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その後のミミック

ある日を境にダンジョンに異常が発生した。

それは、コアの消失によるダンジョン枯渇現象と呼ばれる異常だ。

いつの間にかモンスターが発生しなくなり、ダンジョン自体の機能が失われて空の宝箱のみが放置される事件が発生したのだ。


最初の方は、急激なレベルアップを求めてどこかの馬鹿がコアを破壊したのだろうと人々は考えていた。

数十年に一件くらいそう言う事件はあったからだ。

だが、それが一年で数件も連続で起きたので人々は慌てて犯人捜しをする事を決定してダンジョンを封鎖した。

しかし、封鎖したダンジョンでも事件は発生し、いよいよこれが人の手ではなくダンジョンの異常であると人々は認識した。


それから人々はギルドを通じて、まだ機能しているダンジョンの調査を開始した。

しかし結果は芳しくなく、調べても見た事ないアイテムが宝箱に入っていたなどと言った情報くらいしか手に入らなかった。


そんなある日の事だ。

世界最難関の無限迷宮と呼ばれる、誰も到達したことのない未踏破ダンジョンで異常が多く発見される。

脚のセクシーなミミックがいた。新種のモンスターが現れた。浅い階層で強力なアイテムが手に入った。

空の宝箱だらけの部屋があった。ボス部屋にモンスターがいなかった。新種の種族がダンジョンから生まれた。

人々は何が原因なのか、無限迷宮を調べるのだった。




さて、そんな風に人々に迷惑を掛けていると知らず今日もダンジョンを滅茶苦茶にしていた存在がいた。

そう、魔王であるミミックだ。


「ミミィ!」


あれから、僅か一年足らずで幾つかのダンジョンを吸収し、自身を数万の個体に増殖したミミックは手を変え品を変え、様々な手段で各地に移動して活動していた。

そして、ある時辿りついた無限迷宮で、色々やらかしている存在が今日も元気よくダンジョン内で声を挙げた。

そのミミックは、ミミック10032号。

モンスターと合成に最も興味のある個体である。


何故か自我が芽生え、それぞれが好き勝手している現状。

その中で、最も目立つ事をしているミミックが、この10032号であった。

因みに、10032体目に誕生した個体である。

このミミック、趣味は捕まえたモンスター同士の合成であった。

しかも性質が悪い事に、他の個体が捕獲したモンスターが体内の謎空間に保管されてる事を良い事に、サンプルとしてダブっている奴を持ちだしては合成を繰り返していたのである。

各地に存在する既存のモンスター同士を合成、その組み合わせは何通りも在り、ほぼ無限とも言える数が存在していた。

それを淡々と合成しては繁殖させてサンプルを捕獲次第放置、黙々とデータ収集を繰り返していた。


そのせいでサンプルに必要な一体以外の合成モンスターがミミックのいた部屋から脱走、勝手に生態系に組み込まれ新種の魔物として見つかっていたのだ。


「ミー、ミィミィミッ!」


そしてその日、ミミックは高笑いしていた。

と言うのも、最近の研究テーマである新種のモンスターを作ったからであった。

早速、ミミックネットワークで無限迷宮内の仲間たちにミミックは自慢する事にした。


『やった、遂にやってやったぞ!』

『今度は何だね、10032号。君のせいで私は足を噛まれたんだが』

『10034号、それは足を露出している君に落ち度がある』

『10033号に同意、たまに蹴られると他の個体に不評である』

『そういう10031号は、新しい魔法の試し打ちでボスモンスターだけじゃなく他の個体に当てるから、苦情が来てるじゃないか』

『喧嘩してないで、俺の話しを聞いてよ!』

『それより、新しいアイテムを盗んでいく人間をどうにかしてくれないか?』

『此方、16号。ギルドから無限迷宮内の個体に告ぐ、調査隊が派遣されるので注意せよ』

『『『『了解』』』』


結局、誰も聞いてくれないのでミミックは落ち込んだ。

だが、すぐにミミックは閃いた。

ギルドの人間に調査用として持ちだされた最初期の個体から調査隊が派遣される報告があった。

これは、利用するしかないじゃないか!

さっそく、ミミックは自分が作り出した最強のスライム。

物理と魔法を克服した無敵スライムを冒険者に差し向ける事にしたのだった。


「ミミミ!ミィーミィ!ミミッ!」

「…………」


ミミックの細かい指示に、スライムはプルプル震えた。

そして、ミミックの前から時速数センチの速度で移動を開始した。

スライムが進んでは、ミミックも移動して付いて行くこと数日後。

遂に、スライムが調査隊の人間と遭遇した。


「おっ、宝箱だ!クソ、スライムが邪魔だな。魔法使い、誰か来てくれ」

「はぁ、また宝箱ですか……何か前より増えてませんか?」

「いいから、あのスライムをどうにかしてくれよ」


分かりましたよ、と渋々魔法使いの冒険者がスライムに攻撃した。

杖から呪文の後に火の玉が飛んで行き、魔法防御の弱いスライムを焼き尽くす。


「バ、バカなッ!?」

「おい、効いてないんじゃないか?」


そのはずだった。

だがしかし、ミミックによる魔改造によって物理無効のゴーストスライムと魔法無効のゴールドスライムから合成された、このスライムに弱点は無かった。

スゴイ、流石俺の作ったスライムだ。

新しい合成モンスターの性能テストにミミックは心躍らせた。


そしてスライムの攻撃。

スライムは変形する事で冒険者に殴り掛かった。


「うわぁぁぁぁぁ!……あれ?」

「…………」


しかし、スライムの攻撃は何故か擦り抜けるように干渉出来なかった。


「おい、このスライム擦り抜けるぞ!ゴーストみたいだ」

「でも、ゴーストみたいに魔法で倒せないわ」

「でも実害がないみたいだし、別に放置で良いんじゃないか?」


人間達の会話にミミックは絶望した。

し、しまったぁぁぁ!物理無効にしたから物理攻撃出来ないし、魔法無効にしたから魔法が使えないじゃないか!

この瞬間、世界最強のスライムは最弱のスライムになったのであった。


「さぁ、何が出るかな……って、また空かよ!」

「目的の未発見アイテムはどこかしらね」

「新種のスライムも捕獲できないし、踏んだり蹴ったりだぜ」


そう言って去って行く冒険者達の背中を、ミミックは次こそはと新たな決意を胸に抱きながら見つめるのだった。


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