3分ネーミング
「つまり簡潔に言うと、あれですか。石を浄化しろと、そういうことですか。」
人形劇で教えてもらったこと、それはここの世界観と、私の喚ばれた理由。細かいことはまだ分からないが、今私がいるここ、王都フローラルト以外の国との関係性なんかも説明してもらった。
用済みの小道具たちが魔法で消えるのを、静かに見つめながら、私は死刑を宣告されたかのごとく立ち尽くす。
おぉ、初めて懇願するが神よ。助けて。切実に願ってるから、助けてください。
「そう!!そゆこと~!!やっぱり人形劇分かりやすかったでしょ?」
「飲み込みが早くて結構。」
土下座までしている私の心中など、露にも知らず、キャロルと王様は笑顔で私に話しかけてきた。
できれば神様、この人達もどうにかしてください。
「…ファンシー過ぎて見過ごすと思いました?」
「何を~?」
「リアルのグロさですっ!!」
先程の可愛らしい人形劇を頭の中でまきもどしてみる。
キャロルの人形劇によると、 魔王との戦争に勝利し、それから500年経ったのがこの世界なのだそうだ。
今は戦争なんて無いし、平和とも言えるんだって。
じゃぁなんで私を喚んだのか。
それはこの世界の現在の状況が関係してくる。
死ぬ間際、魔王が最期に放った魔法が、500年経った今でも人々を苦しめているのだそうだ。
魔王が陣取っていた黒いお城、通称魔王城が有る限り、そこから漏れ出ている瘴気なるものが消えないらしい。この瘴気のせいで、魔物たちがいくら倒しても次々と生まれ出てくるらしかった。
戦争中に、その原因である魔王城を囲むように三つの浄化の力が宿る魔法石を設置したのだそうだが、魔王が最期の最後で放った魔法がその魔法石を汚し、瘴気を防ごうと設置した本来の意図とは逆の、邪悪な力の宿る魔法石になってしまったのだそうだ。
そこで、浄化の力を持つ私が喚ばれた。
…だってさ、うふふふ。
そんなバカなっ!!!?
地球人の小娘に、いったい何ができようか。
「あの~私にそんな力無いと思いますけど。現に私の世界では魔法なんて使ったこと無いっていうか、そういうのは2次元っていうか…。」
「こちらの世界では使えるようになるかもよ?現に貴女、薄いけどオーラはあるわけだし。」
あっけらかんとキャロルは答える。
「……そのオーラって何?」
「魔力の源となる生命力を具現化したものよ。オーラの色が濃ければ濃いほど魔力も強いし、強大な魔法も使えるの。魔王亡き今、私ほどの魔力保持者はこの世界にはいないけどねー。」
「っじゃぁ、キャロルがやればいいんじゃない?浄化!!キャロル凄い魔術師なんでしょ?キャロルは出来ないの?」
「魔力と浄化の力は違うものなの。まぁ、私もアイツと戦うまではあったんだけどね~。残念ながら、浄化の力は最期の最後で魔王に奪われちゃった 。」
「えええぇぇ!!!?そんなぁ!!っ私には無いって!!断言するっ!!」
「いいえ、貴女にはちゃんと浄化の力があるのよ。」
「…なんでそんなこと分かるの。」
そんな能力あるわけ無いのに。本人が言ってるんだから、信じてほしいものだ。
「…それは「私が天才だから!!!天才の私が、500年かけて探しそして見つけた、それが貴女。貴女には浄化の力が宿ってるの。突然変異とかってあるじゃない?きっとその類いよきっとそう。私に匹敵するほどの浄化の力なんて、凄いっ!!」
王様の声を遮ってまでキャロルが主張したのは、暴君並みの持論だった。
「っ、やっぱ待って。仮に私にその力があるとして、その魔法石の場所まで行くのに、移動魔法で行けないところがあったりするんでしょ?その途中で魔物にあったらどうするの?」
「そのために俺がいるんだろうが。」
混乱する思考の中で、後ろに控えていた騎士の声が大きく私に響く。
「お前は心配する必要は微塵もない。なにせ俺が護衛なんだからな。有りがたく守られろ。」
「な、なにドヤ顔してんのよ、魔物よ!?魔物!!さっきの人形劇はファンシーでコミカルだったけど、現実の魔物やらなにやらって絶対グロいでしょ!!!?」
「グロいもなにも、数を減らしてきたのは俺らなんだけど。」
「あ、そっか……じゃなくて、」
「まぁまぁ落ち着いてっ?くまちゃんや兎さんを大きく汚く、かつ獰猛にしただけよ?見た目は獣に近いし、中には人間に化けてたりするから。昆虫よりはマシでしょ~?」
「人に化けたりするんですか!?」
「まぁ、高位の魔物はね。でも99%の魔物は理性なんか無いから。アイツら血なんて出ないし炎と共に消滅するから、良心の呵責に囚われなくてすむわよ?人間同士の殺し合いじゃないんだから。」
「そういう問題じゃ、………ん?じゃぁ1%でもこちらの話が分かる魔物もいるの?」
「ん~いるにはいるけど、魔王の右腕だった奴と精霊くらいだから。いないのと同じよ。」
「魔王の、右腕…。」
「今は捜索中だけど、見つけたら必ず私が殺す。だから安心してっね?」
そういう問題じゃない、キャロル。
殺すとか殺されるとか、そんなの私、無理だ。
日本でのほほんと暮らしていたんだから、スプラッターな展開は勘弁願いたい。動物虐待、反対!!
「辞退しますっ!!」
「それは許可できない。この世界にいる限り私が絶対なのだよ。」
なんですと!?今度の敵は王様か!!
くっ、あの理想の王子様はいずこに。優しい蕩けるような笑みは変わらずだが、目が笑ってない。
(……………王様、実は腹黒いのかしら。」
ポカッ「イタイッ!!何すんのよ天パ!」
「お前、牢やにぶちこまれてぇのか。」
「はぁ!?なんで牢やなんか、に、」
………もしかして、私声に出ちゃってた!?
バッと前方へ顔を向けると、肩を震わせ笑いをこらえている王様が。隣にはキャロルが隠すことなく大きな笑い声をあげている。
その様子に元帥が嫌悪を露に、私を見下した。
「我らが王に何て口のきき方だ。不敬罪に値する!!」
「ご、ごめんなさ…いや、申し訳ありません!!つい、」
「いや、良い許す。確かに私は腹黒い。」
「王!!!!」
「フフフ、まぁ元帥落ち着け。…そこで腹黒い私から提案だ。」
「な、なんでございましょ。」
「この世界を救ってくれたら、帰してやろう。お前の世界に。」
…パワーハラスメントだ。
こんな、異国、もしくは異惑星で、パワハラに私はあっている。
「異世界返還の魔法も、キャロル、お前なら編み出せるだろう?」
「当たり前じゃない。今はできないけど。」
「えっ!?今は出来ないの!?」
「そうよ?召喚できても返還はできない。だって半年前に異世界召喚魔法を成功させたばっかりなのよ~?天才にも時間は必要だわっ。」
つまり、まだ帰れないと?
そして浄化するのは決定事項なのか。
「…私の記憶が一部ないのは何で?私の名前と、それから家族のことも、何でそれだけ抜け落ちてるの?」
「…、分からないわ。でもその原因は返還魔法と並行して調べとくから、安心して浄化の任務を全うしてねっ!!!!私にかかれば、そちらの仕事が終わる頃には完璧に仕上がってるはずだから、ねっ?」
そんなバカにゃ。
この世界の人達は、なんとまぁ自分勝手で自信家なんだ。
私の都合は無視なのね。
突きつけられた現実がまだ信じられない。
信じたくない。
それに記憶のないままの状態が、このまま続くのかと思うと、いやに気持ち悪かった。
私が俯くまいと手を握っていると、ガシャリと音が鳴る。見やれば、今まで後ろに控えていた騎士が隣に立ち、私の背中を支えてくれていた。
「主、この者に名をお与えください。」
「ぇ」
な、名前? なんで突然?
「…そうだな。名がないと不便であろう。うん、決まった。」
「え!?早くないですか。」
「さすが俺の主だ。」
「さすが我らが王ねっ!!」
「いやぃゃ、まだ心の準備が」
「お前の名は今より、シエルとする。」
親に付けられた名前の代わりに宛がわれたそれは、意外にも私の心にストンと落ち着くのであった。
やっと主人公に名前ができました。
長かった(笑)
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