表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
March On  作者: awa
5/12

05

 翌日の夜。

 一階からギャヴィンが部屋に戻ると、数時間放置していた携帯電話の着信ランプが光っていた。ベッドに腰かけて確認する。メールが二件と着信が二件だった。まずは着信履歴、マリーとライアンだった。またこの二人かと思う──そしてどちらから先に連絡を入れればいいのかという疑問も浮かんだが、それにはすぐにマリーだという答えが出た。電話をかける。

 「あ、ギャヴィン?」マリーが言った。

 「うん。電話あったみたいだけど」

 「あのね、レナから電話があって、今週で冬休みが終わるし、明日、またジャックの家でお泊り会しないかって。ジャックの両親、出張でいないらしいの」

 なんというタイミングの悪さだ。「ごめん。約束がある」そして人数合わせの合コンを了承したことを激しく後悔した。

 「あ、そっか。じゃあレナにそう言っておく。そしたらライアンにも伝わるみたいだから。今も一緒にいるんだって」

 天と地がひっくり返ったようにアツアツなのか。というか、もしマリーがライアンのことを好きなのだとすれば、この状況はとても酷な気がするのに。

 「そっか。ホントごめん。俺のせいで行けなくて」それも合コンなどというくだらない理由のせいで。

 彼女は笑った。「いいの。あっちはカップル二組だし、四人のほうがラクだと思うし。じゃあ、レナにそう言っておくね」

 罪悪感と嫉妬。

 「うん。ほんとごめん」

 「いいって。あ、メール送ったんだけど、見てない?」

 「ごめん、見てない」

 「いいの。映画ね、ひとりじゃ決められないから、いくつかよさそうなのを送っただけ。また明日にでも、返事くれればいいから」

 いい子だ。「うん。ありがと」

 「ええ。じゃあ、おやすみなさい」

 欲と、躊躇。

 「うん。おやすみ」

 進みたくても、進むのが怖い。

 ベッドに倒れこみ、ギャヴィンはメールを確認した。マリーとマシューから。まずはマシュー。

  《明日、忘れんなよ。五時半》

 忘れたい。合コンなど行きたくない。だが、彼は彼で気を遣ってくれているのだと思う。というか、去年は特にかなり迷惑をかけたので、断るに断れない。

 このメールに対する返事は必要なのか。いらない気もする。どうせ“はいはい”という内容にしかならない。送る意味はあまりない。

 無視することにして、マリーからのメールを確認した。

  《映画、調べてみた。色々あるみたい。雑誌にランキングがあったわ。一位はラブストーリー。これは観に行った人たち、特に女の人が、かなり感動するって。二位はアクション・コメディ。山にサイクリングに行った主人公が、突然起きた銃撃戦で自転車を台無しにされて、その自転車を弁償させるためだけに悪役と戦うって話。これは男女共に人気。三位はホラー。山荘に泊まった十人の大学生たちが、大きな雪男に次々と襲われていく話。とりあえず、ここまでにしておくね。私はどれでもいいよ。決められなかったら、日曜に雑誌持って行くから、そこでまた決めるのでもいいと思うし》

 まさかの雪男の登場だ。まさか携帯電話を持っているのか。大学生の携帯電話が十台はあるはずなので、持つ可能性は高い。左手にそれを持って、右手を上げて、そのまま追いかけてくるという可能性も高い。怖い。本当に怖い。夢に出そうだ。

 というか、そもそも雪男というのがなんなのかがよくわからない。想像では、全身真っ白で(昨晩はココア色をどう起用すればいいかわからず下半身がココア色ということにしたけど)、触ると冷たくて(いや、触らない)、そして絶叫系の顔(意味不明。ゴリラ顔のもっとすごい版みたいな)をした男だ。いや、怖い。ホラーは好きだけど、その雪男だけで考えれば妙に怖い。

 マリーの好みはなんなのだろう。ラブストーリーは話の説明がないものの、これは気を遣われている気がする。友達だ。そんなものは、女同士かカップルが観るもののような気もする。自分たちはただの友達だ。

 無難なのはアクション・コメディなものの、こういうのにもけっきょく、恋愛は絡んでくる。いや、自転車が恋人という可能性もあるか。まあいい、マリーに任せよう。

 ギャヴィンはテーブルに置いていたリモコンでコンポの音楽を再生した。マリーが貸してくれたCDの音楽が流れる。彼女おすすめの十三曲目だ。昼間のうち、暇があれば──基本的に暇だったけど──何度も聴いた。



  時々 周りのすべてが敵に思えることがある

  この広い世界で ひとりぼっちのように感じることがある

  時々 すべてが無意味に思えることがある

  大きな海の底で 死んでるように感じることがある


  今こそ前を見て 進むんだ

  たとえそれが 果てしない下り道だったとしても

  進むんだ 進み続けるんだ


  もしも味方を見つけられないというなら

  もしも長い夜に孤独を感じるというなら

  そこを飛び出してしまえばいいんだよ

  もしも意味を見つけられないというなら

  もしも息することを難しく感じるというなら

  そこを飛び出してしまえばいいんだよ


  今こそ前を見て 進むんだ

  たとえそれが 希望のない真っ暗な道だったとしても

  進むんだ 進み続けるんだ


  いつか見つけられる

  進み続ければ

  いつか見つけられる


  それが始まったように すべてには終わりがある

  君が見るすべてが すべてじゃない

  君の背中には 羽がある


  今こそ前を見て 進むんだ

  たとえそれが 果てしない下り道だったとしても

  進むんだ 進み続けるんだ


  今こそ前を見て 進むんだ

  たとえそれが 希望のない真っ暗な道だったとしても

  進むんだ 進み続けるんだ


  孤独に押し潰されそうな時でも

  哀しみに押しつぶされそうな時でも


  今こそ前を見て 進むんだ



 そしてまた、彼は思った。

 この曲を、一年前の自分に聴かせたかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ