2 水響 ―Water and sounds―
「…どうだった?」
消毒液の匂いがほんの少し薄れる待合室。
こぽこぽと水槽の音が、響く。
「…京」
ずっと立ったままで待っていてくれたのだろうか。
腹違いの弟である京は、1歳しか違わないのに、とても純粋な瞳をしている。
「あと8ヶ月、だってさ」
「…そう」
京が長いまつげを少し悲しそうに伏せた。
あたしは無言で、京の頭をなでる。
日本人の顔をしているのに、義母さん譲りの白っぽい金髪で、青緑をした瞳。それが白い肌に映えて、神秘的な雰囲気を持っている義兄弟。
あたしはいつも、彼と居た。
最近は京の背がにょきにょきと伸びたせいで、兄と妹のように見られるけれど、あたしが京の家に来た、ちょうど小学四年生くらいの頃はよく双子に間違えられたものだ。
今でも、肌の色と顔の造りだけは似ている。
まぁ、どんな時でも、京のほうが綺麗だったのだけれど。髪も瞳も、全く別物だったから。
「…何か、したいことはあるの?」
死ぬ前に?
聞こうと思ったけどやめた。
もう、決まっているのだ。
「父さんに、会いに行く」
それからの帰り道、京は一言も喋らなかった。
今は夏休みだ。
あたしはいつでも一人で行ける。
京も、あたしが一人で行こうとしていることを、感じとってる。
母さんを見捨て、再婚した義母さんとの間にはすでに京がいた、父さん。
きっと探し出して。
探し出して…。
探し出して、あたしは何をしたいの?
一瞬そんな思いがよぎったけれど、もうあたしには時間が無いのだ。
花火は、一瞬しか、咲けない。