宴会とナンパ
宴会の護衛に出ることになった。
「リリア、このドレスを着て」
お嬢様が持ってきたのは、淡いピンクのドレスだった。
肩が大きく開いている。
胸元も深い。
「お、お嬢様、これは少し……」
「宴会だからいいのよ。ほら、着替えて」
俺は渋々、ドレスに着替えた。
お嬢様に背中のファスナーを上げてもらう。
「あ、待って。胸パッド入れないと」
「え?」
「このドレス、胸のラインが出るから、パッドで形を整えるの」
お嬢様の手が、俺の胸元に伸びた。
「っ——!」
「動かないで」
俺のブラジャーの中に、パッドが押し込まれた。
お嬢様の指が、俺の胸を整えていく。
「うん、いい形になったわ」
「お、お嬢様……」
「あと、ハイヒールも履いてね」
渡されたのは、五センチはあるハイヒールだった。
俺は恐る恐る、足を入れた。
——歩けない。
ふらふらする。
足首が砕けそうだ。
「あら、ハイヒール初めて?」
「は、はい……」
「じゃあ、練習しましょ」
お嬢様に手を引かれて、廊下を歩く。
何度も転びそうになる。
そのたびに、お嬢様に支えられる。
「リリア、背筋を伸ばして。つま先から着地するの」
「は、はい……」
なんとか歩けるようになるまで、三十分かかった。
女性って、こんな苦行を毎日やってるのか……。
◇ ◇ ◇
宴会場に到着した。
俺はお嬢様の護衛として、壁際に立っていた。
すると——
「おや、可愛らしいお嬢さんですね」
若い貴族の男が、俺に近づいてきた。
——ナンパだ。
「一曲、踊っていただけませんか?」
男が俺の手を取ろうとする。
——やめろ。
俺は三十二歳のおっさんだ。
男に口説かれる趣味はない。
「あ、あの、私は護衛ですので……」
「護衛? こんなに可愛い方が?」
男がにっこり笑う。
——気持ち悪い。
いや、相手からしたら俺は美少女なんだ。
口説きたくなるのは分かる。
でも、俺の中身はおっさんなんだ。
「すみません、お断りします」
「そう言わずに。ほら、手を——」
「彼女は私のメイドですので」
お嬢様が割り込んできた。
「申し訳ありませんが、お引き取りを」
銀髪の美少女に凄まれて、男は渋々引き下がった。
「……助かりました」
「どういたしまして」
お嬢様がにやにや笑う。
「でも、モテてたわね、リリア。やっぱり可愛いもの」
「嬉しくないです……」
「男の人に口説かれた気分はどう?」
「最悪です」
「あはは、やっぱり♪」
お嬢様が楽しそうに笑う。
俺はため息をついた。
——この身体、本当に面倒だ。
◇ ◇ ◇
ある日の午後。
お嬢様と一緒にテラスでお茶をしていた時のこと。
「ねえ、リリア」
「はい、お嬢様」
「恋バナしましょ♪」
——恋バナ?
「リリアって、好きな人いる?」
「え、いえ、その……」
いるわけがない。
俺は今、女の身体だ。
「いないの? じゃあ、どんな殿方がタイプ?」
殿方。
つまり、男。
俺が、男と——
想像してしまった。
髭の生えたガタイの良い男が、俺の肩を抱いてくる光景を。
——うわあああああ。
全身に鳥肌が立った。
生理的に無理だ。
「リリア? 顔、すごいことになってるわよ?」
「い、いえ、なんでもありません……」
「男の人が苦手なの?」
苦手というか、俺の中身は男なんだ。
男が男と付き合うとか、そういう趣味はない。
「えっと、その……あまり興味がなくて……」
「あら、そうなの?」
お嬢様が首を傾げる。
「じゃあ、女の子の方が好きとか?」
「っ——!」
違う。違うんだ。
俺は元々、女性が好きな普通のおっさんなんだ。
だから今、お嬢様の身体を見てドキドキしてしまうのは——
——いや、待て。
今の俺は女だ。
女の身体で女性を見てドキドキするのは——
頭がこんがらがってきた。
「リリアって、本当に面白いわね」
お嬢様がくすくす笑う。
「からかってるんですか……」
「ちょっとだけ♪」
お嬢様が紅茶を一口飲む。
「でもね、私もそうなの」
「え?」
「男の人には興味ないわ。だってこのあたりの男って、みんな硬派すぎるんだもの」
お嬢様がため息をつく。
「もっとこう……優しくて、気が利いて、話が面白い人がいいのに」
「だから、リリアといる方が楽しいわ」
お嬢様が俺を見つめた。
「ね、リリア。ずっと一緒にいてね?」
その碧い瞳に、俺は何も言えなかった。
◇ ◇ ◇
と思ったら、お嬢様が急にニヤッと笑った。
「ねえ、リリア。一つ聞いていい?」
「は、はい……」
嫌な予感がする。
「リリアって、自分の身体、もう触った?」
「っ——!!」
俺は紅茶を吹き出しそうになった。
「な、何を言って——」
「だって、気になるでしょ?」
お嬢様がにやにやしながら続ける。
「お、お嬢様! そんな話は——」
「胸とか、触ると気持ちいいわよね」
「っ——!!!」
図星だった。
さっき、まさにそれをやっていた。
「あら、顔真っ赤」
「お嬢様! これ以上は——」
限界だった。
「お嬢様! やめてください!!」
俺は立ち上がった。
お嬢様はきょとんとした後、ぺろっと舌を出した。
「おっと、セクハラになったら困るわね♪」
「なってます! 完全になってます!」
「ごめんごめん。でも、女同士だからセーフよね?」
「セーフじゃないです!」
お嬢様がくすくす笑う。
「リリアって、本当に反応が可愛いわね」
「からかわないでください……」
「ふふ、ごめんなさい。許して?」
上目遣いで見つめられる。
……ずるい。
「……今回だけですよ」
「ありがとう、リリア♪」
お嬢様が満面の笑みを浮かべる。
俺はため息をついた。
この人には、絶対に勝てない気がする。
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