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「アハハ!それでまたやらされてるんだ」
「ったく、後始末は全部俺かよ…」
箒を持ってぼやく相手は今回の掃除当番の一人の漆羽美咲(うるはみさき)。名前の通り見事なまでに漆塗りように綺麗な黒髪と、驚くほど透き通った青い瞳により、非公認の校内美女ランキング一位を余裕で独走していることを彼女は知らない。
「まあまあ。あんまり文句とか言ってると、幸せが逃げてくよ?」
「俺だって好きで文句言ってるんじゃねぇって。俺はただ、面倒事が嫌いなだけだっつーの」
そう言うと、待っていたかのようにその言葉に笑みを浮かべた。
「またその口癖?でも、あたしそんなに嫌いじゃないけどね」
クスクスと笑みを浮かべる彼女は、年齢よりも幾つか下に見せるほど無邪気なものだ。
「それにしても、要くん最近どうしたんだろうね」
「ここのところあの調子だしな。聞いてみてもはぐらかされて終わっちまうしな」
特にここ数日の要の様子に不信感をお互いに抱いていたようだ。
「…もしかしたら、そのあたしたちには分からない秘密が突然どっちかに降りかかってくるかもね」
漆羽のその言葉に思わず箒を掃いていた手が止まり背筋が寒くなる。
「何だよ、またその手の予知夢でも見たのかよ。百歩譲ったとしても、巻き
込まれたくねえもんだな」
溜息混じりにそう言うと、漆羽は苦笑いした。
「アハハ…。なんか最近よく見るようになっちゃって」
彼女が最近誰かに何か話題を振ると、最後の締めが忠告で終わるケースが多い。それは、他人の未来を一瞬だけ見ることだ。それは何年も後の事の時を見ることもあれば、会話したその日に判ることもある…らしい。
「そう言えば、どんな感じの夢を見たんだ?まさか、妙な生物とかに食われたりはしないよな」
「どう…だろう。今回の、大分曖昧なんだよね。でも、すごく鮮明に覚えているよ」
そこで一度区切ると、顔の表情を消し、真剣に告げてきた。
「多分今日の帰り道。そこで、誰かに銃を突き付けられてた」