共同浴場の試練
その日の夜。
俺は共同浴場で他のメイドたちと一緒に入浴することになった。
湯船には、すでに数人のメイドがいた。
ソフィア先輩。
マリア。
他にも、見知った顔がいくつか。
みんな——裸だ。
俺は思わず、息を呑んだ。
ソフィア先輩の身体は、引き締まっていて美しかった。
大人の女性らしい、成熟した曲線美。
マリアは、まだ少女らしい柔らかさを残している。
白い肌が、湯に濡れて艶めいている。
他のメイドたちも、それぞれに美しかった。
俺は——素直に思った。
——女性って、やっぱり綺麗だ。
前世で、俺はどれだけ女性の美しさを見てきただろう。
でも、こうやって間近で見ると、改めて実感する。
人間の身体って、美しいんだな。
——でも。
なんだろう、この空虚さは。
確かに、ドキドキする。興奮もする。
でも、前世で感じていたあの高揚感が、どこかに消えている。
なんでだろう。
ふと、自分の身体を見下ろした。
俺の胸。
俺の腰。
そして——
——そこには、何もなかった。
あるべきはずの、大事なものが。
俺の誇りが。
俺のアイデンティティが。
——ない。
(……ああ、そうか)
俺は今、女なんだ。
女が女を見て、興奮しても、何も起こらない。
起こしようがない。
だって、そのための器官が——
(俺の息子が……!)
俺は心の中で慟哭した。
さようなら、俺の息子。
三十二年間、一緒だったのに。
結局、一度も活躍の場を与えてやれなかった。
——なんか、すごく悲しくなってきた。
「リリアさん? 泣いてます?」
マリアが心配そうに俺を見つめる。
「い、いえ、湯気が目に……」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です……」
大丈夫じゃない。
俺の心は、今、折れかけている。
◇ ◇ ◇
しかし。
それでも、俺の目は彼女たちの身体から離れなかった。
だって、興味があるんだ。
——女性の身体に。
ソフィア先輩の胸は、どのくらいの大きさなんだろう。
触ったら、どんな感触がするんだろう。
マリアの肌は、なぜあんなに白いんだろう。
何か特別なケアをしているのか。
あのメイドの腰のくびれは、どうやったらできるんだろう。
ダイエット? 運動?
気がつくと、俺は他のメイドたちの身体をじっくり観察していた。
——俺、何やってるんだ。
女同士なんだから、裸を見ても問題ないはずだ。
でも、俺の視線は明らかに普通じゃない。
ソフィア先輩の胸と自分の胸を、無意識に比べてしまう。
マリアの腰と自分の腰を、見比べてしまう。
(俺の胸って、大きい方なのか……?)
ふと、そんなことを考えてしまった。
——いや、何を気にしてるんだ。
俺はおっさんなんだ。
胸の大きさなんて、関係ないはずだ。
でも、気になる。
この身体が、他の女性と比べてどうなのか。
俺は自分の胸を見下ろした。
……小さい、気がする。
「リリアさん? ぼーっとしてますよ?」
マリアに声をかけられてハッとした。
「あ、いえ、なんでもないです……」
「顔、赤いですよ。のぼせました?」
「そ、そうかもしれません……」
俺は慌てて湯船から上がった。
この浴場は危険だ。
いろんな意味で。
◇ ◇ ◇
身体を拭いていると、マリアが話しかけてきた。
「ねえ、リリア先輩。こういうの、男の人が見たらドキドキするんですかね」
「え?」
「私たちの裸のこと。女同士だと当たり前だけど、殿方には刺激的なんですって」
ソフィア先輩が頷いた。
「そうね。男性って、女性の裸にとても興奮するらしいわ」
「へえ……」
「胸とか、お尻とか、見るだけでドキドキするんですって」
——そうだろうな。
俺は今まさに、ドキドキしている。
だって、元男だから。
でも——
(これって、ルール違反じゃないか……?)
俺は今、女の身体だ。
女同士で裸を見せ合うのは、普通のこと。
なのに、俺だけがドキドキしている。
それって、彼女たちへの裏切りじゃないか?
「リリア先輩? どうしました?」
「い、いえ、なんでも……」
マリアが首を傾げる。
「リリア先輩って、時々変な顔しますよね」
「変な顔……」
「なんか、男の人みたいな目で見てるというか——」
「っ——!」
心臓が跳ね上がった。
「そ、そんなことないですよ!」
「そうですか? じゃあいいんですけど」
マリアはそう言って、のんびりと髪を乾かし始めた。
俺は——心臓が破裂しそうだった。
——危なかった。
もう少しで、正体がバレるところだった。
俺は心に誓った。
——もう二度と、変な目で見ない。
……無理だと思うけど。
◇ ◇ ◇
夜。
更なる試練が待っていた。
「リリア、一緒にお風呂入りましょう」
——は?
「お嬢様、それは——」
「いいでしょ? 一人で入るの、寂しいんだもの」
また上目遣い。
また断れない。
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