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魔王登場

リザードマンの元から離れ、銀の流線型をした船は空を飛んでいた。

先端には刃が揃ったミキサーのような穴があり、後部には絶えず炎を撒き散らすジェットのような物がある。

左右には膨らみを帯びた翼を搭載し、その下には巨大な二門の砲門、船の底には陸地を滑走できる為か車輪のような球体が搭載されており、船の中央には赤い宝石が輝いていた。


人の歴史の中で言えば、数百年の間ミミックは空にいた。

何故それほどまでの間、ミミックが地上に下りなかったかと言うとそれは観察していたからだ。

海が殆どなくなり、地上では様々な異常が発生していた。

環境の急激な変化により、自然界のバランスが崩れたのだ。

深刻な水不足は植物たちを枯らせるに至たり、食糧不足が人々を争わせていた。

眼下に広がる地上では、獣のような人である獣人と人間が争っていたり、耳の長いエルフと呼ばれる者と寸胴で小さな体系のドワーフが争っていたり、様々な場所で争いが起きていた。


だが、生物と言うのは環境に適応する物だ。

多くの者が弱り死に掛け、サンプルとしてミミックの中にコレクションされているが生き残っている者達は多くいた。

魔物、つまりモンスターは進化する為に当たり前だが過酷な環境に人間達も適応していた。

見えないだけで人間も進化していた。

彼らのおもしろい所は姿を変えずに進化する所だ。

進化する事でどういう能力、性質、傾向、その他の色々を推測できるのがモンスターである。

しかし、人間は同一の見た目で多種多様の個体差を持っていて推測する事が出来ない。

彼らを調べるには長期的な観察が必要なのだ。


群れを作る人間達は、その細かな違いを持って集団を形成する。

エルフで例えるならば、同じエルフでありながら白いのと黒いので争っている。

どちらも同じに見えるが、肌の色が違うことが彼らの価値観を刺激して争いに発展しているようだ。

獣人なら獣の種類、ドワーフなら作る物の違い、彼らは同じ物で集まり違う物を拒絶する。


そんな彼らはモンスターよりも複雑な欲望を基準に行動している。

食料が無くなり移動するのがモンスターだとしたら、人間は食料がなくなったら色々な行動を起こす。

それは戦争であったり、開拓であったり、農耕であったりと様々だ。

一つの事柄に対して、発生する行動は多岐に渡る。

また、どう考えても勝ち目がないモンスターを何度も襲う集団やモンスターを飼い馴らす集団もある。

地域によってモンスターに対しての行動も変わってくる。

多様性に富んだ彼らを観察するには時間が足らず、気付いたら百年ほど経っていたのだ。


深刻な水不足も魔法を使って対応しており、この数百年で洗練された技術となっていた。

追い込まれたことにより、一時的に争いをやめて技術を磨き、そして状況を改善すると再び争いだす。

人間と言うのは好戦的な生物である。


様々な国を見て、未知なる状況を観察し、これ以上得る物がないと判断した場合は環境を改善するついでに溜め込んだ海を放水して国を破壊する。

幾つかの国を海水で破壊したことで、人間達から災害扱いされているがミミックは知った事ではない。

今日もいつものように、文化の停滞した国を破壊しようと行動した。

そこは魔法排他主義を掲げる国で、侵略ばかり繰り返す国だ。

半世紀ほど前に見つけた国で、どう変化しているかと思えばまったく変わっていなかった。

まるでそこだけ時が止まったかのように文化に変わりはなく、変化したのは奴隷の種類と領土の広さだけだった。実につまらない国である。

なので、上空から大量の海水を放つ事で破壊する事にした。

これにより、周囲の人間達が戦争を始めて新しい技術などを研究し始めるからだ。

発展しないならあるだけ邪魔である。


「ミィ……」


ミミックは感嘆の声を漏らした。

それは、海水を防ぐ国を目にしたからだ。

数十年前に他の国で使われている技術に似た魔法、それが国全体を覆って海水を逸らしているのだ。

やればできるじゃないかと、不可視の壁に沿って流れる海水を見る。

ミミックはこの時点で状況を察した。

どうやら彼らは此方の行動を推測し、自分の対策を練って、待っていたのだ。

初めての人間による反抗にミミックは目を輝かせる。

退屈だと思っていたが未知なる経験に心躍らせたのだ。

次は何をするとミミックが見れば、今度は様々な魔法が飛んできた。

本来ならば国を覆う魔法にぶつかるはずなのに、それを透過して飛んでくる魔法。

外からの攻撃を防ぎ、内側から攻撃出来るように防壁は改良されたのかと感心する。

だが、飛んでくる魔法はどれも知っている物であり、吸収するか魔法を構成している物を解析して分解する。パズルをバラバラにするように、魔法を分解する。

知らない魔法ならば分解は出来なかっただろう、それが彼らの誤算だった。


「ミミィー!」


お返しだ!と一点に向けて許容量一杯の魔力で作り上げた魔法を放つ。

それはミミックが即席で改造した魔法だ。

何が起きるか分からないがちょっとだけ弄ってみたのだ。

結果、魔法は極太のレーザーのようになり防壁を貫通するに至った。

だが、ミミックは少し不満そうだ。

理由は、同じ効果でもっと効率化された物を知っているからだ。

つまり、実験は失敗だったのだ。


失敗したが、それは十分な威力を持って国を破壊した。

約百年掛けて世界の半分以上を征服した帝国と言うなの場所は数分を持って消え去ってしまったのだ。




そして、帝国を破壊してから数日後の事だ。

新しい場所を求めて移動していると、地上から黒い光がミミックを貫いた。


「ミミッ!?」


突如攻撃に遭い、ミミックの右翼に穴が空きバランスが崩れる。

久しぶりの痛みに、ミミックは攻撃した場所を見た。

そこには強大な魔力を持った何かがいた。

様々な装飾を身に纏った骨の塊、小さな頭蓋骨が集まって人の形を成しているモンスターだ。

知性を獲得した魔人か、名前を持つ特殊な個体か、それともと思案していると掠れた声が上空に響く。


「我が名は第五魔王、アルステス……ルルマギノ……シグゥリント!貴様を討つ者だ!」

「ミミィ……」

「何言ってんだお前!」


返事を返して、途中で共通語に直さないといけないとミミックは気付いた。

仕方ないから同じことをもう一度言う。


「何だ貴様、いきなり攻撃して変な名前で偉そうだな。長すぎるし、言い難くないか?」

「変じゃねぇ!それにさっきより喋ってるじゃねぇか!」

「そうか、それで何のようだ?」

「お前、魔王でもないのに偉そうだ!それに勇者を殺しやがったな!」

「何の話だ?」


意味が分からない事にミミックが顔を顰める。

と言っても、本体はそのままで船に乗っている精霊が感情表現として顔を歪めているだけだ。


「お前が潰した国のことだよ!このアルステス、ルル……ルルマ、取り敢えず俺が一生懸命作った帝国の事だよ!よくも壊したな!」

「何時か消える物だ。変化しないから早く消して何が悪い」

「俺が育てた勇者と戦う前に壊すんじゃねぇ!この偉大なる魔王、アルステス……ル、ルルマ?とにかく俺と戦え!」

「何故だ、それは時間の無駄だ」

「勇者殺した!勇者よりお前強い!お前倒せば、俺はもっと強い!他の魔王に自慢できる!」

「そうか、お前は馬鹿なんだな」

「俺は馬鹿じゃねぇ!」


怒りを露わにした魔王は黒い光線を指先から放った。

それは吸収できる許容量ギリギリの一撃を伴った未知の魔法。


「気が変わった。お前を調べよう。魔王のサンプルはまだ持ってなかったしな」

「魔王にもなれてない格下が調子乗るな!」

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