攫われ売られる
煌めく光が底を照らす。
視界の先に広がるのは青い大地、そして目の前を泳いで行くのはそこで住まう大小様々なモンスター達だった。
彼らは今まで見てきたモンスターとは違い、まず手足が無かった。
目は飛び出し、身体をくねらせて移動する。
キラキラ輝き、堅そうな身体を左右に動かし泳いでいるのだ。
跳んでいるのでなく、泳いでいる。
水中と言う特殊な環境下だからこそ、地上と違って抵抗のある液体の中という空間だからこそ出来る行動だ。
ミミックは長い観察の中で、その事に気付いた。
空と海が似て非なる物と自覚し、そして水中が普通とは違う環境と理解し、その環境でしか生きられない生物なのだろうと把握していた。
「ミィ~」
ミミックの朝は早い。
太陽が昇り、海底へと光が注がれると同時に目を覚まし口を開くところから始まる。
口が開くと同時に周囲の海水は渦を描きながらミミックへと集まっていく。
突如発生した海流、それに流され多くのモンスターがミミックの口の中へと入ってしまった。
「クゥ~」
お腹がいっぱいになったミミックは、今度は自身が吸収した海水を放出する。
突如発生した海流、それに流され多くのモンスターが今度は遠くへと流されていく。
これがミミックの最近の日常だった。
月と太陽がいくつも交差し、目が覚めては食事を済ます生活をしていたミミックは進化の吉兆を感じる。
体中に熱が行き渡っているような感覚だ。
しかし、進化するために襲われる表現のしようがない眠気が来ない。
何故だろうかと思考する、本体眠る必要のないミミックという種族でありながら外界への意識を遮断して眠るように思考する。
ミミックは満腹である間は視界を閉じて、ひたすら思考していた。
ミミックは予想する、どうして進化する事が出来ないのか。
それは、環境が変わったからではないだろうか。
この場所は多くのモンスターがいて餌が豊富であるが、前の場所と違う所がある。
それは、天敵の存在だ。
ここは前の場所よりも互いに争い互いを喰らう回数が多い、それこそゴブリン同士で戦うみたいに同じ見た目のモンスター同士で争う。
しかし、そんな苛烈で過激な環境でありながら少し前のあの頃のように自分を襲ってくる存在がいない。
そう、天敵がいないから進化できないのではないだろうか。
進化に必要な物、それがないのだ。
また、今の自分はなりたいものが無い状態だ。
今のままで十分だと感じている、それも原因の一つなのかもしれない。
「ミミック!」
結論を出してミミックは検証するべく動く事にした。
自身を恐怖させるような天敵を求めて、そしてなりたい自分を探す為。
ミミックは自分探しの旅に出る事にした。
「ミミィー!?」
自分探しの旅に出る為にミミックが水中を動いていた時だった。
プロペラを推進力に水中を漂っているミミックの目の前に植物の壁が現れたのだ。
それは複雑に絡み合い、ミミックの身体を封じ込める。
しばらく忘れていた恐怖をミミックは感じて、本能のままに肉体を静止する。
そう、ただの箱に見せかけて危険から逃れようとする本能が働いたのだ。
「おい、今なんか聞こえなかったか?」
「あっ、網にに何か掛かってるよ!」
「本当だ、あっコイツは宝箱って奴だ!」
声が聞こえた。
それは人間の鳴き声のような物だ。
声は人間にしては高い物で、大きい物だった。
そして、そんな音に集中していると自身の身体が浮かび上がる。
そこにいたのは小さな人間であり、モンスターだった。
キラキラする髪の毛、白い肌、雄と雌の人間だ。
しかし、身体から下半分はここに来てからよく見かけるようになった手足のないモンスターと一緒だった。
手だけある人間に似たモンスターだ。
「コイツ、中に何も入ってないぞ?」
「でも、収納するのに使えそうだわ」
「大人に売ったらどうだろう?」
ミミックは無抵抗に流れに身を任せていた。
それは経験から導き出された思考による判断だ。
ここで襲う事は容易いだろう、しかし二体いる。
人間は個体差が激しく、全滅させられないのなら襲わない方が良い。
「材質も良いし、宝石が付いてるきっと高く売れるわね」
「まさか漁の最中に臨時収入があるなんてラッキーだぜ」
そう、論理的思考から安全な道を選んだ。
決してここに来る前のモンスターのせいで戦う事がトラウマになっていた訳ではない、本当である。
ミミックはそのまま人間に似たモンスターに捕まり運ばれていく。
彼らは下半身をくねらせて、器用に水中を進んでいた。
当初、植物の壁だと思ったそれにはミミックも良く食べる小さなモンスターがたくさん入っている。
暫くすると、穴が開いた岩山に辿り付いた。
そこは、珊瑚と光る苔の生えた場所。
ミミックには普通の場所との違いは分からなかったが、普通より明るい場所だなとは思った。
「親父、なぁ見てくれよ!」
「おう、どうした?あぁ、何でぇこれ……宝石箱か?」
「さっき見つけた」
急に止まったなと思ったら、自分を運んでいた彼らに似たデカイ人間がいた。
ソイツはミミックを掴んでジロジロと見てくる。
これは、ゴブリンが怪しんでる様子!?
ミミックは、バレたかと嫌な緊張感に包まれた。
「普通のより細工が施されてる。人間が落としたのかもな」
「これ、売れるかな?」
「そうだな、そこそこって感じか。中身が大事だからな、こういうのは」
デカイ人間はミミックを連れて、穴の中へと入って行き中にいた人間と鳴き声を交わす。
暫くして、貝殻を渡された人間はミミックをその穴の中に置いていった。
ミミックが置いてかれた場所、そこは様々な物が置いてある場所だった。
モンスターの死骸を加工した、ゴブリンが頭に付けるような装飾品の類らしき物。
生きたモンスターとそれを閉じ込める見えない箱。
キラキラツルツル、不思議な球体。
そして、それを手に取っては貝殻を渡していく人間達。
全く謎である、そして謎であるからこそ楽しい場所だった。
ミミックは人間達の街に来て暫くが経った。
ここに来て分かった事は、人間の言葉だ。
しゃっせー、ありあしたー、これは挨拶だと思われる。
入る時と出る時に使われるので、そう推測した。
これ、それ、あれ、場所によって使い分ける対象を指す言葉。
御代、御釣り、こいつは貝殻を指している。
人間達は穴の中に入って貝殻と物を交換していた。
そして貝殻の量によって交換する量が変わっていく。
つまり、何らかの法則性がありそして彼らは同じ価値を貝殻に見出している。
そう、きっと貝殻はすごくおいしいのだ。
だって、ここの人間は時間があれば貝殻を見て笑っているからだ。
その顔は、新しい武器を手に入れたゴブリンの顔にそっくりである。
ミミックはいつか貝殻を食べてやろうと決心した。
ミミックが人間達に連れて来られて幾つもの夜と朝が繰り返された。
この頃になると、ミミックは彼らの言葉が分かってきた。
ここは雑貨屋と呼ばれる場所で仕入れとやらで物を集め、商売とやらで貝殻と交換する場所だ。
貝殻は生活費と交換され、そして収入とやらにも交換されるみたいだった。
まだ、単語しか分からないが多くの言葉が何を指しているのか分かってきた。