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「…?どこだ、ここ」
呆然と周りを見渡してみる。周囲には花が咲き乱れ、部屋の様相は零に等しい。風が一凪ぎ、花弁が零れて行くのを見送り、もう一度周りを見渡す。
「ここが、童話『赤ずきん』の世界だよ。パラレルワールドの一つと言っても過言ではない、ね」
「…夢だろ」
嫌だったのに面倒事に巻き込まれた。やっぱりクライムを無視して帰ればよかったかと思っていると、前方に女の子が見えた。
「あれは…」
赤い頭巾を被った小さな女の子。恐らくあれが赤ずきんなのだろう。漠然とそんなことを思っていると、違和感に気づいた。
「目が…死んでる?」
虚ろな目のまま黙々と花を摘み続けているその動作に疑問を抱いていると、赤ずきんの背後から巨大な黒い靄の様な何かが這い出てきた。
「な…んだよ、あれ!」
「あれが原因だよ。あれは『リカッサ』っていう存在。この無数のパラレルワールドに不確定数存在する化物のことだよ」
やけに冷静なクライムの声が聞こえる。いや、そんなことはどうでもいい。早く赤ずきん(きっとそう)を助けるべく赤ずきんの手を取ろうとする。が、その手はスルリとすり抜けた。
「無駄だよ。今の僕たちは異世界の住民やリカッサには触れられないんだよ」
その指摘の刹那、背筋に寒気を感じクライムの元へと跳び下がる。
戻って改めてリカッサとやらの姿を視界に入れる。すると、思わず嘔吐感が湧いてきた。赤ずきんの背後から黒い煙みたいなものが湧き出て、それをリカッサが旨そうにバクバク食っているではないか。
「あれはリカッサが自分を成長させるためのものだよ。元の話に齟齬が発生したところでは、ああやって煙が出て、奴らはあれを食べるんだ。そして一定量食べることで」
そこでリカッサが咆哮した。そっちの方を見てみると、思わず目を丸くしてしまった。始め見た時ですら体長は三メートル強あった。それが右足、左足、胴体、両腕、そして頭が順々に肥大化していったからだ。今はもう五メートルくらいまで成長した。
「ああやってどんどん成長して、話の他の場所にも悪影響を与え続けていく。そして、奴らは話にどんどん根を伸ばし、引いては他の世界にまで悪影響を与える」
「じゃあ、どうしろって言うんだよ。今の俺たちじゃ、あいつに攻撃できないんだろ?」
焦る俺とは対照的に、クライムの方は微笑を浮かべた。
「そのために、ボクはキミや彼みたいな人を探し続けているんだよ」
リカッサの奥を指差すクライム。奥には森しか見当たらないことに疑問を抱いていると、森の中から何かが飛び出してきた。
「はあぁぁぁ!」
ついさっき聞いたような声。そんなことに思索を巡らす暇すら無く、威勢の良いかけ声と共に何かが空断し、化物―リカッサの右腕の肘から先が切断さ
れた。舞い上がる土煙の中に落ちていく腕は霧散し、消えていった。
「グギャ!…グルガァァァ!」
「あれ?もう少し上だったかな…。やっぱりまだ微妙に距離感が掴めないな」
粉塵が舞うこんな場面にも関わらず、微妙に我関せずと言った表現の似合う、どこかのんびりした声。徐々に煙が晴れていき、そこにあった姿は―
「……………要?」