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ちょっと一旦落ち着こうか。


一度書いてみたかったトリップネタ。

見切り発車なので、更新は亀。

だが後悔はしていないのです。


楽しんでもらえたら幸いです。宜しくお願いいたします。


※11/4 デュークの一人称を俺から僕に変更しました。



ちょっと一旦落ち着こうか私。





身体中が痛いこととか、ここ何処だとか見渡す限り木だとか森臭いとか鳥の声とかそんなことどうでも良い。


「聞こえなかったのか?ここで何をしている小汚ない女。答えによってはこの場で切り捨てるぜ?」



命がかかってるんだから。




「わ、たし、…」


あぁ…駄目だ死ぬ。

怖くて声出ないし、心臓五月蝿いし、良い考えが出てこない。

喉元に突き付けられた剣を嫌でも意識してしまう。


目の前には2人の男。

その姿はまるで鉄の塊。腰には重そうなものが装備してある。

勝てる気がしない。



殺られる前に一子報いたいけど、生憎周りには適当なものがない。


部活休むんじゃなかった。

そしたらきっと、手元に弓道の道具一式が私の側にあったはずだ。




「あ~切り捨てる!…はコイツの冗談だからねぇ。落ち着くまで待ってあげるからゆっくり深呼吸してみよっか~。」

「っ、」



目の前にしゃがんでこられたので息を飲む。

こ洒落たピアスがキラリと揺れて私の眼前に現れたソレは、男の癖に綺麗だった。外に跳ねた紅い髪が耳にかかり、異様な色気を放っている。


ヘラヘラと微笑みながら喉元の刃をスイッと離してくれたのは良いが、刃物を向けていた等の本人である隣の野蛮人をどうにかしてくれた方が有難い。


とりあえず意識的にすぅっと息を吐いて、吸う。

空気を肺に送り込んだら、少しは落ち着けた気がした。どうやらピアスの男は殺す気は今のところ無いらしい。



「おいデューク、冗談なわけあるかよ。俺は何時でも本気なんだよ。」

「ひっ!!」

「ブフッ怖がられてるじゃんゼル。」

「うるせぇな。」



先程切り捨てるとほざいた男の方も、しゃがんで私の顔を覗きこんでくる。


…なんなのだ、野蛮人なくせに綺麗な顔して腹立たしい。紫暗の髪は緩いパーマがかかっているように自由に揺れている。それに反し存在を主張する琥珀色の瞳は、垂れ目の癖に睨みが効いていてだいぶ怖い。


お月様みたいに綺麗な瞳なのに勿体ないと思った。




「おい女。」

「っ…なん、ですか」

(大丈夫だ、声出る。)

「早く答えろよ。ここで何をしているわけ。」

「なにも、気づいたらここに、」

「はぁ?夢遊病者か。」

「っんなわけ、「ア"?」…ありません。」


再び剣を突き付けられたが、体が震えるのを何とか我慢する。


「え?何々~自分でも分かんないの~?」


こくこくと頷いて見せれば、ピアスの男がヘラリと微笑んだ。



「もしかして君がそうなのかなぁ。」

「?」

「…そうなのかなぁって……もしかしてあん時の?こんな小汚ないのが?」

「召喚術は一か八かだったし、数ヶ月後にポッと出てきても不思議じゃないよ~。」

「ぁの、何言って、」

「現にこんなちんちくりんな服見たことないしねぇ。」

「確かに。」

「ち、ちんちくりん…」


この制服も、あの高校決めた要素なのに。

失礼なピアス野郎と野蛮人…いいや、天パ野郎。



「とりあえず、切り捨てるのは王に判断を仰いでからだな。」

「はぃ?」

「立て。」

「は?」

「はいはい付いてきて~。」

「ちょ、」


乱暴に襟を掴まれ、無理矢理立ち上がらせられ傷だらけの足が震える。

倒れるのは癪なので、何とか踏ん張ってみせたが心許ない。

痛いけど絶対泣かない。癪だから。



そんな様を見て盛大に溜め息をつくと無言で近付いてくる天パ、もといモップ頭。

…殺される?

ヌッと伸びてきた大きな手にビクッと体が震える。

「ひゃっ!?」

「色気無ぇ悲鳴。」

人のことを荷物のように担ぎ上げ、言うに事欠いて、色気がないですって…?

………まぁ確かに無いけどさぁ。



「さっき言ったろ、切り捨てるのは王に聞いてからだ。今のところは生きられるぜお前。」



追い討ちをかけて脅すモップ頭に言い返そうとしたが、突然の車のサーチライトより眩しい光に目をつぶる。





鳥の声が遠くなる気がした。






「う、そ」



現実だとは思いたくない。

だがしかし、目の前で行われた光景を見てしまえば、自覚せざるを得ない。



なにがなんだか分からないまま目の前で強烈な光が射したかと思うと、眼前に広がったのは正に王都。光輝く城が私の心を暗くした。


今まで森に居たのに、ここ、どこ?



まだ森の中だったから、少しの希望があった。私のあの世界でも自然は沢山あったから。


でも、ここは私の世界では、ない。




「予告もなく移動魔法使ってごめんね~眩しかったでしょ。」

「、、」

「驚いて声も出ねぇのかよ。」



違うよ馬鹿。違うの。…どうしよう。深呼吸、深呼吸。


「ここ、なに、」

「王都フローラルト、僕らの主君が治める国だよ。」

「何だ俯いて。…ははーん、さては綺麗すぎて感動しちゃってんだろ。」


違う。

一気に不安が押し寄せてきただけだよ。


そう、それだけ。ただ、それだけなの。


……私、どうなるの?

王様に、逢うことになるの?なんで?

媚びるのとか、おだてるのとか、そんなの、うまくやれるか分かんない。

でもやるしかない、殺されるんだから、やるしかないのよ。頑張れ、私。



「……女は度胸よ。」

「は?」



ブツブツと呟く私を、気持ち悪いものでも見るように目線を向けるモップ頭。



「ところでちんちくりんな娘さん、名前はあるのかな?」



少し前を歩くピアスの男が、こちらに顔を向けた。

あるに決まってるじゃないか。




「名前は、名前…………あれ?」


……………ちょっと一旦落ち着こうか私。




先程自分に言い聞かせてやっと頑張ろうとしたのに、その決意は脆くも崩れていったのであった。





誤字脱字がありましたら、教えてくださると助かります。

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