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March On  作者: awa
3/12

03

 シャワーを浴びたあと一階におりたので、ギャヴィンが再び部屋に戻ったのは一時間ほど経ってからだった。ベッドの上に置いたままだった携帯電話の着信ランプが光っている。

 やはり明かりをつけずにそれを持ち、彼はベッドに座った。携帯電話を確認する。マリーからメールだ。

  《お礼、遅くなってごめんなさい。送ってくれてありがとう。ごめんね、遠いのに》

 あやまられたり礼を言われるほどのことをしたつもりはない。送りたくて送っているだけだ。もちろん、そんなことを言えるわけはない。

 友達としてなら嫌われていないというのはわかる。だが交際となると、微妙だ。もう告白してしまえば、ラクになる。──かもしれない、が。

 《いや、楽しかった。肉まん、つきあってくれてありがと。あと、おもしろい話も》

 そんな半端な文章を送信した。作文は苦手だ。

 ギャヴィンは再びベッドに寝転び、目を閉じて左腕で額を覆った。

 雪は、だめだ。どうしてもテンションが下がってしまう。

 考えたくない。思い出したくもない。一年経ってもこれなのか。少しの雪でもこうなってしまうのか。

 部屋を変えて、捨てられるものは捨てて、替えられるものはすべて替えて、そうやってどうにかやってきたのに、それでもこうなるのか。どうすれば記憶を抹消できるのだろう。

 右手に握ったままだった携帯電話が再び鳴った。マリーからの返信だ。

 《私もすごく楽しかった。肉まん、おごってくれてありがとう。今度は私がおごる。ココアつけて。あなたはスポーツ万能ね。なんでもこなせて羨ましい》

 彼の口元はゆるんだ。“今度”がある。

 恋愛ではうまくできないし、スポーツなど、その道に進まないのならなんの意味もないような気がするが。

 返事を考えたがそれよりも、彼女の声が聞きたい、と彼は思った。

 《電話、していい? ちょっとだけ》

 送信してしまった。どうやら疲れと眠気でおかしくなっている。だがこのままメールを続けていると、眠ってしまいそうなうえ、イヤな夢をみてしまいそうだ。

 ライアン風に言うなら──下半身ココア色したやたらと大きな雪男が、携帯電話を持ってひたすら追いかけてきそうな──ちょっと待て。おもしろいうというより怖い。さすがに怖い。本当に夢にでてきたらどうしよう。

 マリーから返信が届いた。

  《うん、だいじょうぶ》

 彼女は、やさしい。いい子だ。

 メール画面を閉じ、発信履歴から彼女に電話をかけた。二コール目の途中で呼び出し音が途切れ、彼女の声に変わった。

 「ハイ」

 「ごめん、寝るまえなのに」と、ギャヴィン。彼は目を閉じた。

 「ううん、平気。どうかした?」

 声が聞きたくて。などと言えるわけがない。

 「ん、ちょっと、感傷に浸ってて」そう答えたところで、CDの存在を思い出した。

 「ええ? ──あ。そういえば、CD。もう、聴いた?」

 すっかり忘れていた。「ごめん、まだ」

 「ううん、いいの。明日でいい。おすすめは十三曲目」

 明日、十三曲目。「どんなの?」この質問はおかしい気がした。

 「元気が出る曲。ノリノリってわけじゃないけど、でも元気が出る曲」

 また彼の口元がゆるむ。「わかった。明日、ソラでうたえるようになるくらい、真剣に聴く」

 マリーは笑った。「そうして。私もほとんどうたえる」

 「じゃあ今度、タイラーたちとカラオケに行こうか。そこで熱唱」デュエットする。

 「やだ、ダメ。歌は下手だからダメ」

 「あれ、残念」さっそく失敗したらしい。

 クリスマスの次の日、先月の二十六日。ギャヴィンは、サンタイベントで手に入れたプレゼントを開封するのにマリーを誘った。

 ランチを一緒に食べ、プレゼントを開けた。だがカップル用だということに気づき、妙に気まずい雰囲気になってしまって、けっきょく、会ってから三時間と少しで解散してしまった。

 その時彼女にCDを貸してもらい、それは年末のカウントダウンイベントで会った時に返した。それ以降、今日家に彼女を送ったのを除けば、ふたりきりでは会っていない。願望はあるけれど。

 再び舞い降りるその時の後悔と今日の疲れ、そして眠気で、彼はどんどんわけがわからなくなっている。

 「──じゃあ、日曜、会える?」

 「うん、大丈夫」即答だった。

 やはりいい子だ。断る方法を知らない、というだけだと、もう土下座してあやまるしかないが。

 彼は続けて質問した。「時間、どのくらい大丈夫?」

 「時間? いくらでも、大丈夫だけど」

 嬉しいが、リミットがわからない。まあいい。「んじゃ、映画観に行こうか」なにも知らないけど。

 「いいわよ。なにか観たいの、あるの?」

 「ごめん、ぜんぜんわかんない」ただの口実なので。

 「ええ?」

 「ごめん。マリーは? なんか観たいの、ある?」

 「ごめん、私も、ぜんぜんわからない。──でも、調べとく。ジャンルは?」

 「なんでもいい」一緒にいられるのなら。だがすぐつけくわえた。「アニメ以外なら」それはさすがに。

 彼女が笑う。「そうね、わかった。──大丈夫?」

 「うん?」

 「なんか、元気ないみたい」

 心配してくれている。彼女はやさしい。「大丈夫。君の声、眠くなる」落ち着く。癒される。安心する。

 「うーん? それは、褒め言葉?」

 「うん。すごく」

 「──じゃあ、ありがとう。CDは明日でいいから、もう寝て。私も寝る。映画、なにか見つけたらメールするね」

 いい子だ。「うん。ありがとう。おやすみ」

 「おやすみなさい」 

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