Welcome to this fxxkin time
ディストピア・サイバーパンクものをちょっと書いてみたくなりましたので、ちょっと書いてみます。飽きるまでお付き合いください。
僕の名前は平城 カギヲ。今、僕は、幼馴染兼彼女のハムちゃんこと、空司 ハムコに悪臭が漂う港の倉庫に案内されている。ちょうどスモッグも立ち込める時間帯で、頼りない街灯の明かりと航空障害灯、海洋標識灯だけがぼんやりと見えている。彼女の案内が無ければ、海洋汚染著しいヘドロの海に滑落していたことだろう。ただでさえ人気の無い場所から更に人が消え、後ろめたいことをするには絶好のシュチュエーションだ。
「こちらですよ。」
”マモン商会関係者以外立ち入り禁止”と警告看板が置かれている倉庫には、おんぼろな外見に似つかわしくない何重もの電子ロックがあり、明らかに普通の物品管理ではないことが分かる。壁の一部に弾痕があることからも過剰なセキュリティが敷かれていることは明白。倉庫は欺瞞。何かを隠している。
案の定、倉庫の中にも重火器で武装された警備ボットがいた。警備へのお金のかけ方が普通じゃない。ハムちゃんを網膜認証すると警備モードを解除して巡回していったが、あんな重武装ボットが何台もいる中を歩くのは気が気でない。
ハムちゃんの案内で倉庫の地下へ降りるエレベーターに乗ると、3~4分は地下へ落ち続けた。
「ここは元々、我々、マモン教団が核戦争時の地下シェルターとして作ったものでした。しかし、遊ばせておいては無駄なコストがかかりますので、現在は工廠として利用しているのです。」
エレベーターが目的の階に僕たちを運ぶと、音もたてずに扉を開いた。
そこには非常灯の明かりに照らされた巨人がいた。ハムちゃんが、エレベーターの横にあるスイッチを押すと、天井に吊り下げられていたスポットライトの明かりが巨人を照らした。それは、とても巨大な、人間とペンギンを合わせたような姿だった。
「いかがです?これこそが、マモン教団の偶像にして戦略兵器、ビッグ・マモン様です。ああ、おっしゃりたいことはわかります。ペンギンの見た目の愛くるしさと、戦略兵器の呼び名が合わない、と言いたいのでしょう?分かりますとも、ええ。しかし、実際にこのビッグ・マモン様は戦略兵器なのです。全長は60m。巨大なそのお体は鋼鉄製です。分かるでしょう?異教徒の邪悪な砲弾に耐えうる装甲なのですよ。そしてそれを支える御々足は、大地を揺らし、異教徒の装甲車両や武装車両を踏みつぶしてしまえます。歩行の速度は、やはりペンギンなのですが、この高さです。意外とスピードが出るのですよ。ペンギンなのに人間のような手がある?ああ、それは聖典にもあるお姿を模したもの。実際には高性能マニピュレーターなのです。そして、ペンギンのお姿であることはすなわち、そのまま海中での戦闘が行えることにもつながります。そう、潜水艦なのです、ビッグ・マモン様は。先ほどのマニピュレーターはスクリューとしても稼働します。海中でのスピードはなかなかのものですよ。おお、水陸両用なのか、とお考えになられましたね?いやはや、考えが足りませんな。ええ、信仰心が足りません。ビッグ・マモン様は神であられます。神は戦場を選びません。そう、ビッグ・マモン様は、そのお翼とバーニアスラスターのお力で大型爆撃機として空を飛ぶことも出来るのです。マニピュレーターはスクリューに、スクリューからプロペラに変わるのです。神は万能なのですよ。おや、気づいてしまいましたか。そう、ビッグ・マモン様の腹部は爆弾倉になっていらっしゃるのです。陸戦時は収納したミサイルで攻撃を行いますし、海戦時は魚雷で攻撃を行えます。飛行している際には空爆を行えるのです。そうです!邪悪な異教徒が近寄れば、鋼鉄のお体から繰り出されるパンチをもって粉砕し、逃げ潜む異教徒は爆弾をもって神の業火に焼かれるのです!我が教団の資本力が生み出した、我らの神が!異教徒に!正義の怒りをぶつけるのですよぉ!」
邪教の教祖とマッドサイエンティストと悪徳商人を悪魔合体させたような高説をたれている。マモン教団で資本力と言っているところをみるに、マモニズムが信仰までに至り、巨大企業の資本力で武力を有せるようになったのだろう。ダイトウア・インタストリあたりか?
「異教徒って誰っスか?」
「諸悪の根源、共産主義者どもです。」
「ああ、納得っス。あいつらはぶっ殺して良いっス。思う存分にやれば良いっスよ。」
「ああ、また一人信者が増えました。これで今月のノルマ達成です。マモン様のお導きに感謝いたします。やはりビッグ・マモン様は良い。この巨体から繰り出されるであろう、暴力を想像するだけで信者が増えていきます。広告効果として大変費用対効果が高いです。」
ビッグ・マモン様とやらを見ながらニンマリと笑うハムちゃん。しかし、神様を広告塔のように言って、いささか罰当たりな気がする。
「神様を費用対効果が良い、とか言って大丈夫っスか?」
「我が教団では、むしろ褒められることです。あ、カギヲ君には難しかったでしょうか?そうですね。このデータをお渡ししましょう。私の個人的な勧誘行動です。古い書籍でして、著作権が切れていますので、代金は不要ですよ。『資本主義と自由』、ミルトン・フリードマンの名著です。是非読んで感想を語り合いましょう。それと、私の教団内の洗礼名は”イエローマム”です。覚えておいてください。」
「イエローマムっスか。了解っス。」
「あ、普段はハムちゃんで構いませんよ。カギヲ君。」
そうハムちゃんは言った。
この濁った眼で素敵な笑顔を見せてくれるハムちゃんとは、幼少期から知り合い、長い付き合いになる。ハムちゃんとしては、そろそろ男女の仲として付き合いたいと思っていたらしく、お互いの秘密を披露しあうことになった。僕の秘密はファッション口癖で「っス」と言っていたことだと伝えた。彼女からしてみれば変な告白だと思うことだろう。しかし、そんな僕の告白に対して、彼女の返答がこの秘密結社所属という秘密だ。ファッション口癖なんかとは、天秤が釣り合わない。ハムちゃんが、僕を逃すつもりがないことがよくわかった。
こうして、僕とハムちゃんは付き合うことになった。
しかし、僕には、そんなハムちゃんにも言えていない秘密がある。軍事企業をバックに持つ秘密結社の構成員であることなんかよりも、断然僕の方のウェイトが大きい。
僕には、前世、前々世の記憶とスキルがある。前々世は、このディストピアな世界線の日本とは違う平凡な日本の高校生だった。この時の僕の口癖が「っス」だった。なので、今世においても意識して使っている。そんなある日、テンプレみたいに事故で異世界に転生した。そして問題の前世を迎えた。僕は”ダンジョン・マスター”という魔神の手先となって人類の敵となった。その時の”地形を変えるスキル”と”人類への脅威を生みだすスキル”を今世の僕は持って生まれてきてしまった。そして、人類でありながら人類の敵となった僕に、敵対を促すように魔神がかけた呪いまでが引き継がれていた。それは、”定期的に人類を襲わないと、苦痛を伴って心臓が止まる”呪いだ。
幸いなことに、この世界は、どこかのマッドサイエンティストが、次元干渉の研究中にワームホールを作り出したことで、定期的に人類の脅威が輸入されてくる。それを隠れ蓑に、時々ダンジョン・マスターとしてのスキルを発揮して、人類の総人口を減らさせてもらっている。そうやって僕は延命できている。
この秘密は曝露できない。「世界を敵に回しても君を愛してる」という台詞はカートゥーンやコミックの中だけだ。PMSCsも世界連合軍も、おそらく、マモン教団ですら敵に回る。
僕には激しい喜びはいらない。植物の心のような人生、そんな平穏な生活が僕の目標だったのに。どうして変なスキルと呪いをもって、こんなディストピア世界線に来てしまったのだろうか。神様とやらがいるのならばぶん殴りたいところだが、目の前の神様は大変硬そうなので、今日のところは止めておこうと思う。