添い寝イベント
俺はベッドに倒れ込んだ。
心臓がばくばくしている。
変な汗が出ている。
ふと、考えた。
俺は今、女の身体だ。
つまり——処女なんだ。
前世では、三十二年間童貞だった。
一度も女性と関係を持てなかった。
それなのに——
この世界で、俺が先に処女を失う?
男に抱かれて?
この身体で?
「——冗談じゃねえ!」
俺は思わず叫んだ。
童貞より先に処女喪失とか、ありえない。
絶対に、絶対に嫌だ。
俺は男に抱かれたくない。
この身体を、男に差し出したくない。
でも——このままメイドを続けていたら、いつか結婚させられるかもしれない。
貴族の子息とか、騎士とか、そういう男と。
想像しただけで、吐き気がした。
(俺、どうすればいいんだ……)
答えは出なかった。
(落ち着け、落ち着け……)
深呼吸を繰り返す。
この身体に、慣れてはいけない。
でも、どうしても気になってしまう。
俺は枕に顔を埋めた。
◇ ◇ ◇
そんなことを考えていると、ドアがノックされた。
「リリア、起きてる?」
お嬢様の声だ。
「お、お嬢様? どうされました?」
ドアを開けると、お嬢様がネグリジェ姿で立っていた。
また薄い生地だ。
月明かりに透けて、シルエットが見える。
「悪い夢を見たの。一緒に寝てもいい?」
——え?
「お嬢様、それは——」
「お願い、リリア」
涙目で見上げられる。
断れるわけがなかった。
◇ ◇ ◇
俺の狭いベッドに、二人で入った。
お嬢様が俺にぎゅっとしがみつく。
柔らかい身体が、全身に押し付けられる。
薄いネグリジェ越しに、体温が伝わってくる。
「リリア、あったかい……」
「お、お嬢様……」
「このまま、朝まで一緒にいて」
お嬢様が俺の首筋に顔を埋める。
吐息が肌に当たる。
くすぐったい。そして、熱い。
「リリアの匂い、好き」
「っ……」
足が絡み合う。
太ももが触れ合う。
お嬢様の柔らかい胸が、俺の胸に押し付けられる。
薄いネグリジェ越しに、体温が直に伝わってくる。
というか、ほとんど素肌に触れているようなものだ。
「リリアの体、柔らかい……」
お嬢様がさらに寄り添ってくる。
足を俺の足に絡ませ、腰に腕を回す。
「お、お嬢様……!」
「ん……気持ちいい……」
「おやすみ、リリア」
お嬢様が目を閉じた。
やがて、安らかな寝息が聞こえ始める。
俺は——一睡もできなかった。
◇ ◇ ◇
翌日。
そしてその翌日も。
お嬢様との距離感バグ生活は続いた。
◇ ◇ ◇
ある朝のこと。
「リリア、今日は特別な日だから、お化粧してあげるわ」
お嬢様がメイク道具を持って現れた。
「え、お化粧……?」
「そう。女の子なんだから、覚えないとダメよ?」
俺はドレッサーの前に座らされた。
お嬢様が俺の顔を覗き込む。
顔が、近い。
「まずはファンデーション」
お嬢様の指が、俺の頬に触れた。
すべすべと肌を滑る感触。
「リリアの肌、すべすべね。羨ましいわ」
「あ、ありがとうございます……」
「次はアイライン。目を閉じて」
俺は目を閉じた。
お嬢様の吐息が、顔にかかる。
心臓がうるさい。
「ん……もうちょっと右……」
お嬢様の手が、俺の顎を固定する。
至近距離で顔を覗き込まれている。
「はい、できた。目を開けて」
鏡を見ると、そこには——
見知らぬ美少女がいた。
「わあ、可愛い! やっぱり化粧映えするわね」
「これが……俺……」
「リリア、今『俺』って言った?」
「い、言ってません!」
「ふふ、バレてるわよ♪」
お嬢様がにやにや笑う。
「次は口紅ね」
お嬢様が俺の唇に、紅を塗り始めた。
くすぐったい。
そして、なんだか恥ずかしい。
「ん……動かないで」
お嬢様の指が、俺の唇をなぞる。
「っ……」
「はい、完成♪」
鏡の中の俺は、完全に女の子だった。
——いや、最初から女の子の身体なんだけど。
でも、化粧をすると、余計に女らしく見える。
「とっても綺麗よ、リリア」
お嬢様が俺の肩に手を置いた。
「これで男の人にナンパされても大丈夫ね♪」
「されたくないです……」
◇ ◇ ◇
トイレに行きたくなった。
当たり前のことだ。
生理現象だ。
でも——問題がある。
俺は今、女の身体だ。
女性用トイレを使わないといけない。
俺は恐る恐る、女性用トイレに入った。
——個室しかない。
当然だ。
女性には立ってする器官がないのだから。
俺は個室に入り、スカートをたくし上げた。
下着を下ろす。
そして、座る。
——なんか、変な感じだ。
三十二年間、立ってしてきたのに。
座ってするのは、すごく違和感がある。
用を足す。
——終わった。
紙で拭く。
——これも慣れない。
下着を上げる。スカートを下ろす。
鏡の前で身だしなみを整える。
——やっと終わった。
たかがトイレに、こんなに時間がかかるとは。
男って、楽だったんだな……。
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