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自由への逃走

ある日の事だった。

ミミックは雑貨屋から嬢ちゃんとやらの手に渡り、移動させられていた。

嬢ちゃんはミミックを引きずったり、プロペラを弄ったり好奇心旺盛である。

何より、布で頭の宝石とやらを磨くのが好きだった。

ミミックも磨かれるのは気持ちいので好きだった、つまり嬢ちゃんが好きだ。


ミミックはその気持ちが何なのか分からなかった。

しかし、嬢ちゃんと他の人間は別の物だとは認識していた。


「買っちゃった、買っちゃった、ついに買っちゃった~」


穴の中、光る苔が天井に付いており不思議な形に切り取られた岩が鎮座する場所。

その一角にミミックは置かれた。


雑貨屋と言う場所にいた時よりも、人間が来ない場所。

というか、嬢ちゃんと数体の人間しかいない。

嬢ちゃんはルルとも呼ばれ、ここはルルの部屋という場所だそうだ。

ルルはよくこの場所で自分のように深い考え事をする。

他の人間は寝ているというが、どうやら人間は深い考え事を頻繁にしないといけないらしい。


ルルの部屋とやらに来てから、ミミックは退屈だった。

進化が出来そうな感覚になってから腹は空かなくなっていたが、ミミックは何だか我慢できなかった。

何というか、もっと食べたいという気持ちに近い何か。

そう、もっと知りたいとかそんな感じだ。

ルルの部屋というのはあまり変わり映えしない場所だ。

ルルの事は他の人間と違って友達だと思っているが、だからといってこの場所は好きにはなれない。


「あれ、おかしいな?確かにここに入れたんだけどな」


考え事をしていたらルルがミミックの蓋を開けていた。

どうやら、この間入れた物を探しているようだった。


「あ、あれ?底がない?」


今度はミミックの口の中を腕でかき回す。

何だかすごく気持ち悪い感覚で、やめて欲しかった。

だから、思考する。

どうしてこういう行動をしているのか。

原因を推測し、解決策を出すのだ。


「ミィ!」

「うわっ!?」


この間入れた物を探しているようだったので、それを吐きだしてやる。

すると、ルルはそれに驚いて吐き出した物とミミックを交互に見る。


「もしかして、マジックアイテム!?嘘、そんな高価な物に見えないのに!」


ルルが再び物を入れた。

それはお気に入りのアクセサリーだ。


「ネックレスよ、出でよー」

「…………」

「あ、あれ?」


なんでまた入れたんだ、と疑問に思っていたらルルが再び口の中を探る。

これにはたまらないと、ミミックはまた吐き出した。


「やっぱり、きっと時間が掛かるのね」


再びミミックの口へと物が投下される。

そして、再び同じセリフが聞こえた。

ミミックはただのミミックではない、学習したのだ。

つまり、ネックレスよ出でよーと言われてすぐに吐き出せば、口の中に触られない。


「ミィ!」

「お、おぉ!やっぱりそうなのね!出た時は音で知らせる機能もあるなんてスゴイ!」


そして、その推理は間違いではなかったようだ。

一安心である。




それから、ルルは色々な物を入れるようになった。

どころか、ルルの部屋以外の場所にも持っていったのだ。

ミミックが頻繁に来る場所、そこは学校と言う場所だった。

学校では立派なマーメイドになるべく勉強しないといけないそうだ。

素晴らしい、多くの事を知る事が出来る場所だ。

自身が知るには限界がある。

経験は得難いものだが量が無い。

マーメイドと人間が違う物であると知る事も出来たし、歌と言う物や歴史と言う物を知る事が出来た。

しかし、恐らく自分一人では知る事は出来なかっただろう。

過去、つまり自分が生まれる前の事などどうやって知るのか。

教わるしか方法が無いのだ、そう自分では知る事に限界があるのだ。


教わり、教え、知識を継承していく。

それが人間が発展した理由、そして人間のように文化と言う物を築いた種族の特徴だ。


「賢者は歴史に学び、愚者は失敗に学ぶ。皆さんも立派なマーメイドになりたければ勉強しましょう」


なるほど、先生も好きなマーメイドだな。

ミミックは新しく友達認定するのだった。


ミミックはマーメイドの里に来て自身の知識が急激に上がっている事を実感していた。

もうマーメイド達の言葉すら理解する事は出来るようになり、知らない物が知っている物に変わっていった。

今では、行った事もない場所の知識を多く手に入れいつか行く事を夢見る日々だ。

ただ、それは当分難しいかもしれなかった。


ルルが学校でミミックを自慢したことが事の発端だった。

大人達がミミックの異常性に目を付けたのだ。

何でも無尽蔵に収納できる、その異常性は利用される事となった。

少女の持っていた箱、それは里の共有財産となったのだ。

少女も多くの貝殻と交換することが出来たのか何の憂いもなく大人達へと渡した。

それから、ミミックの日常は一変した。


里の中央に専用の台座が設置され、ミミックはそこに置かれた。

動けないようにするためか、鎖で固定される。

そして、色々な人間がミミックの口に物を入れてはある時期に中身を出すように指示してくる。

そう、ミミックは自分が便利な倉庫代わりにされていると悟った。


「ミィ……」


深夜、ミミックは深い溜息を吐いた。

暦の概念を知ったミミックは自身がここに連れて来られてから数年が経過していた事を理解した。

ミミックにとっては良く分からない感覚だったが、マーメイド達には大事な感覚だ。

ミミックは変わらないが、彼らは変わっていく。

そして、変わっていくのはこの場所もそうだった。


ルルはいつの間にか小さなルルを作っていた。

それが、子供と言う物だとミミックは知った。

ミミックと違って、雄と雌が揃うと子供と言う存在が生まれる。

彼らは親と言う存在らしく、子供を産んで育てる。

ミミックは親と言う物がいないから実に興味深かった。


しかし、変わり映えしない日常と言うのがミミックは退屈だった。

思えば、ここに来た当初は知らないことがたくさんあり毎日が新鮮であった。

だが、今は稚拙な知識しか有していなかった頃とは違い多くを学んだが故に毎日が苦痛でしかない。


「ミミィー……」


私にとって死とは何だろう、例え生きていようが楽しみの無い生に何の意味があるのだろうか。

退屈とは精神の死である。

ミミックはそんな言葉を思わず呟いてしまった。


「ミミック!」


ならば、私は立ち上がらなければならない。

この衝動の赴くままに、広大な海へと飛びださないといけないのだ。

そう、ミミックは宣言して鎖を振り払おうとした。

瞬間、ミミックは懐かしい感覚に襲われる。


身体の中に溜まっていた熱、経験値が消えていく。

冷えるように抜けていく、進化の為に消費されたのだ。

進化、それは喰らった魂を用いて限界を超える現象。

階級突破とも呼ばれるそれは、ミミックの願いに沿って進化を果たす。


鎖を破壊する、どうやって?

力付くでは無理だ、ならどうする?

魔法が使えればいい、壊す事が出来る。


ミミックの身体は光り輝き、新しい部位を生み出した。

底に付いた二つの黒い球体、翼のような側面の膨らみ、後部に付いたプロペラ。

そんな身体の側面に二つの筒が左右それぞれくっついていた。


「ミミィー!」


それはミミックの鳴き声と共に魔法を発射する。

それは、石を生み出して発射する魔法だ。

筒の中から小石が高速で射出される。

魔力を使って連続で発射される。

それは鎖に罅を入れ、いつしか破壊するまでに至る。


「ミーミッミッ!」


ミミックは高笑いしながら飛び立った。

それは自由への逃走であった。

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