接触と交渉する
人類が到達できない高度の空、それはそこにいた。
見た目は基本的に銀で出来た流線型の船、二門の巨大砲門を搭載、膨らみを帯びた巨大なデルタ翼型主翼が左右に付いており、中央には巨大な赤い宝石がエネルギーを供給しているかのように稼働に合わせて光を発している、底部には離陸用か移動を可能とする謎の球体が二つタイヤのように付いていた。
先端には巨大な穴があり、穴の入り口には幾重にも重なった刃が付いている。
後部にはジェットエンジンのような推進器が火を噴いて、推進力を出していた。
「ミミッ?」
いつしか、ミミックは巨大な山脈を見つけた。
それは標高が高いために雪に覆われた山頂のある山脈だ。
少し視点を下げれば、高山特有の植生が草原のように広がっている。
草を食む野生動物、それを管理しているのか二足歩行のトカゲがいる。
生物だ、それも文明を築くほどの知的生命体である。
「ミミィーン!」
ミミックは接触を試みて、その場所へと近づいて行く。
上空から落ちてくる巨大な影に二足歩行のトカゲ、リザードマンと呼ばれる種族は慄く。
野生動物、人間が飼育するヤギという物に近いそれは驚いて逃げ惑う。
巨大な機体を着陸するために発生した強風が地面を撫で、リザードマンは周辺の岩を掴み飛ばされないように抵抗していた。
「ギャ、ギャグギャ!?」
「ミミミーミン!」
最初に言葉を交わし、未知の言語体系であるとミミックは認知した。
そして、目の前にいるリザードマンの様子から恐怖していると判断する。
友好的な関係を築くためにどうするべきか、ミミックは搭載された対知的生命体コンタクト用装置を起動し同じ姿を模った精霊にて接触を行った。
「ギャ、ギャ?」
「…………ミィ」
言語が違うために、ミミックは身振り手振りで意思疎通を試みる。
最初警戒していたリザードマンだが、しばらくして精霊である姿のミミックを受け入れた。
それから、ミミックはリザードマンを本体に乗せて集落があるであろう場所まで移動した。
山を下りて行き、川に沿って進んでいく。
すると、沼地を発見した。
湿原に沼地が広がっており、枝と泥で出来た家らしき物が広がっていた。
「ギュ」
リザードマンはミミックから降りると、集落の中へと入っていく。
一言、待ってろと言った感じだ。
ミミックは余り近付いて騒ぎになるのはごめんなので待機する。
もっとも、既にその巨体に気付いてリザードマン達は家に隠れていた。
数分すると、中から年老いたリザードマンがやって来た。
泥の中から、ゆっくりと出て来るリザードマンの傍には最初に見つけた個体が傍に付いている。
長い顎鬚に杖を持ち、魔法で撥水加工でもされたのか泥を寄せ付けない染められた布を用いた服を着ていた。
最初の個体は全裸であった為に、服と言う文化がある事に驚く。
此方に向かってリザードマンが腰を折り、深々と礼をする。
それに合わせ、動きをトレースしてミミックの精霊も礼をした。
「ようこそ、異国の使者よ」
「驚いた、モンスター共通言語が話せるのか」
聞き知った言語にミミックは素早く反応した。
モンスター共通言語、それは魔王と言う個体が考案し配下の者を使って広めた言葉。
ミミックが最初に知った言語であり、亡き友ミノタウロスが外から来た魔族に教わった言葉である。
「条約では不可侵の約束ですが、何かありましたか?」
「ご老体、すまないが条約とは何の事だろうか。この言語を使っている事から、もしやここは魔王の支配地域なのだろうか?」
「ご存じないのですか?ここは我々、鱗族の支配地域でございますぞ」
詳しい説明を求め、ミミックは彼らの話を聞く。
鱗族、それは鱗のある者達の集まりだ。
魔王が支配している訳ではなく、ドラゴンが支配する派閥であり多くの鱗を持つ種族が所属している。
鱗族の頂点に位置する存在は魔王とも同等の力量があり、お互いに不干渉である条約を結んでいる。
鱗族は中立である立場を取っており、人間や魔王、他にもドワーフやエルフなどの他種族と不干渉の条約を結んでいる。
そんな彼らのテリトリーであり、支配地域がここなのだと言っていた。
「なるほど、しかしご老体。君は大きな勘違いをしている。自分は魔王の配下でもないし、どこにも所属はしていない。故に条約については知らないのだ」
「そうでございましたか。しかしながら、竜族の方々はテリトリーでの行動に厳しい方々です。何か粗相をする前にこの地から去る選択をするべきかと」
言外に出て行け、そう言っていた。
しかし、自分が知らない文明にミミックは我慢が出来なかった。
溢れる探究心を抑えることが出来なかったのである。
で、あるならばどうするか。
ミミックは商人達から学んだ、誠意を見せるという方法を取る事にした。
「ではご老体、この地に知らぬとはいえ入ってしまったことでリザードマンに何らかの迷惑を掛けるかもしれない。貴方達に迷惑を掛けたくないので、竜族の方々に事情の説明と謝罪をしたいのだが会う事は可能だろうか」
「それは……分かり申した。しばらく時間を要しますが、お願いしてみましょう」
「そうか、良き返答を心待ちにしていよう」
ちょっと挨拶したいんだけど、そうモンスター共通言語で変換してご老体に伝える。
ご老体は少し戸惑ったが、すぐに自分たちの利益を考え穏便に答えを出した。
実に優れた判断と言えることから、村のリーダー的な役割を担っているのだろう。
もし暴れ出したら手に負えないと判断でき、肉体が衰えた状態でありながら群れを率いる事の出来る個体だ。
人望、と言った物を持っていると考えても良いだろう。
それからミミックはドラゴン達に会うまでの間、滞在する事となった。
モンスター共通言語が喋れる者はご老体とその一族だけであった。
そのため、さっそくと言った形で言語の習得に励む。
今回は手さぐりな方法ではなく、言語を知っている者が教える事が出来る為に直ぐに覚える事が出来た。
数日で言語を覚えた事にご老体は驚いていた。
「大変知能が高い存在のようでございますが、そういえば種族を聞いておりませんでした」
「うむ、私はミミックと言う種族だ」
「ミミック!?あの、ミミックでございますか?」
信じられないと、ご老体は驚き何度もミミックを見る。
どうやら、ミミックだと見えなかったようである。
「ミミックと言えば、保管したり合成や擬態が出来る種族でしたな。魔族の方々の荷物を運搬する役割や研究職に属していると聞きました」
「そうなのか、しかし私は野良であり魔王の配下ではないので他のミミックには知らない」
「そうでございましたか、私の見立てでは四天王といい勝負が出来そうでございましたので役職持ちかと思っておりました。そういえば無所属でございましたな、これは失敬」
そうは言うが、探るような視線をご老体はしていた。
経験から推測し、様々なパターンを想定、そこから最も該当しそうな内容を口にする。
「ご老体、君は私と商売がしたいのかな。ミミックの能力を敢えて口で説明する事で、それに関する話の流れに変えたかったと私は判断したが?」
「これは、ご明察でございます。滞在期間中、我々と取引をして欲しかったのです。物々交換になりますが、貴方が求める物をお出しします。どうでしょうか?」
「良いだろう、君のように強かな者は好ましい。言語を教えて貰ったお礼に私が出来る事ならしてあげようじゃないか」
それから、滞在期間中にミミックは様々な道具を加工したり山特有の物と自分が保管している者を交換した。
特に、リザードマン達は塩や香辛料などを求めた。
幾つか実験的に香辛料の栽培などを開始してお互いに実りのある取引が出来た。
そしてミミックは数日後、ドラゴン達に会うことが可能となった。