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魔王誕生

敵の、自分の名前すらうろ覚えな魔王とミミックは相対していた。

先に動いたのは魔王の方だった。

指先一つで魔法陣を即座に空中へと投影し、そこから魔法を放ってきたのだ。

それは極大の炎の塊、まるで太陽のようなそれが向かってきた。

それに対し、ミミックは静観を貫く。

動かず、ただ自分に魔法が当たるのを待っていたのだ。

そして魔法が炸裂し、ミミックは炎に包まれた。


「フン、口ほどにもない奴だ」

「終わりか?詰まらん奴め」

「な、何ィ!?無傷だと!」


失望したかのような声でミミックは魔王を見た。

魔王と言うからにはどれほどかと思えば、ミミックが吸収できる程度の魔法だったからだ。

まぁ、小手調べだろうと同じ魔法をそのまま返す。


「喰らえ」

「お、お前!俺の魔法を真似するな!」

「ほぉ……」


放たれたミミックの魔法を、魔王は腕を振るだけで消滅させた。

魔法を一瞬で分解したのだ。

流石は魔王と言った所かと、ミミックは感心する。

だが、まだつまらない相手だ。


「クソ、これならどうだ!」

「む、これは……」


魔王の腕に黒いエネルギーが集まる。

それは、ミミックの知らない魔法だ。

身体に穴を空けた物だろうと、警戒しミミックは魔力で幾重にも障壁を張る。

張り終えると同時にそれは放たれた。

幾つもの障壁を打ち破っていくのは極大のレーザーである。

ミミックを飲み込めるほどの大きなエネルギーの奔流だ。


「フハハハハ、いいぞいいぞ」

「クソ、防ぎやがって!もっとだ!もっと喰らえ!」


せめぎ合う障壁、破られて威力が弱くなったそれと釣り合っていた未知の魔法、それは魔王の意志によって威力を増す。

倍近い大きさとなり再び勢いを戻して、障壁を破壊していく。


「やるじゃないか」


ミミックは流石にこのままでは大きなダメージは避けられないと悟り、新たに障壁を追加していく。

壊れる度に新たな障壁を形成するのだ。

一枚壊れると二枚増える、そんな状況が出来上がっていた。


「おい、卑怯だぞ!障壁なんかやめて、掛かってこい!」

「馬鹿が、どうしてそんなことをしなければならない。馬鹿な事を言うんじゃない」

「あぁ、もう本当に怒ったぞ!二回も馬鹿って言いやがったな!」


魔王が攻撃をやめた。

次の瞬間、魔王の雰囲気が不穏な物へと一気に変わる。

その変化にミミックは気付き警戒する。

そして、その雰囲気が何だったのか直ぐに分かった。


「これは……」

「これが全力全快だぜ、正直息をするのもキツイがな」

「やはり貴様、馬鹿だろ?」


それは今までミミックを襲っていた魔法を発動する為の魔法陣。

それがミミックの周囲を取り囲んでいたのだ。

流石に一つであれば幾つもの障壁でガードする事は出来た。

だが、それはミミックが全力で対応してやっと一つと言った所だ。

そんな魔法が、数え切れない程に展開され周囲を取り囲んでいるのだ。

隔絶した魔王との差、次元が違うと言うにふさわしい実力の差であった。


「もう一割ほどしか魔力が残ってないが、テメェを殺せるなら構わないぜ」

「やはり貴様は馬鹿だな、脳がないからか?」

「お前、ピンチでもブレないな!」


流石にミミックでも自身が危うい状況に立たされていると言うのは分かる。

だが、圧倒的な実力差があるからと言って負けるわけではないのだ。

自分よりも強い者を屠る等と言う状況は意外と多く見受けられるのだ。

そして、その共通点は足掻くと言う事に尽きる。


ミミックは周囲に展開された魔法陣を見る。

ミミックを中心に球体を描く様に囲んでいるそれ、未知の魔法故に術式を分解する事は出来ない。

人の英知では辿りつけない魔法の神髄とでも言おうか、複雑怪奇に作り上げられた代物だ。

受ければ死ぬだろう、故に被弾率を下げる方向で行動する。

このままでは周囲から攻撃を受けるのは確実、故に囲む魔法陣に自ら突っ込む。

そうすることで、少なくとも攻撃を減少できる。

更に、被弾する攻撃の余波を利用して囲いから抜ける。

前方と斜め方向前面からの攻撃を防げば勝機はある。


「まぁいい、死ぬがいい!」

「それは勘弁して貰いたいものだ」


魔法陣に魔力が集まる。

放たれる前にミミックは想定していたように全速力で特攻した。

放たれる魔法はレーザーの如く発射される。

前面、一点に向かって照射される魔法の塊。

それを吸収していく、だが吸収できるのは前方にあるものだけで斜め方向からの攻撃が容赦なく身を削る。

ミミックが前方に移動していた事により、少し離れた後方では魔法同士の衝突による小規模な爆発が起きる。

それを障壁で防ぐことにより防がれた攻撃の余波を受けてミミックは更に突き進む。

衝撃がミミックに襲いかかるが前面よりは軽微なダメージで寧ろ推進力を増す一手でしかないのだ。


「ぐっ……」


障壁で完全に防ぎきれなかった為、後ろ部分がほぼ破損していた。

正面からの攻撃は防げたが、斜めからの被弾は免れず一回り程小さくなっていた。

翼は削り無くなり、最早一本の棒が飛んでると言っても良いくらいで、原型を留めてはいない。

全体をアイスクリームに例えるなら、今のミミックはアイスが解けた、芯だけの状態のようなものだ。

だが、突破した。


「何ィ!?だが、満身創痍じゃねぇか!」

「終わりだ、魔王よ。今の私では貴様を捕獲する事は出来そうにない。残念だが、死ね」

「舐めんじゃね、格下が!」


ミミックは満身創痍の身体を魔王に向けて、攻撃を放つ。

それは今まで身体に保管されていた、大量の水。

そう、海水を一気に放水したのだ。

圧縮して一点から放垂れる水、それはレーザーのように一直線に伸びる。

ミミックは魔王の攻撃を喰らった事で、その魔法の原理を理解していた。

一点に力の方向を絞り、魔力の塊を放つ。

それは、魔力を光すら飲み込むほどの圧力で内側に集め、そして解放して勢いよく放つ魔法。

その応用を自身が再現したのだ。

圧縮した海水を一点から放水、それは所謂ウォーターカッターと言われる物である。


「こんな魔法、無駄だぜ」

「いや、終わりだと言ったはずだ」


魔法ならば、確かに術式分解によって消滅する事が出来るだろう。

魔法に精通した魔王に魔法は通用しない、そんな事は知っている。

だから、この攻撃は魔法を用いない。

どんな魔法も消し去ることが出来ると言う魔法に対する絶対的な自信から逃げなかったのだろう。

だがこれは魔法ではない、物理である。


「むぅ、魔法じゃないだ――」


驚愕の表情で固まる魔王を水の奔流が貫いた。

飛散する魔王、瞬間魔王のいた場所から巨大な光が天地を貫いた。

まるで柱のようなそれは、解放された巨大な魔力の塊だ。

そして、その光の柱にミミックの身体が飲み込まれていく。


その日、世界から一体の魔王が消滅した。

天地を貫く巨大な魔力の柱、それは魔王が死んだ瞬間に発生する解放現象と言われる巨大な魔力の爆発だ。

それは魔王が死んだことを表しており、数百年ぶりに魔王が打ち破られていた事を表していた。

そして、その爆発の中心でミミックは懐かしい現象を感じる。


外側から身を焦す熱、それは過剰に供給される経験値。

内側から身を削るような痛み、数段階の急激な進化により過剰に消費されたのだ。

喰らった魔王の魂を用いた進化は幾つかの段階を無視して種族の限界まで到達させた。

限界への到達、種族の最終進化、それはミミック種の魔王の誕生を意味していた。



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