ドラゴンと少子高齢化社会
誰かに依存せず、協力を仰ぐ程度に関係性を築くリザードマン達にミミックは好ましいと感じていた。
ドラゴン達に対しても必要以上には庇護を求めず、利用するだけ利用して好き勝手言う人間よりは好感の持てる種族である。
そんな彼らに頼み込み、ミミックはある山へと向かった。
そこはドラゴン達が住み着いた険しい山脈だ。
予め、ドラゴンと言う種族が魔力を多く含んだ物質である貴金属や宝石が好きだと言う事をリサーチしていたミミックは手土産にと地中から採掘、生成した物を持参してやって来た。
空を飛んでいると、山々の至る所でドラゴン達が此方を見ているのに気付いた。
何やら敵意を含んでいるような視線を感じるが、此方からは話し掛けない。
挑発的な態度に反応して争いになったら、目的である挨拶がダメになるからだ。
そして、ようやくミミックは目的地である山頂にやって来た。
そこは、ドラゴンが集まって話し合う事が出来るように広くなっていると聞いた場所で山の頂にしては平地のように整った場所だった。
そんな場所に一軒の石造りの家が建っていて、自分の来訪と同時にそこから隻眼のエルフらしき者が現れた。
「これはこれは、わざわざ出迎え有難い」
「貴方が話に聞く、ミミック殿ですね。さぁ、中にお入りください」
エルフに見えるが、その内包する魔力からしてドラゴンであろうと確信した人物に進められてミミックは対知的生命体コンタクト用装置を起動して、リザードマンの姿をした精霊で家の中に招かれた。
中に入ると手慣れた様子でお茶を出され、ミミックはそれを口に含む。
魔力で分解し、解析する事で味を計測、結果美味であった。
「実においしいですな」
「そうでしょう、わざわざエルフの森から取り寄せた物です」
「そういえば、御身はエルフの姿をしておりますが何か訳があるのですか?」
ミミックの質問にその疑問はもっともだと、嫌な顔を一つせず答える。
「魔力消費を抑えられます故、小さい方が何かと合理的ですからな。この姿は私が昔ヤンチャしていた頃の名残と言いますか、竜帝ガラハッドの話は知っておられますか?」
「ガラハッド……そういえば、人間の物語で勇者に討たれた邪竜の話がありましたがアレは創作、もしやモデルは貴殿ですかな?」
「そうです。アレは私とエルフの戦いが元になっております。私は死んでませんし、人間に傷一つ付けられた覚えはありませんがね」
「では、貴殿の思入れのある姿なんですか?」
「えぇ、我が目を奪いし仇敵の姿です。未来を予知し、あらゆる武器に長けたエルフの英雄、と呼ばれた女の姿ですよ。まぁ、今は老衰で死んだんですがね」
ハッハッハ、と快活に笑う姿にさっぱりした御仁だとミミックは思った。
だが、その笑顔にどこか憂いを感じている様子であり何処か思う事があったのかもしれないと思った。
「今にして思えば、いえやめましょう。年寄になると、どうも昔話が過ぎる。すみませんな」
「いえいえ、中々興味深い話でした。さて、本題と言う事ですかな?」
「そうでした。いや、忘れておりましたよ」
ガラハッドはお茶を一飲みして、話を切り出した。
「ここに在住したいと伺いました。まぁ、勝手に住み着いた我々が許可など烏滸がましいですが条件を一つ提示したい」
「それはなんですかな。私に出来る事ならしようと思っております」
「うむ。貴殿は世界についてどうお考えか?」
その質問に、ミミックは世界ですかと首を傾げる。
「最近はめっきり雨が減りました。海も干上がり、人間と魔王達の勢力圏はますます広がっております」
「そうですな、陸地が増えた故に色々とありますな」
「我々、ドラゴンは永久中立の立場を謳っておりますがいつかは魔王達のどこかの勢力と併合しましょう。種族柄、ドラゴンは出生率が低く現在のドラゴンの多くが高齢者、若い者は本能的に争いが好きな者が多く困った種族です」
「しかし、ドラゴンは他の種族と交わる事が出来ると聞きましたぞ。ワイバーンやバジリスクなどは例は多くあります」
「確かに血の薄いドラゴンに連なる者は多く、種族としては残るでしょう。ですが、私は遺伝子ではなく文化を、ミームを残したいのです」
それはドラゴン社会の掲げる問題の提示だった。
情勢不安、少子高齢化社会、ドラゴンを取り巻く未来に付いてガラハッドは考えていた。
「派閥も出来始めましてな。魔王や人間のどちらかに付くと言う者や第三勢力として世界を制覇しようなどと言う者も、我々は種の存亡に付いて考える転換期に来ているのかもしれません」
「それで、私に関係する話しとはなんでしょう。お恥ずかしながら、話が見えてきません」
「貴殿の合成の能力を使って、我が遺産を一つにして貰いたい。私が死ねば、遺産の分配で揉める事は必然。ならば一つにし、生きている間に譲渡する事で争いを出来る限り防ぎたい」
「それは解決になっていないのではないですか?」
「いえ、一つにするならば分配ではなく奪い合いとなりましょう。分けることが嫌だから殺し合う、それが欲しいから決闘する。似ている様で大きく違うのです」
基本的に貴金属や宝石が好きなドラゴンと言う種族は同族が死ぬと欲しい者同士で争う。
その際に、分配するとなると考えることが嫌なので自分以外の欲しい者を皆殺しにする習性がある。
だが、手に入れる物がボスの座など一つしかない物ならば名誉を賭けた決闘という形で殺しはしない。
つまり、ドラゴンは頭が良い癖に脳筋でもあるのだ。
「こんな習性が無ければ若い者も死なないで、ドラゴンは増えることが出来るんですがね」
「まぁ、文化でしょう。それでは、合成すればいいのですかな?」
「出来れば使える物が良いですな。合理的な物が良いです」
「そうですか。多くの魔力を一つにするなら、素晴らしいマジックアイテムが出来る事でしょう」
ミミックはその確信があった。
マジックアイテムの原料になるのは魔力を含んだモンスターの素材や宝石などだ。
特に純度が高い宝石はモンスター素材の比ではない。
生物よりも無生物の方が消費しない分、魔力を蓄えているからだ。
自分の中で合成し、不純物を取り除けばどんなものが出来るのか。
そう考えた結果、素晴らしい物が出来ることは分かるがそれ以上は分からなかった。
つまり、作って見るまで未知なのだ。
そして、ミミックはガラハッドの遺産である数万年単位で集められた山を形成するかのような財宝を数ヶ月掛けて自身の中へと収納した。
中には財宝を目当てに殺された人間や魔族の白骨体もあったが、素材となるので一緒に収納した。
そして、不純物を取り除き魔力を圧縮して形を作る。
まるで絵の具を混ぜるように、魔力をお互いに溶け込ませ属性を融合させていく。
そして、二つの武器が出来上がった。
「こちらになります、ガラハッド殿」
「半年ではあったが、私は期待で一万年が経過したかと思ったほどでしたよ」
そう言って、ガラハッドは一振りの剣を見た。
それは武器と言うには余りにも武骨、まるで岩を切り出したかのような、ゴミクズの剣だ。
「なんだこれは!?」
「あぁ、そっちは不純物で作った物です。ジョークグッズですよ、ハッハッハッ」
「あぁ、そうか。ミミック殿はモンスターが悪い。寿命が五百年は縮んだかと思いましたよ」
ちょっとしたお茶目に普通なら、世界の半分を焼き払うくらい激怒する物だがガラハッドは大人だから笑って許した。
そして、念願の物はミミック本体から現れた。
パカッと上部分が蓋のように開き、中から七色に輝く黄金の剣が現れた。
「素晴らしい。なんと美しい剣だ」
「マジックアイテムなんだと思いますが、能力は分からないです。まぁ、良い物なのは確かでしょう」
「うむ、これにて貴殿の滞在を認めましょう」
こうして、ミミックは暫く在住する許可を手に入れたのだった。