ディス(Dis)
闇を司る死の神ディス
創世神で四番目に生まれた男神がディスである。その名前は古代ラグナ語で『変わり者』という意味がある。
彼は闇属性を司り、死と運命の神格を持つ。ディスを象徴するのは鋏、鎌、槍鉋、仮面であり、黒をスピリチュアルカラーとしている。また14月を統治していて、彼の死を逃れるために14月は28日と短い日数しか与えられていない。
死神の姿を持つ神と伝えられている。髑髏の仮面を着け、体をゆったりとしたローブで包んだその姿は、死を告げる影に相応しい。
その姿は『病的に白い肌を闇で織り成したローブと生贄の髑髏で隠している。黒く長い髪はその漆黒の瞳を隠し、生贄に自分の気配を報せない。細い体はどんな隙間にも潜り込み、彼から逃れられる者はいない』と語られる。
ディスを象徴する道具が多いのは、彼が使用する道具が時代と共に変遷したからである。生物が死んだ後、魂がエリュシオンの海へ戻れるように切り離す役目を持っている彼は、始め鋏を使ってそれを成していた。そもそも彼は裁縫が得意であり、ルナエルが布を織り、ディスがその布を裁断して神々の衣服を製作していた。彼にとって鋏を使用していた時の役目は、布の裁断のように世界の形を整えるようなものだった。
しかし時代は移り、生命が増えてくると鋏では間に合わなくなった。そこで彼は鎌を取り出した。そこから彼にとっての役割は、次の命のために以前の命を刈り取ることになった。
そしてさらに時代が進むと、人間など強い自我を持った生命が現れた。これにディスは困らされるようになる。強い自我はエリュシオンの海の中に長く浸からなければ無我にならず、前世の記憶を持って生まれてくる。聖人君子ならばいいが、怨念を持った魂がそのまま生まれ変わると世界が混乱する。そのために同じ魂の量でも転生までの時間を長く取らなければならない。さらに強い自我を持った魂は自分の肉体に固執するようになり、収穫の時に鎌が刃零れしたり、肉体が傷付いたりした。これに対して、スウェアが肉体を傷付けることはディスの役割から逸脱した行為だと非難した。そこで彼は槍鉋(槍状の鉋。台鉋と同じく木の表面を削って滑らかにする道具)を拵えた。それからディスは強い自我を持ち肉体から離れない魂を槍鉋で削り取るようになり、肉体を傷付けずに役目を全うできるようになった。
ディスが髑髏で顔を隠すようになったのは、ある事件がきっかけとなった。まだ人間と言える存在がドロシィとセアエルしかいなかった頃の話である。
まだディスは鋏で魂を切り取っていた頃で、その日は死者が多く、疲れて帰り道で座り込んでしまった。そんな彼に対して、一人のドロシィの娘が疲れているのかと訊いてきた。ディスが頷くと娘は近くに自分が住んでいる洞があると言ってきたので、ディスはその申し出を受けた。
洞に戻る途中、娘はくしゃみをした。ディスと違い娘が何も着ていなかったのは、まだ人間が裁縫を知らないからだった。ディスは娘の洞に着くと、その礼に一着の服を仕立ててみせた。娘はそれに喜び、ディスはそれに気をよくして度々娘のところへ来て、裁縫を教えた。こうして、娘から人間に裁縫が伝わっていった。
ある時長い冬が来た。寒さは衣服で凌げても、生き物が眠り続けるので飢えは凌げない。次々と死にゆく命を切り取っていたディスが娘の所に来られるようになったのは、娘が飢え死にした後だった。それを見て嘆くディスに、スウェアが言った。死を刈り取るお前が死を嘆くとは何と愚かなことか、と。死に逝くに手を差しのべず、冷酷に見つめ続けた自分を恥じるなら、彼女を忘れるな、と。
ディスは全く以てその通りだと納得して、鋏で彼女の髑髏を切り取り、顔に被った。その時に使えなくなった鋏はローブに仕舞い、代わりに鎌を持ち出した。
その後、死を招くディスは顔を隠して人間に農耕を教え、その寿命を僅かばかり伸ばしたという。
ディスは建築に長けた神であることも知られる。
アルヘイムが建設される時、最も大きく、国の中心に置かれる神々の城はディスの手によって建てられた。その槍鉋で磨かれた木材は美しく、また狂いないために丈夫で、地震にも強く快適な城となった。