距離感バグ開始
朝食の後、俺はお嬢様の髪を梳かすことになった。
「リリア、座って」
お嬢様がドレッサーの前に座り、俺を呼ぶ。
俺は後ろに立ち、銀色の髪にブラシを通し始めた。
絹のような手触り。
甘い香りが鼻をくすぐる。
「上手ね、リリア」
「恐れ入ります」
「ねえ、リリア」
「はい」
「私の髪、好き?」
振り向いたお嬢様と目が合った。
距離が近い。吐息がかかるほどだ。
「と、とても美しいと思います」
「ふふ、嬉しい」
お嬢様が俺の手を取った。
「リリアの手も綺麗ね。細くて、白くて」
指を絡められる。
甘えるように、お嬢様の指が俺の指の間に滑り込んでくる。
「お、お嬢様……」
「なあに?」
至近距離で見つめられる。
吸い込まれそうな蒼い瞳。
薄い唇が、ついと近づく。
さっきまで固定されていた胸元から、ボタンの隙間から、ふくらみの谷間が見える。
俺は慌てて視線を上げた。
「髪、梳かし終わりました……」
「そう。残念」
お嬢様は名残惜しそうに俺の手を離した。
その時、指先が滑るように俺の掌を撫でていった。
ぞくぞくする。
けど、悪くない感触だ。
◇ ◇ ◇
午後。
俺はお嬢様と庭園を散歩していた。
「リリア、少し休憩しましょう」
東屋のベンチに並んで座る。
「ねえ、リリア。私たち、仲良くなれるかしら」
「も、もちろんでございます。お嬢様のためにお仕えいたします」
「堅いわね。もっとフランクでいいのに」
お嬢様が俺に寄りかかってきた。
肩に銀髪が触れる。
腕に柔らかい感触が押し付けられる。
「お、お嬢様……?」
「リリアの肩、気持ちいい」
お嬢様が目を閉じた。
安らかな寝息が聞こえ始める。
俺の腕には、お嬢様の豊かな胸が密着していた。
柔らかく、ふにふにと形を変える感触。
動けない。
心臓が破裂しそうだ。
お嬢様が寝返りを打つたびに、胸が俺の腕に擦れる。
(誰か、助けてくれ……!)
でも、助けを呼ぶ気になれない自分がいた。
◇ ◇ ◇
庭園を歩いていると、突風が吹いた。
「きゃっ!」
俺は慌ててスカートを押さえた。
——危なかった。
メイド服のスカートは、思った以上に短い。
風が吹くと簡単にめくれそうになる。
「リリア、スカートの押さえ方、まだ下手ね」
お嬢様がくすくす笑う。
「ほら、こうやって両手で押さえないと」
お嬢様が俺のスカートの裾を、さりげなく整えてくれた。
その手が、太ももにそっと触れる。
「っ——!」
「あら、敏感ね」
「お、お嬢様……」
「女の子は、いつも気をつけないとダメよ?」
お嬢様がウィンクする。
俺は今更ながら、スカートの危険性を思い知った。
◇ ◇ ◇
階段を駆け下りた時のこと。
胸が——揺れた。
上下に、ぼよんぼよんと。
「っ——!?」
思わず両腕で胸を押さえた。
「リリア? どうしたの?」
「い、いえ、なんでも……」
お嬢様が俺の様子を見て、ニヤリと笑った。
「もしかして、揺れた?」
「っ——!」
図星だった。
「走る時はね、腕で支えるか、ちゃんとしたブラジャーをつけないとダメよ」
「は、はい……」
「リリアのサイズだと、けっこう揺れるでしょ」
「お嬢様! その話は——」
「ふふ、ごめんなさい。でも、大事なことよ?」
お嬢様が俺の胸元を見つめる。
「今度、もっとホールド力のあるやつを買ってあげるわ」
「け、結構です……」
「遠慮しないで。胸が垂れちゃったら大変でしょ?」
——垂れる?
俺の胸が、垂れる。
想像してしまった。
なんか、嫌だ。
「……お願いします」
「ふふ、素直でよろしい♪」
◇ ◇ ◇
ある日、お嬢様が何かを持ってきた。
「リリア、これを着けて」
渡されたのは——ガーターベルトだった。
「お、お嬢様!? これは——」
「メイドの正装よ。ストッキングを留めるの」
確かに、ソフィア先輩も着けていた気がする。
「ほら、履いてみて」
「え、ここで……?」
「私しかいないんだから、いいでしょ」
お嬢様にじっと見つめられる。
逃げ場がない。
俺は観念して、スカートをたくし上げた。
ガーターベルトを腰に巻く。
そして、ストッキングの先端にクリップを留める。
「ん……これでいい、のかな……」
「ちょっとずれてるわね。直してあげる」
お嬢様の手が、俺の太ももに伸びた。
「っ——!」
「動かないで」
ストッキングの位置が調整される。
お嬢様の指が、太ももの内側をなぞる。
「ひっ……!」
「くすぐったい?」
「お、お嬢様! そこは——」
「はい、できあがり♪」
お嬢様がにっこり笑う。
俺は真っ赤な顔で、スカートを下ろした。
「似合ってるわよ、リリア。とってもセクシー♪」
「……言わないでください」
「ねえ、触っていい?」
「だめです! お嬢様、それはセクハラです!」
俺は思わず声を荒げた。
お嬢様は一瞬きょとんとした後、くすくすと笑い始めた。
「あはは……あははははは!」
「な、何がおかしいんですか!」
「ごめん、ごめん……」
お嬢様が目尻の涙を拭う。
「でもね、リリア」
お嬢様が俺を見つめた。
その目が、少し潤んでいた。
「こんなに楽しいの、久しぶりなの」
「え……?」
「この世界に来て、色々あったわ。辛いことも、苦しいこともたくさん」
お嬢様が窓の外を見つめる。
「誰にも本当のことを言えなくて、ずっと一人で演じ続けて……」
「お嬢様……」
「でもね、リリアが来てくれてから、毎日がすごく楽しいの」
お嬢様が振り返った。
「リリアの反応、可愛すぎて。からかうたびに、顔真っ赤にして抗議してくるでしょ?」
「それは、お嬢様がセクハラするからで——」
「うん、ごめんね。でも、それが楽しくて」
お嬢様が俺の手を取った。
「この世界に来て、こんなに笑ったの、初めてかもしれない」
俺は——何も言えなかった。
お嬢様も、孤独だったんだ。
俺と同じように。
「……俺も、です」
「え?」
「俺も、お嬢様といると楽しいです」
お嬢様が目を丸くした。
「……リリア」
「からかわれるのは勘弁ですけど」
「ふふ、やめないわよ♪」
「お嬢様!」
お嬢様がくすくす笑う。
——でも、まあ。
悪くない、か。
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