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女の子の証

 ある朝のこと。


 俺は目が覚めた瞬間、違和感を覚えた。


 お腹が、痛い。

 鈍い痛みが、下腹部を締め付けている。


(なんだ、これ……?)


 何か悪いものでも食べただろうか。


 俺はベッドから起き上がり、身支度を整えようとした。


 その時——


 シーツに、赤い染みが見えた。


「え……?」


 血だ。

 なぜ、血が——


 怪我でもしたのか?

 でも、痛いのはお腹で——


 俺は自分の下着を確認した。


 赤く染まっていた。


「っ——!!」


 パニックになった。


 何が起きている。

 なぜ血が出ている。

 まさか、内臓の病気か。

 それとも、この世界特有の何か——


 ドアがノックされた。


「リリア、起きてる? 朝ごはんの時間よ」


 お嬢様の声だ。


「お、お嬢様! 少々お待ちを——」


 声が裏返った。


「どうしたの? 具合悪い?」


 ドアが開いた。


「お嬢様! 入らないで——」


 遅かった。


 お嬢様が、血の染みのついたシーツを見た。


 そして俺を見た。


 穴があったら入りたかった。


◇ ◇ ◇


「リリア、大丈夫よ」


 お嬢様が優しく声をかけてくる。


「これ、生理よ。女の子なら誰でもあることなの」


 ——生理。


 知識としては知っていた。

 でも、まさか自分が——


 お嬢様が苦笑する。


「リリアの中身は、元男の人でしょ? 焦って当然よ」


 ——元男の人。


 お嬢様が、あっさりとそう言った。


 ……あ、そうだ。


 この人には、もうバレてるんだ。


 あの時——「お兄さん?」って言ったあの時から、もう分かってたんだ。


 ——どうして分かったんだろう。


 その疑問は後で聞くことにして。

 今は、お嬢様の気遣いが、素直に嬉しかった。


 お嬢様が俺の頬に手を当てた。


「大丈夫。私が教えてあげるから」


◇ ◇ ◇


 その日、俺はお嬢様に生理用品の使い方を教わった。


 尊厳が崩れていく音がした。


「こうやって、下着に貼り付けて……」


「は、はい……」


「で、こまめに交換しないと、漏れちゃうから気をつけてね」


「わ、わかりました……」


 お嬢様が丁寧に説明してくれる。

 ありがたい。

 でも、恥ずかしすぎて死にそうだった。

 というか、今すぐ死にたい・・・。


「お腹痛い時は、温めるといいわよ」


 お嬢様が俺のお腹にカイロを当ててくれた。


「ありがとうございます……」


「あと、無理しないでね。今日は休んでいいから」


 お嬢様が優しく微笑む。


「女性って、大変でしょ?」


 俺は静かに頷いた。


◇ ◇ ◇


 その夜。

 俺はベッドで天井を見上げながら、考えていた。


 女性って、毎月これを経験しているのか。


 お腹は痛いし、気分は重いし、動くのも辛い。

 それでも、普通に仕事をして、笑顔でいて。


 前世で、俺は女性社員にどれだけ気を遣っていただろう。


 ……たぶん、全然だ。


「生理だからって甘えるな」


 そんなことを思っていた時期もあった。


 今なら分かる。

 これは、甘えとかそういう問題じゃない。


 本当に、辛いんだ。


 俺は反省した。

 前世の俺に伝えられるなら、伝えたい。


 ——女性に、もっと優しくしろ。


◇ ◇ ◇


 翌日。

 俺はお嬢様とテラスでお茶をしていた。


「ねえ、リリア。生理、大丈夫だった?」


「お、お嬢様……その話はちょっと……」


「ごめんね。でも、これからずっと続くから」


 お嬢様が紅茶を一口飲む。


「生理があるってことは、将来、子どもを産めるってことなのよ」


 ——子どもを、産む。


 俺は想像してしまった。


 この身体が、妊娠する。

 お腹が膨らんで。

 そして、出産する。


 ——うっ。


 気分が悪くなった。


 想像しただけで、冷や汗が出る。


「リリア? 顔色悪いわよ?」


「い、いえ……ちょっと考えてしまって……」


「何を?」


「その……妊娠のことを」


 お嬢様が首を傾げた。


「想像しただけで、気分が悪くなって……」


「ああ、分かるわ」


 意外な反応だった。


「え?」


 お嬢様が窓の外を見つめる。


「この世界、女性は結婚して子どもを産むのが当たり前でしょ? 公爵令嬢なら、なおさら」


「はい……」


「でもね、私、思うの」


 お嬢様が俺を見つめた。


「女性だから子どもを産むべき、なんて、おかしいわ」


 俺は目を丸くした。


「産みたい人は産めばいい。産みたくない人は産まなくていい。それだけの話じゃない?」


「お嬢様……」


「もっと進歩的な世界になればいいのに。」


 お嬢様がため息をつく。


「この世界の人たち、女性の身体を何だと思ってるのかしら。子どもを産む機械じゃないのよ」


 俺は——驚いた。


 お嬢様がこんな考えを持っているとは思わなかった。


「私ね、子どもを産むつもりはないの」


「え、でも、お嬢様は公爵令嬢で——」


「跡継ぎのこと? そんなの、養子を取ればいいじゃない」


 お嬢様がにっこり笑う。


「だから、リリアも無理しなくていいのよ」


「お嬢様……」


 俺は——少しだけ、救われた気がした。


 同じ考えの人がいる。

 この世界に、味方がいる。


「……ありがとうございます」


「どういたしまして♪」


 お嬢様がまた紅茶を飲む。


「あ、でも、生理痛は毎月来るから。覚悟してね」


「……はい」


 それは、覚悟するしかない。


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