救命手術。
私は助かった、だが皆んなが死んだ。
一人で生き残った世界はこんなにも広く清々しいものなのか。
青い空、雄大な大地、母なる海、静かな森、無骨な町、もう私を縛るものはなくなった。
私を虐めたクラスメイトも、私を虐げた教師も、私を見棄てた親も、私を殺そうとした姉も、全てがいなくなった。
「あはははははハハハハハハハハハ‼︎」
盛大に笑っても誰も咎めない。
「何これ美味しそう、貰お」
万引きをしても誰も咎めない。
「フリィィィダァァァム!」
街中で裸になっても誰も咎めない。
「オラァッ!」
クラスの机を投げ出し落としても誰も咎めない。
「死ねェ!死ねやクズがァ!」
家の写真を串刺しにしても、家具を壊しても、家の壁をペンキでグチャグチャに塗っても、電球を割っても、賞状を裂いても、水を流しっぱなしにしても、ガスを充満させても、家を燃やしても誰も咎めない。
燃える家はどこまでも美しい、芸術は終わりがあるから美しいと言った人の気持ちが分かった気がする。その人もきっと私と同じだったのだ。
だがどうしてだろう、スッキリしない、壊している時はあんなに気持ちよかったのに。
「虚しいなー楽しいはずなのに虚しいなーなんでだろ、もっと壊せばいいの?」
神は世界を7日で作ったと言う、私も世界を7日で滅ぼした。
燃える街並み、そこが私の狭い世界だ。
「綺麗…なんて綺麗なの…」
だがそれだけ、綺麗なだけで胸にぽっかり空いた穴は埋まらない。
まだ足りない、まだ何も奴らに仕返せない。
「くそッ!何でだよ!何で死んだんだよッ!全ッ然楽しくない!お前らの恐怖に怯える顔が見たかったのによォ!ガァァァ!」
その叫びも世界に一人では何も届かない。
どうして私は生き残ったのだろう、そうだあの科学者達のせいだ、私を救命したあの科学者達。
「許せない…ぶっ壊す!」
私は科学者達の研究所に着くと力の限り暴れた、ドアを斧でギタギタにし、窓をトンカチでぶち割り、機械が再起不能になるまで機関銃をぶっ放し、手術台が原型をとどめない程にメスで滅多刺しにした。
もうここが研究室だってことは誰も分からない、完全に壊した。
凄まじい快楽、自慰行為でも感じたことのない体を走る快楽、それは脳を巡り体中が幸せを感じた。
最後は火を付け全てを燃やした。
だがどうして、あんなに暴れたのに、あんなに気持ちよかったのに、炎を見るとどうしても心がぽっかりする。
何も変わらない、何も解決しない、何も
意味がない。
「……死のう」
私は火の中に飛び込んだ。
「ああああああああ‼︎がごァァ‼︎ぎゃゃぁぁぁ
‼︎」
熱い、肺が焼ける、肌が焦げる、手足が痺れる、頭が燃える、目が溶ける、全身が痛い。
私は激しい苦しみと共に絶命した。
思えば酷い人生だった、何をしても咎められ命を縛られる感覚、あらゆる人が私の敵だった。
だがそんな私に手を差し伸べた科学者達がいた、なぜか彼らは私に救命手術を施し助けた。
その意図は分からない、しかし私はそれだけで救われたのだ、初めて人の優しさを見た気がした。
それなのに、ごめんなさい科学者さん達、結局私死んだわ。
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私は死ななかった、目が覚めたら焼け落ちた研究所の中で寝ていた。
体中を燃やした痕は残っていない、肺を焼いた苦しさもない、目が溶けたのに目がある、全身が頗る快調だった。
神すらも私を切り捨てた。
その時私は分かった、独りなんだと。
「行こ…」
私は歩き出した、いつ終わるか分からない生の地獄に向かって。
続く、かも?