初めての友達
ミミックは考える。
自分が何をしたいのか、そもそも何が出来るのか。
幸い、答えはミノタウロスが教えてくれた。
「ミミィ?」
「そうだ、ミミックてのは大体三つの能力を持っている。まずは擬態という形を少しだけ変えられる奴だな。次に保管、身体よりもたくさん蓄えられる。最後が合成、宝箱の中で錬金する能力だ」
そんな事が出来るのか、とミミックは早速試してみる。
すると、あっけなく出来た。
ミミックの身体が長方形の宝箱から正方形のブロックに変わったのだ。
感覚としては視界が狭くなった気がしたので出来ているだろう。
出来てる?とミノタウロスに聞けば、目の前にアックスが落ちてくる。
目の前に落ちたアックスには四角い箱が写っていた。
ミノタウロスはこれがお前だと言った。
ミミックは擬態を意識して解除すると、その視線の先にある箱が長方形の宝箱に変わったのを確認した。
手を上げれば、宝箱は傾く。
これが、自分……
ちょっとした感動だった。
次は保管という能力を試してみる事にした、そこら辺の小石をミノタウロスに入れて貰ったのだ。
ミノタウロスが言うには食べようとしなければ、ずっと取り出せるらしい。
しかし、普通は本能的に分かる事だからあっているのかは分からないそうだ。
これも実際にやるとあっさりできた。
箱の中身である小石をピュッと勢いよく吐き出せたのだ。
ミノタウロス曰く、ミミックらしい攻撃らしい。
最後に合成、ミノタウロスは冒険者という人間が使っていた折れた剣とスケルトンの骨や小石などを箱に入れた。取り敢えず、何となくで合成が出来るはずだから入りそうな物をいれたらしい。
ミミックはアイテムとやらを合成して良い物を作って、それを欲しがるモンスターや人間を食べるのが定石というやつだそうだ。
定石というのはみんなやってるということらしい。
「ほう、ボーンダガーという奴だな。ゴブリンが偶に使ってる」
自分の中で、出来たという確信が生まれ吐き出したそれは骨の一部が鉄である小刀だった。
ミミックは、あっ見たことあるなと自分が出した物を見た。
これが合成か、ちょっと感動した。
ミミックは気になった事を片っ端から聞いた。
人間とは何か、ダンジョンとは、階段の向こうには何があるのか、その逆は何があるのか。
ミミックはミノタウロスに知りたがりだなと言われた。
そして気付いた、自分は知りたいのだ。
知らない事や出来る事を見つける発見というものが好きなのだ。
やりたいこと、それは知る事だ。
自分の知らない物を知りたいのだ。
「ミミィ!」
「そうか、やりたいことは見つかったのか」
「ミミミー!ミィミィ!」
「それは無理だ」
一緒にあの階段を下りてみよう、その提案はミノタウロスに却下される。
何故だか胸が苦しくなった、悲しいという奴だ。
「俺はダンジョンの一部だから、ダンジョンのモンスターではないんだ」
「ミィ?」
「俺は壁と一緒、出られないんだ」
「ミィ?」
「何故かは知らないが、そういうもんだ」
ミミックは不思議でしょうがなかった。
彼は出たくないのだろうか。
「ミミィ?」
「そう悲しそうにするな、魔人という奴が来たとき教えてくれたのだがな。ダンジョンに縛られないくらい強ければ出る事が出来るらしい」
「ミィ?」
「強いってのは、なんだろうな。でも、多分進化する事が強いって奴だろうさ」
「ミィミィ!」
ミミックは、じゃあ強くなってミノタウロスを外に出すと言った。
ミノタウロスはお前が強くなってもなと笑っているが、何故笑っているのかはミミックには分からなかった。
「行くのか?」
「ミィ!」
「そうか、初めての友達だから寂しくなるな」
「ミミ?」
「友達ってのは、ゴブリンが群れたり人間が集まったりするだろう。ああいう奴らしい。俺達は一緒にいたから友達だ」
そう言って快活に笑うミノタウロスにミミックは嬉しく思った。
そうか、これが友達という奴か。
悪くない物だ、そう思った。
ミノタウロスに色々注意されて、ミミックは階段を下りる。
床がゴツゴツしている初めての経験におっかなびっくりしながらも楽しんでいた。
ミノタウロスが言うには、下に降りるとミミックと同じように一段階進化したモンスターがいるらしい。
だから、気を付けろとの話だった。
ミミックの最初の行動は探索と隠れるという物だった。
音が聞こえるまで進み、音がしたら擬態を使ってみる。
最初に出会ったのは血の色をしたスケルトンだ。
血の色は赤と呼ばれる色だとミノタウロスが言ってたので、赤スケルトンだ。
血の色なんて見たことないと言った時、冒険者の腕とやらから落ちる液体が似たような色だった。
ミミックは考える、何で赤いのだろうかと。
スケルトンと違った所は見当たらなかった。
観察して、考察して、結論を出す。
あれは色が付いてるだけだと。
「ミミィー!」
ミミックはお腹が空いていたので倒せそうな赤スケルトンにタックルをした。
進化したことにより早さも強さも違う、タックルだ。
ガシャンともゴロンとも聞こえるような音を立ててバラバラになる赤スケルトン。
やはり、同じスケルトンだ。
「カカカカカ」
「ミミィ!?」
そう思った瞬間、赤スケルトンの骨が独りでに動き出した。
そしてそれは逆再生する様に戻っていく。
さっきの赤スケルトンの状態になった。
驚きだ、赤い奴はバラバラから元に戻るのだ。
「ミミィー!」
いつでも動けるように威嚇するミミック。
それは無意識の行動だったが、それは自然だと感じていた。
赤スケルトンは意志の介在しない顔で、ミミックに向かって歩いてくる。
ミミックは思わず目を瞑った。
自分はどうなるのか、嫌な気持ちになった。
そうか、これが恐怖という奴か。
待てども待てども、何も起きなかった。
ミノタウロスの時みたいな衝撃が無い。
恐る恐る目を開けると、そこには赤い骨が二本。
赤い骨が、絶えずミミックにぶつかっている。
ミミックは赤スケルトンが歩いていると言う事に気付いた。
自分によって進めなくなっているが、歩いているということだ。
襲っては来ない、そう気付いた。
赤スケルトンを平らげて、ミミックは探索していく。
今度はゴブリン達を見つけた。
ゴブリン、だと思う。すこし、大きいが自分がいた所にもいた。
そこでは少なかったが、こっちはたくさんだ。
大きいのがたくさん、油断せずに行こう。
ミミックは擬態して隠れた、するとゴブリンはミミックに気付く。
しめしめ、ここで食べてやろうか。そう思ったし、食べたい衝動に駆られた。
だが考える、食べた後どうなるか。
五匹いるから四匹が襲ってくる、嫌だな。
それは恐怖だ、ミミックは本能に逆らった。
ゴブリンはゴブゴブ言いながら宝箱を開ける。
そして中の小石を見つけて、ガッカリしたように肩を落として小石を宝箱に戻して仲間たちと移動しだした。
ゴブリンは、その宝箱がミミックだとは気付かなかった。
何故なら、ミミックなら襲ってくるからだ。
ミミックはゴブリンがいなくなってから動き出す。
そしてミミックは気付いた。
スケルトンは見つけても気にしないが、ゴブリンは中身が気になるのだと。
ミミックの探索は続いて行く。