわってねぇし…宮本は歩きながら寝てる…器用だな…加藤さんは普通に起きて本読んでる…柴田は…俺が殴ったせいで救急車で運ばれてったし…。
洸「つーか、なんの話だよ…」
竜悟「自由行動の話だろ〜!わかってるくせにぃ〜!」
テンションがうざい…朝からこいつのこのテンションは流石に面倒くさい。
洸「…そうか…そういや、今日は自由行動だったの忘れてたな…」
確か班で行動しなくてもいいらしいから誰かと一緒に行動してもいいけど…。
まあ、だいたいいつもの四人での行動になりそうだな…。
洸「…そうだ!加藤さんはどうするの?」
加藤「え?」
洸「自由行動!俺たちとまわる?ああ、誰かと一緒に行動するならそれでいいけど」
加藤「えと、ウチも…一緒に行ってええの?」
洸「うん。どうする?」
加藤「え……と…じゃあ、いこ…かな」
洸「うん!それじゃあよろしく」
加藤「…うん」
それから、朝食を食べ終えて俺たちは猿山に移動した。
竜悟「猿山だー!!!!」
洸「テンションたけーな…」
榎梨「洸君、洸君!猿がさっきからスッゴい睨み付けてくるんだけど…」
洸「とりあえず目を合わせるなよ?攻撃してくるから」
榎梨「…う、うん…」
洸「…なにウズウズしてんだよ…お前は…」
榎梨「べべべ、べぇつにぃ〜!なんでも…ないんですことよ?」
洸「…絶対に勝負挑んだりすんなよ?」
榎梨「……は~い…」
他に目をやると加藤さんはお店のなかで猿に餌をあげている。(店の窓が編み状になっていて店の中から外にいる猿に餌をあげられるらしい)
それで、柊はというと…昨日の柴田との一件から何故か俺に張り付くように一緒に行動している。
(なんかいろいろあたってて気になって仕方がない)
洸「…あの、柊…?」
柊「うん?」
洸「そんなに密着されると…その…動きづらいっつーか…なんつーか…」
そんな風に話していると声を掛けられる。
霧香「おーい!」
洸「あれ?先生?どうしたんですか?」
霧香「あたしが一人で暇だったから一緒に行動したら面白そうな所に交ぜてもらおうと思ってね」
洸「あ~…そうすか」
霧香「ところで、君たちは何故そんなにくっついているんだ?」
洸「それは…俺の方が聞きたいところなんですけど…」
竜悟「霧ちゃーん!なにやってんのー?」
俺と先生が話していると雨宮が乱入してきた。
霧香「ああ、雨宮か…いやなに、ちょっとした暇潰しに来ただけだよ」
洸「どうでもいいけど、しゃべり方はそっちなんですね?」
霧香「ん?まぁね、修学旅行中くらい話し方を崩してもバチは当たらないだろうし、それにあの喧嘩腰のような話し方って疲れるんだ」
竜悟「ならずっとそのしゃべり方でいーじゃん」
霧香「ああ、めんどくさくなってきていたし…そうしようと思ったから今こうしてリハビリみたいな感じで君らに話しているんだ。というより、喧嘩腰なのは基本教頭の前だけにするつもりだし」
洸「それはそれでどうなんですか…」
霧香「そう言えば、昨日は悪かったね。コー」
洸「いえ、気にしてませんよ。それよりも…」
霧香「ん?どうした?」
竜悟「…か~ん~ざ~き~…お前…なんで霧ちゃんに名前で…呼ばれてるんだ~…?」
霧香「…ああ、忘れてた」
洸「……」
竜悟「どういうことか…説明してくれるか?」
そのあと、雨宮にことの成り行きをかいつまんで説明したあと、俺たちは伏見稲荷に移動した。
竜悟「ふ~し~み~に~……来たーーーー!!!!」
洸「迷惑だから静かにしろ…」
霧香「…ふぁ~…あたし…寝てもいいかな?」
洸「それ…また俺がおぶる流れですか?」
霧香「…そうなりそうだね」
洸「雨宮に頼む気は?」
霧香「ないね。ところで、君のそばにくっついていた上島とボケ倒していた宮本はどうしたの?」
洸「ああ、お手洗いに行きましたよ。置いていくわけにもいかないし、俺はここで待ってる予定ですけど」
竜悟「なぁなぁ!!俺っち登ってっていいかな?!いいかな!??」
洸「…行けよ……俺は柊たちつれてあとからいくから」
霧香「…あたしはどうしようかねぇ…」
洸「頂上に登る道に猫がいるそうですよ?」
霧香「フム…それは興味深い…行こう」
洸「…行ってらっしゃい」
命さんから聞いた話で暁先生が命さんの後輩で命さん同様猫が好きだと聞いてたから言ってみたらノリノリで行ってしまった…。
洸「…それに、しても…あいつら遅いな……どこまで行ったんだ?」
俺は二人が戻って来るまでそのへんで座っておくことにしたのだった。
ー視点変更 榎梨ー
榎梨「ほら、ラギー!早くしないと洸君待ってるよ!」
柊「待って!榎梨ちゃん!私…そんなに速く走れないよ~…」
僕は、ラギーと一緒にお手洗いから戻ってる最中のこと。
僕は気になったことをラギーに質問をする。
榎梨「ねぇ…洸君と…なにかあったの?」
柊「…えっと……なにも…ない…よ?」
嘘だとすぐにわかる…というよりは最近のラギーはすごく感情が表に出やすい。
素直すぎて思わず苦笑いを浮かべる。
榎梨「別にね…話しにくいことなら話さなくてもいいんだよ。だいたいは洸君を見ていたらわかっちゃうからさ…」
柊「……ぁ…」
榎梨「…柊はさ…洸君を見ててどう思った?」
柊「…え?…どうって…優しい…かな?」
榎梨「そうだね…洸君は優しいよね…でもね…僕はその優しさが…とても怖いって思ったんだ…」
柊「どういう…こと…?」
僕は柊に自分が今まで誰にもいったことのない…洸君にも親にも話したことのない心の内にしまっていた思いを話すことにした。
榎梨「洸君ってさ…自分のためじゃなくて…人のために怒る人なのは…知ってる?」
柊は首を縦に振りながら答える。
柊「知らないけど…なんとなく…そうなのかもって…」
榎梨「うん。洸君は人のためなら自分のことをおざなりにしても全く気にしない子だったんだよ。
それで…自分がどんなに後ろ指指されても、笑ってたんだよ…僕は…それが怖かった…」
柊「どうして?」
榎梨「…昔ね……僕がまだ、剣道を始める前…学校の上級生に苛められてたんだ…その時洸君が僕を助けようとして…頭に怪我しちゃったんだ。けど…洸君は血を流したまま、笑ってたんだよ。上級生を薙ぎ倒して…僕に笑いながら、怪我しちゃったって笑って言ってきて…僕はその時洸君がすごく怖く感じたんだよ…心臓を握り潰されるかと思ったくらいに…
でも、そのあとは別に現状みたいな距離感に収まったけど…たまに昔みたいに怖い笑顔をするときがあるんだ…」
柊「……」
柊は黙ったまま僕の話を聞いている。
榎梨「それでさ、思うんだ…洸君がいつも見せている笑顔は…作り物なんじゃないかってね」
僕の話を聞いた柊は少し考えてから話始める。
柊「…榎梨ちゃんは凄いね…」
榎梨「…え?」
柊「私は洸ちゃんのことを本当に心配しているんだね…私は洸ちゃんにいつも甘えてばかりだけど…
榎梨ちゃんは…本当に洸ちゃんのことを大事に思ってくれてるんだね」
榎梨「…えっと…ラギー?僕の話をちゃんと聞いてたんだよね?」
柊「うん」
いい笑顔で頷くラギーはどこか嬉しそうに見える。
なんで?
柊「ところで…名前呼びはお終いなの?」
そんな風に聞いてくる柊…ラギーを見ているとなんだか自分が悩んでいたのが馬鹿らしく思えてくる。
柊「榎梨ちゃん…私ね…洸ちゃんの笑顔が作り物でもいいって思うんだ」
榎梨「…ぇ」
柊「たぶんだけど…作り物の笑顔でも、きっと少しは心から笑ってると思うから…それに、私はその笑顔で元気付けられてる。
だからさ、榎梨ちゃん…洸ちゃんの所に早く戻ろう?」
ラギーが右手を差し出して…僕にそう笑顔で言った。
その笑顔に僕もつられて笑いながら頷いた。
柊の休日の過ごし方。
柊の休日の過ごし方は基本的に昼まで寝ていることが多い。
家事は洸が一人で行っている。
猫の七緒が来てからは一生懸命世話をしているが、結局はぐでーっと過ごしていることもしばしば。
榎梨とは仲がよく、休日に二人で買い物や勉強をしている。
本人は休日中に料理の練習をしたいと思ってはいるが、未だに実行にうつせていないらしい。




