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第1話 MMORPG“キングダム”

二作目。MMORPGの世界に云々。

人気ジャンルって書きたくなるよね。


夢幻転生記に筆が乗らない時にちまちま更新します。

 “キングダム”


 日本語に訳せば“王国”。単純が故に、最大の特徴を表すその名を冠するゲームは人気の国産MMORPGだ。

 サービス開始から五年経った今では世界中で多くの人が遊ぶ、最も有名なMMORPGタイトルの一つになっていた。


 このMMORPGの世界“アスガイア”はほぼ同規模の二大陸を有していた。

 その広大な大陸は、端から端まで進むのに現実時間の二日近くを費やさねばならなかった。移動速度を三倍にする馬を使って、だ。

 これは“途中の休憩などを度外視して全ての時間を移動に費やす”ことを前提にした時間であり、現実の二時間がゲーム内時間の一日であることから、そのマップの広大さが分かるだろうか。


 その他にも美麗なグラフィック、豊富なやり込み要素、高機能なAI、多彩なイベントなどなど、基本的な部分も他のMMORPGと一線を画していたが、このゲームの目玉は何と言っても“国が作れること”だった。


 このゲームのその広大な土地の割には初期配置のどの国の領地にもなっていない部分がほとんどで、世界に点在する村や街も極端に少なかった。



 それはこのゲームが“プレイヤーがゲームを作る”ことを目的としていたためである。



 レベルキャップは300だったが、20レベルに達した者はまず小さな小さな“村”を作ることが出来る。ただ、それは村と言うよりも部族やキャラバンに近いような代物なのだが。

 50レベルになるとどこか一カ所に確かな“村”を作ることができた。これは一生そこから離れる事が出来ない訳ではなく、一定の予算があれば村ごと移動することが出来る。


 10レベル単位で作れる村の最大規模が上がっていき、150レベルでは防壁を持つ“街”を造る事が出来る様になる。


 そして、300レベル。そこまで至った者は全プレイヤー人口の内の一割未満だが、ここでついに“街”の数倍の規模を持つ“(みやこ)”と“国”を造ることが出来るようになる。


 “都”は300レベルに達した者ならば誰でも造る事が出来る。

 しかし“国”を造るのには、三つの条件があった。


 一つは300レベルであるという条件。


 一つはある物を所持していることが条件だった。

 それは各サーバの各職業毎にただ一つずつ存在する限定装備、“宝具”。

 例えば“聖騎士”と呼ばれる二次職業があるが、“宝具”を手に入れる事が出来るのは、そのサーバーに存在する数ある聖騎士の内のたった一人だけ、ということだ。


 世界のどこかにある各最難関ダンジョンの最深部に安置されている“宝具”。

 五年経った今でも、それを手に入れた者は数えるほどしか居ない。


 そんな希少で貴重な限定装備を持つ者が、本人も合わせて五人以上メンバーの居る“ギルド”に所属し、そのギルドマスターを務めている事。それが最後の条件だった。




 そして、“キングダム”の日本サーバーにあるギルドの一つ“英雄の右腕”は、そんな“国”の建国条件を満たし、今まさに新たな“国”を造っているところだ。


『ユフィ姐、城のモデリング終わったー?』

『うんにゃ今内装やってるとこ』

『りょーかい』

『ヘイルの方は』

『城下町の形はだいたい、あとは九龍がやってる』

『ういー』


 ユフィ姐に確認を取ると、次は誰の作業状況を確認しようかとリストに表示される名前を見る。


 ユフィ姐こと、300レベルのエルフ、魔導師のユフィーティアは俺がギルドマスターを務める“英雄の右腕”のメンバーの一人。

 “英雄の右腕”は国を造る条件である“五人以上のメンバー”をギリギリ満たしているたった五人だけのギルドだ。


 ただしこの五人は国を造る為だけに協力しているのではなく、“キングダム”のサービス開始初期からずっと一緒にパーティーを組んでいる。

 普段のログイン時間もほぼ同じで、趣味も合う、気の良い仲間達だった。




 “英雄の右腕”は、様々な意味で有名なギルドだった。中堅以上のプレイヤーならば誰もがその名を知っているほどに。


 最古参のギルドなのに、メンバーが五人しか居ない。

 なのに、その五人全員が“300レベル”であること。

 さらには、五人全員が“宝具”保持者であること。


 最古参のギルドとなればメンバーが百人を超えるのは普通だったし、中には千人単位のギルドもいくつかある。

 しかし結成当初から五人以外の誰もメンバーを増やさずにここまで至ったギルドは他に無いだろう。


 そして少人数ながら、その全員が300レベルというのは中々目を引くものがある。


 しかしこれだけならば“珍しい”程度で済むだろうし、ここまで有名になることも無かっただろう。

 “英雄の右腕”が有名になった要因は宝具にある。


 その希少さ故に、宝具がもたらす効果は絶大だった。


 宝具は武器と防具の二つが対になって存在するが、その武器には“全ステータス一割上昇”という効果が全ての宝具に付与されている。

 それに加えて、それぞれの職業に特化した効果が付随する。

 例えば“聖騎士”ならばSTR(筋力)とVIT(生命力)の二割上昇。対魔物の際の与ダメージ二割増。


 加えて全ての防具には全状態異常の回避率と耐性の九割上昇。

 そこに“聖騎士”に特化した効果である、被物理ダメージの五割減、被魔法ダメージの三割減。回復魔法、回復薬、自然回復の効果三割増。

 その他諸々細かい効果があるが、大きな物だけでもこれほどの恩恵が宝具にはあった。


 このように限定装備がバランスブレイカーと呼ばれても仕方ないほどの力を秘めていたおかげで、その保持者がギルドにいると言うだけで、そのギルドとその保持者の名前はサーバー中に広まる。

 戦争イベントなどではまさに百人力だし、ダンジョンを攻略するにも、保持者が一人いるだけでグンと楽になるからだ。


 それだけに宝具の入手は困難を極めるのだが、それに見合う恩恵を受ける事が出来た。



 そして“英雄の右腕”が有名になったもう一つの要因。



 それは人間族専用の職業である“英雄”。

 初期選択である一次職業の一つで、これにだけは二次職業が存在しない。


 人間族の特徴として、ステータスが平均的であり、どんな職業もそつなくこなすことが出来、なおかつ他種族よりも成長が早いことで知られる。

 事実、“キングダム”の300レベルのプレイヤーのほとんどは人間族である。


 しかしこの英雄という職だけは例外で、一番成長の遅い事で知られる竜人族よりもさらに成長が遅くなる。

 加えてステータスの成長率が著しく低く、一応前衛職であるにも関わらず、50レベルの英雄と40レベルの戦士のSTRが同じという悲劇。

 そのためにその名の響きに反して人気は全く無く、大きな街に一人居るか居ないかという有様だった。


 それでも“英雄”には絶対に何かあるはずだと信じて使い続けたのが、ユフィ姐に“ヘイル”と呼ばれた俺。

 “英雄の右腕”のギルドマスターであり、“キングダム”で唯一の300レベルの“英雄”。


 諦めずに英雄を使い続け、ある事に気づいたのは250レベルを過ぎたあたり。


 ステータスが異常に伸び始めたのだ。


 英雄は全てのステータスが平均的に伸びる。自由に割り振れるポイントもあるにはあるが、それまではそのポイントも微々たる物だった。

 しかし290レベルになると、全てのステータスが、そのステータスに特化した職業から一歩引いた程度になっていた。

 レベルキャップである300レベルに達した時、その能力はまさに“英雄”に相応しいモノになっていた。

 超一流とは行かないまでも、その全てが一流の数値を示していたのだ。


 ただそのままでは突出した能力が無く、他の300レベルに“器用貧乏”と言われかねなかった英雄だが、それを“万能”に変えたのが宝具だった。


 英雄専用の西洋剣型武器“キャリバーン”。

 全ステータスの三割上昇。全与ダメージ三割増。対魔物の際はさらに三割増。


 英雄専用の指輪型防具“アンリヴァル”。

 全被ダメージ五割減。体力、魔力の自然回復速度の五倍化。魔法詠唱速度の倍化。


 その他細かい能力上昇等、英雄限定装備が持つ能力は、他の宝具と比べても一段と飛び抜けていた。

 その最強の装備を手に入れた俺は“最弱”という英雄職の汚名を返上し、名実共に“英雄”となったのだ。


 ただまあ飽くまでもゲームの話なのだが、それまでの苦労に見合う達成感はあった、と思う。

 実際レベルキャップに達した今でも狩りは楽しいし、国を造るという一大事業を仲間と協力しながら進める今は至福の一時(ひととき)だ。



 ただ、もしこのゲーム内の“ヘイル”が自分自身で、実際に魔法を使えたりしたら――――なんて考えるのだが、詮無き事か。


 ともかく今はユフィ姐と九龍以外のギルドメンバー、ロイとケフィアに連絡を取らないといけない。



 ユフィ姐――もといユフィーティアは先に述べたように、エルフ族の魔導師。

 他のメンバーも大差は無いのだが、俺の一番古いフレンドだ。何となく話し方が投げやりな感じだったり、やる事が大ざっぱだったりするが、気に入った事や興味のある事には人一倍のめり込むし努力する。

 国と都の要になる王城のモデリングを任せているのもその為だ。



 九龍は獣人族の侍。五人の中で一番早く300レベルに到達した。

 普段は冷静沈着でパーティーの参謀的な役所に居るのだが、誰かが下ネタを言うとすぐに食らいついてくる。たぶん童貞。



 ロイは竜人族の聖騎士で、俺を除く四人の中では一番成長が遅かった。

 性格は気さくで、ギルドメンバー以外にもフレンドはたくさん居たようだ。“英雄の右腕”のムードメーカー。



 そしてケフィア。半精霊族の大司祭。

 名前を見たとき、白いナニかを意識したんじゃないかと疑ってしまい、何となく胡散臭く思ったのだが、やっぱりこいつが一番の曲者だった。たぶん名前はワザとだろう。


 出会った当初は礼儀正しく敬語を使ってくれていたのに、一ヶ月ほど経つと徐々に本性を現していった。

 九龍が下ネタ好きだと知ると、戦闘の最中に男の幻想をぶち壊す様なセルフガールズトークを連発したり。『女王様と呼べ』とか言って、従わないと回復魔法を掛けてくれなくなったり。

 とにかく酷かった。


 しかし重要な戦闘となると一変、その能力を遺憾なく発揮した。

 新たなダンジョンに挑む時は独自に下調べをして情報を集めてくれた。厳しい戦闘でも的確に最良のタイミングで回復魔法をかけて、決してメンバーを死なせなかった。戦争イベントの際は九龍と一緒に参謀役を務め、上手く敵を誘導して倍近い戦力を持った敵国を喰い破った。


 何とも個性豊かな仲間達だが、それだけに充実したゲームライフを送っている。



 と、物思いに耽ってロイとケフィアに連絡を取るのを忘れていた。

 ケフィアはまだログインしていないようなので、建物の建設作業に当たっている筈のロイにチャットで話しかける。


『ロイおっすー』

『おっすーどした?』

『作業進んでるかなって』

『ぼちぼち。あと、ちょっとオーク材足んない』

『採ってこようか?』

『頼むー』

『うい』



 軽く現状を確認したところで、オーク材の取れる森林に向かう。

 ただこの“王都ヴァーミリオン”建設予定地は、森や山から離れた平地に建てられているため、少々遠出しなければならない。

 正直めんどい。


 しかし建材が無ければ王都は出来ないし、引き受けた手前サボる事も(はばか)られる。

 仕方ないので“良質なオーク材”の採れる“マレロの森”に向かう。


 ただ、大陸の南東に位置するマレロの森は、大陸の西側にある王都ヴァーミリオン建設地とは大きく離れている。

 なので転移魔法を使って近くの街まで飛んで時間短縮をする。

 村・街・都の一覧を確認すると、幸いすぐ近くに知り合いの街があるようだ。


 スキル欄から“転移”を選び、その街を選択。

 すると景色が反転、一瞬で人が溢れる賑やかな街の門が目の前に現れるが、俺はその門には目もくれずに右へ進み、巨大な森林へと足を踏み入れた。


 “マレロの森”は当然の如くモンスターが出現するが、そのレベルは低く、20レベル程度のものがほとんどだ。30レベルもあれば一人でも安全に戦える。

 到底300レベルの相手では無い。

 まあ、それ以前にモンスターが攻撃を仕掛けて来ないのだけど。


 いくら一撃で倒せると言っても立ちはだかるモンスターが邪魔な事には変わりない。

 その分モンスターがモーゼを前にした水の如く、道を空けてくれるのは気が楽だった。



 二十分ほど歩くと周りに生える木の種類が変わってくる。

 入り口付近は採取しても建材には転用出来ない木しか生えていなかったが、この辺りはグラフィック的にも太い木が群生しており、採取すると“良質なオーク材”が手に入った。


 そのまま一時間ほど採取を続け、アイテムボックスの半分程が“良質なオーク材”で埋まった。

 中には“高級なオーク材”なんかが混じっているが、確か高ランクの建物を建てるのに必要だったはず。無駄にはならないだろう。


 そろそろ帰ろうかと思い、スキル欄の“転移”にカーソルを合わせると同時に、メッセージが届く。

 差出人はユフィ姐。


『王城完成したよん

 あと九龍とロイが用事で落ちるって言ってたからオーク材はゆっくりでいいよー』



 どうやら少々遅かったようだ。ふと画面から目を離し、時計を見ると既に深夜の二時を回っていた。

 仕方ない。切りも良いので、フィールドでの安全なログアウトに必要な“キャンプセット”というアイテムを使い、ゲームから落ちる。


「んー……、そろそろ寝るかな……」


 一度ぐっと伸びをする。長時間座っていたせいで体がだるい。

 もうお風呂は済ませてあるのであとは寝るだけだ。


 パソコンの電源を落とし、ぼふりとベットに飛び込む。昨日干したばかりの布団はその柔らかさを取り戻していた。ふかふかしていて気持ちが良い。

 さて少しだけ体を起こし、天井から下がっていた紐を二度引くと、部屋を照らしていた蛍光灯から光が消える。

 再び上体を倒し、静かに目を閉じる。


 何故だろうか、いつもと同じ時間のはずなのに、酷く眠い。体に血液以外の何かが巡っている様な違和感。

 もうすぐ国が完成するせいで気持ちが昂ぶっているのだろうか。

 恐らく明日には出来上がるだろう王都ヴァーミリオンの姿を想像して、思わず口元がにやけてしまう。


「明日、楽しみだな……」


 そう呟いた瞬間、俺はすでに意識を手放していた――――

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