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「へ~。不惑の部屋ってこうなってるんだ。結構大きめの本棚もあるし、実は読書家?」
「意外そうな声を出すんじゃねえ。これでも色々読んでるんだよ」
あそこで口を滑らせたせいで付きまとわれ、仕方なく話を聞くことにした。家に呼んだのは、あの場で話しているとクライムの姿が見えない他人から見たら完璧オカルトにハマっている妙な奴と思われるかもしれないからだ。
「で、俺への用事って何なんだ?なるべく要点だけで教えてほしいんだけど、明らかに普通じゃない奴だ。事情は知らんが、何やら大変なことなんだろ?」
「―察しが良くてありがたいよ」
そう言い口角を緩め、こちらと視線を交わす。
「不惑は、本の中の世界ってどんなものだと思ってる?」
「………は?」
質問の意味が良く分からない。要するに、本の中がどうなってるかということだろうか。
「だから、本の内容って、架空の絵空事だと思う?」
「そんなもん、自伝でもない限りは想像上のことだろ?」
そう言うとクライムは首を横に振った。
「違うよ。本の中の世界は、確かにもう一つの―無限の世界が存在する」
力強い言葉に思わずのけ反る。そしてこっちの言葉を待たずにもう一つ質問が投げかけられた。
「パラレルワールドって言葉、知ってる?」
「それって、確か平行世界だっけか?今いるこの世界と同時に時間が流れている世界のことだよな」
その答えにクライムが満足そうにうなずく。
「そう。ざっくりと説明するとそういうことになるの。…じゃあ、そのパラレルワールドは、一体いくつくらい存在すると思う?」
「そんなもん、数えきれるわけがないだろ。全ての生き物の一瞬の行動がその世界に分岐する、言っちゃえば『可能性の世界』なんだからさ」
その答えにまた同じように頷いてみせた。
「その通り。ボクの言う事はその延長線上に存在するんだ」
にこやかな笑顔を消し去り、真剣な声音でこう言った。
「その世界が書き換えられているんだ」