名前はまだ無い。
※11/4 デュークの一人称を俺から僕に変更しました。
我輩の名はなんぞや。
やばい、怖い、私の名前は……何だっけ?
「う、えっと……私は、………。」
「………………まぁ、まずはこっちも自己紹介しないとね。僕はデューク=フォックス。んで君を担いでるコイツがゼルディ=ライトニング。」
「…で?呻いてるアンタはなんなわけ?」
「ぅぅぅうううううううううそ、私の名前は、名前はぁぁぁ……うぅ思い出せない…。」
「おいおぃマジかよ。」
「記憶飛んじゃったのかなぁ?」
そんなわけ無い。だって家も学校も友達も部活も、あの好きな帰りの畦道も、駅を出て東口にある美味しいクレープ屋さんも、全部憶えてるもの。
なのになんで、なんで名前だけが出てこないのよ!!
「あれ?大丈夫?顔色悪いよ?」
「へいき、です。」
「…………。」
気持ち悪い。不安で押し潰されそうになる。
きっと荷物みたいに担がれてるからだ、きっとそうだ。だからこんなにも周りの風景がグルグルと見えるのだ。
胃酸が込み上げてくるのを何とか抑え、目を瞑ることにした。今は視界に何も入れたくない。
シャットダウンだ。
「名前がないと、ん~なんか色々困るよねぇ。」
「仕方ねぇ…俺が付けてやろう。」
「えぇ!?ゼルが?嫌な予感しかしないんだけど~?」
「……………。」
私の無言を承諾と受け取ったのか、二人してああでもないこうでもないと話始める。
ふざけるなと叫びたいけど、叫んだら、出る。
何がってアレが。
「小汚ぇからネズミとか、あぁダストでも良いんじゃぁないか?」
「それは酷いって……あ、小鳥ちゃん…スイートちゃんとかぁ?」
「ブッなんだソレ笑えるんですけど。」
「ゼルの失礼なセンスには負けるよ。」
「「で?」」
「………?」
「「どっちが良い?」」
ごみ溜めかメルヘンか究極の選択。どちらも却下だ。
「……………。」
「ったくまた黙りかよ…思い出せない方が悪いんだからな?ダストに決定。」
「えぇ~!?ごみ溜めってこと?それはさすがに可哀想でしょ。それに何より男みたいじゃない?ダストって。」
「別に男みてぇな感じだし大丈夫だ、差し支えない。」
男みたいなとは、私の体型のことか、女児とも思われないくらい、ペッタンこだとそう言いたいのかモップ頭。そしてピアス男、その言葉の意味より、言葉の音が男みたいだから却下なのか。
こんな状況で引っ込んでいた本来の私が、怒りで沸々と甦る。
わけもわからず取り敢えず担がれているだけなのは、愚かだと警告音が鳴った。
「…ざけ…いで。」
「「?」」
「ふざけないでよ!!」
「おぁ!?」
勢いで暴れ、肩から落っこちた。
そこを運動部で鍛えた反射神経で着地し、興奮でアドレナリンやら何やらが分泌されて熱くなった体が、足を踏ん張らせる。
怒りで吐き気もどっかいった。
「っコッチは名前が出ないし変な鎧きた人に担がれて頭が混乱してるのダストって何よっ人のこと小汚ないとか色々失礼なっていうかここ何よ何処よ召喚!?移動魔法!?意味分かんないのよーーーっ!!!!!!」
ぜぇぜぇ…
言った。
言ったった。
思い付く疑問全部。
言ってや………
「あ!?おいっ!!」
薄れゆく意識のなかで最後に見たのは、モップ頭の驚いた顔だった。
あぁ…このまま夢なら目覚めてほしい。