ミミックの野望
失いかけた肉体をミミックは再構成していく。
その過程で、ミミックは魔王へと到達していた。
魔王に到達する上で、ミミックの肉体は根源的な願いにより変容する。
それは、知りたいという知識欲だ。
知識欲によってミミックの身体は適した物へと変わっていく。
知識欲を満たすために、より多くの情報源が必要だ。
その為にミミックは自身の肉体を複数に分けることにした。
状況に適応できるように自身を改造できる肉体にした。
そうなる事でどんな環境でも知識を得られるようにしたのだ。
魔王やモンスターに殺されて情報源が減るのは非効率である。
なので、種の保存を目的とした繁殖活動のように、個の保存を目的とした増殖ができるようにした。
死ぬ事でその個体が持っていた情報が失われるのは効率が悪い。
だから、常に情報を共有できる存在になろうとした。
こうして、ミミックの身体は形作られていく。
それは、それぞれが同一でありながら複数の存在である群体の魔王。
自分が死んでも自分と同じ存在をバックアップとした不死の魔王。
世界中で収集した情報を共有する、英知の魔王。
まるで、ルービックキューブのような魔王がそこにはいた。
「「「ミミック?」」」
目が覚めたミミックは、自身の変化を本能的に理解していた。
自身が魔王と言う存在になったということ、そして自身が魔王となった事でモンスターを経験値から生み出せると言う事だ。
だが、魂が元となる経験値は存在の変化に使い果たしている事を自覚していた為に試す事は出来なかった。
と、同時にミミックは自身が普通の魔王のようにモンスターを生みだせない事を自覚していた。
普通の魔王であれば、自身に近い存在を配下として生み出す事が出来る。
だが、自身が作った場合は何らかのモンスターではなく自身と同一存在のミミックに固定されることを本能的に理解していたのである。
ミミックの望む増殖は、魔王が配下を作り出す様に自身のバックアップを生み出す事なのである。
全てが同一で同列の存在、一体でも残れば再び増える事が可能であり、他の魔王よりは弱いが死に難い。
知識の量だけは負ける事はなく限りなく不滅に近い存在と言う事だけは分かった。
ルービックキューブのようになったミミック、それは27体の箱型ミミックの集合体であった。
互いに情報を共有しているためか、その知覚領域は急激に広がっており、同時に並列作業での思考を行う事が可能となった為か思考速度が急激に増していた。
ミミックは加速した思考速度により、周囲の様子を遅く感じる事が出来ていた。
そして、自身へと向かってくる何らかの魔法を感知した。
それは現実時間では高速ではあったが、加速した思考で感知したミミックには遅い物である。
ミミックは生存率を高めるためにあらゆる方向に自分達を飛ばす。
そうする事で、攻撃を避けたのだ。
ある個体が自身が消滅する事を前提に、攻撃のあった方向に飛び立った。
其処には、此方に魔法を討った存在。
巨大な魔力を内包した、魔王であろう存在がいた。
「よぉ、お前が新しい魔王か?分裂するなんておもしろい奴だな」
「いったい、何故攻撃した?」
「攻撃?ただの挨拶だよ、新しい魔王の誕生のな」
目の前にいる魔王、それは上半身が人間の女で下半身が蛇のようであった。
どうやら、ラミア種の魔王のようである。
「魔王とあったのは二回目だが、貴様らは些か好戦的すぎないか?」
「魔王にもよるさ、魔王ってのはそれぞれ強い願望に沿って生きている。好戦的な願いの奴と会ったんだろ」
「ほぉ、興味深い話だ」
「私は最強になりたい。この衝動に、戦いたいという衝動に付き合って貰うよ!」
「やれやれ、今日は厄日だな」
ラミアが小さな口を開いた。
そこに集まるのは魔力の塊、まるでドラゴンのブレスのようだと見ていると、それは一気に放たれる。
「カァァァァ!」
「あぁ、これは――」
ブレスに飲み込まれ、肉体が焼き尽くされていく。
どうやら魔王になる前よりも防御力が下がっているようだった。
だが、この魔王の目的である力比べに付き合う事で足止めと情報収集は出来た。
ミミックが魔王と戦闘した区域から遠く離れた場所、四方八方に散らばっていたミミック達は戦闘していた個体の死を認識した。
やれやれ、さっそく死んでしまったか。
状況は、その一言に集約されており、新たな個体を作らなければとも考えていた。
『これからの方針をどうするか』
『現状の26体では生存率が低すぎると思われる』
『他の魔王に狙われる可能性が高い、隠れるべきだろう』
『まだ調べてないダンジョン内に身を隠すのはどうだろうか?』
『では半数はダンジョン内に、残り半数は安全地帯の探索をしよう』
『異議なし』
僅か数秒で結論を出したミミックはそれぞれが被らないようにダンジョンへと向かっていた。
それは街の中にある物であったり、火山地帯に存在する物であったり、海底にある物から人の人知の及ばない空中庭園のようなダンジョンであったりした。
ダンジョンをミミックが隠れ蓑にしようと思ったのには訳があった。
それはダンジョンのコアを飲み込む事で多くの経験値を得ることが出来るからだ。
また、ダンジョンは人間くらいしかやってくる事は無く、滅多に外部のモンスターが現れる事がないからだ。
力を蓄える間、魔王に連なる者達が余りやってこない立地であったのである。
残る13体のミミックは、安全地帯を求めて行動する。
人の生活圏内こそが最も安全と考えた個体は自身を宝石箱に変化させ、行商人の荷物に紛れ込んだ。
周囲と同じになる事を安全と考えた個体は、折れた樹木に変化して森の中に紛れた。
過酷な環境に身を置く事にした個体は、岩の用の形となって火山の中に隠れ潜んだ。
敵地こそ盲点と考えた個体は、どこかの魔王の城でただのミミックとして紛れ込んだ。
ダンジョンを攻略しながら増えるミミック、潜伏しながらバックアップとして必要になる時まで身を隠すミミック。
その身が人知れず、世界を征服するのは近い。
これにて完結となります。ですがネタが思いつき次第、続きを幾つか書こうかなとも考えています。こういう話が読みたい、などありましたら気軽に感想欄に書いて頂けると思い付き次第書かせていただきます。




