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ダムを作ろう

ミミックがリザードマンの元に住み着いてから季節が数回巡った。

リザードマン達は香辛料の栽培に成功し、食生活を豊かにしていた。

だが、良い事ばかりでもなかった。

それは、年々沼地の水位が低下しているのだ。

その原因は雨が降らなくなったことに起因していた。


「ギャ、ギャギャガァー!」

「ミッ、ミミミミクー!」


お互いの言語で会話が成立する様になるほどミミックは彼らと生活していた。

故に、彼らが懸念する事がどういうことか分かっていた。

それは沼地の枯渇である。

リザードマン側からは水を求める声が上がっていたが、ミミックは余りそれには乗り気ではなかった。

というのも、水を出すのは有限であり一時的な処置でしかないからだ。

雨が降らなくなった原因、そしてそれに対する対策が無ければジリ貧なのである。


そもそも、雨とはどこから来るのか?

それは空からである。

空にある雨雲から発生しており、雨雲と言うのは高山などで観測した所によると水蒸気の塊であった。

ならば、雨雲が消えた原因が水蒸気が消えた事に起因する。

瞬間、ミミックの頭脳は一連の騒動の全貌をピースが嵌るように把握した。

それは……


「ミ、ミミックー!?」


どうやら、海が消えた事が原因じゃないか。

つまり、自分が飲み込んだせいで異常気象が起きたと言う事なのだ。


「ど、どうしましたミミック殿!」

「お、おぉ御老体よ。すまない、少し驚愕の事実に行きついてしまったのだ。今更と言うほど、遅すぎる発見であった」

「は、はぁ……とにかく、無事なようですな」


突然のミミックの奇声を聞き付けて、長が慌ててやってきた。

ここで正直に事実を言うか悩ましい所だったが、ミミックは何とか誤魔化した。

話したところでやってしまった事には変わらない、問題なのはどう解決するかなのである。

まず、最初にやる事は海の水を元に戻す事だがそれでもすぐに効果が出ないかもしれない。

効果がすぐに出てしまうのも、原因がミミックであるとバレるのでそれはそれで困る。

つまり、少しずつ戻して沼地の枯渇を解決しないといけないのだ。


「私に良い考えがある」

「と、いいますと?」

「ダムを作ってはどうだろうか」


ダム、その言葉にリザードマン達が慄く。

そして、控えめに長が手を上げて質問した。


「ダム、ってなんでしょうか?」

「そこからか」


ミミックはダムについて話す事にした。




言ってしまえば、雨水を溜める建造物である。

これを作る事で水不足は解消され、水が多い時は放水する事も可能である建造物だと簡単にミミックは説明した。

しかし、リザードマン達はどうやって作ればいいのか分からない。

なので、ミミックにどうすればいいのか問うた。


「うむ、全て私がやろう。なので、材料の調達を頼みたい」

「材料でございますか?」

「砂、砂利、石灰、それと魔力の含んだ鉱石があるといい」

「分かりました。それで村が救われるなら、協力いたしましょう」


かくして、ダム建設が開始した。

ミミックはまず最初に沼地へと沈んでいった。

何と言っても地盤に問題があると全てがご破算になってしまうからだ。

沼地へと沈み、地面を掘っていくミミックを見てリザードマン達に緊張が走る。


「ギャギャギャー!?」

「どうした、何だと!?沼地が凹んだじゃと」


呼ばれて飛びだした長は沼地を見て口を大きく開いた。

沼地があった場所、そこには嘗て若い頃に一度見た渦と言う物が発生していたのだ。

そして、その渦へと周囲の小屋や食料が飲み込まれていく。

地上に作られた家は平気ではあるものの、沼地に生息する魚を取る為の道具などが置いてある小屋は渦に飲み込まれており、また沼地に生息する魚などが飲み込まれていく。


「これが、ダム作り……」


なんと過酷な道を選んでしまったのだと、リザードマンの村長は愕然としてしまった。

一方、村長がそんなことになってると知らないミミックは地盤改良の為に地面へと潜っていた。


「ミミッ!」


なんと、見た事ない物があるぞ。おぉ、こっちにも!これは骨になったモンスターか、武器もあるな!

本来の目的を忘れ、ミミックは地面を縦横無尽に駆け巡る。

いつしか、月と太陽が何度も交差しリザードマン達の不満が溜まった頃ミミックはひょっこり帰ってきた。


「待たせたな、長よ」

「おぉ、ミミック殿。三ヶ月ぶりですな……」

「馬鹿な、そんなに経っていたのか。もしや、地面の中では時間の流れが違うのか?」


ようやくと言った感じでミミックが沼地の跡地に戻ると疲労困憊の村長がやってきて、月日がどれほど経っていたかを告げた。

当然時間の流れが違うなんて事は無く、単純に好奇心の赴くままに行動していたミミックは楽しさのせいで時間の感覚がズレていただけなのだが。

しかし、リザードマンにとってミミックのちょっとは数ヶ月という長い時だったのだ。

大変、いい迷惑である。


「すまないな、それでは早速始めよう」

「材料の方は此方にございます。頼みましたぞ、ミミック殿!」


リザードマンの村長は言外に、お前のせいで周りの批判が大変なんだからちゃんとしてくれよと伝えていた。というか、目で必死に訴えていた。この数ヶ月、環境変化に対する周囲の批判に耐えていた村長は早く終わって欲しかったのだ。


「うむ、初めての試みだが任せるがいい」


そんなことも露知らずミミックは、よしうまく出来るかな。

と、そんな軽いノリで実験感覚で作業を開始するのだった。


体内で砂と砂利と水、それと魔石に石灰を合成していく。

そして出来た液状のそれをミミックは沼地跡地に、吐き出していく。

そうして、沼地はいつしか灰色の窪地になっていた。

ミミックの匙加減で、リザードマン達に許可が出された。

作業中は入るなと言われていただけに、彼らの興味はスゴイ。

そして、彼らは灰色の大地を触って全員が同じことを言った。


「ギャギャグ……グギャ……」

「すごく……固いですのぉ……」


まるで岩のように固いそれを叩いては、なんだこれとリザードマン達は驚いた。

そんな彼らを満足げに見たミミックは続いて、鉄板のような物を窪地の周囲に射出していく。

ミミックの口、蓋のような所から射出されたそれは囲いのような物を形成する。

そこへ、ミミックは液状の物体を流して満タンにした。

そうして、数日が経つと囲いの中には大地と同じ灰色の壁が出来ていた。

まるで岩のように固いそれは堅牢な、それこそ人間が作る砦のような頑強さであった。


「ミミミミミミ」


完成した灰色の窪地へ、ミミックは小刻みに震えながら大量の水を吐きだした。

まるで間欠泉のように流れ出る水、そしてミミックの体内から出て来た川魚、透き通った水を悠々と泳ぐそれを見てリザードマン達が大いに沸く。

ダムが、完成したのだった。


「長よ、ここで川魚を育てなさい。魔石により、水は常に綺麗で生物の飼育に優れた物だ。餌が無いのが難点だが、それも大地から取れば問題無かろう」

「どうしてそのようなことを、まるでいなくなるかのようではございませんか?」

「行かねばならないのだ、私にはやるべきことがある」

「そう……ですか、だからこのようのことを」


ダムの完成を皮切りに、ミミックは翌日消えるようにいなくなっていた。

ミミックがどうしていなくなったのか、それは何か大きな使命があるのだと最後の言葉を交わした村長しか知らない事だった。

本当の所は、海を元に戻さないといけないな。

そう思ったミミックの思いつきで、ちょうど飽きていた頃なので新しい場所へと行く事にしただけだった。


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