エピローグ
数か月後。
独房の中で新聞を手渡された。黄色く薄い紙面の片隅に、小さな記事が載っていた。
——「裏風俗組織を摘発。関与した複数の女性も書類送検」
目を走らせた瞬間、彼女の名字がそこにあった。
息が止まる。
記事によれば、彼女たちは未登録の業者に斡旋され、複数の客と取引を重ねていたという。
業者は摘発を逃れるために、関わった女性を“証拠”として警察に差し出した。
つまり、彼女は守られず、逆に使い捨てられたのだ。
私は紙面に滲むインクを凝視した。
想像する。
彼女は、あのとき私を指差したときと同じ無表情で、署の廊下を歩いているのだろう。
だが今回は客ではなく、彼女自身が被疑者として。
無機質な蛍光灯の下、冷たい机に向かって、事務的な声で質問を投げかけられているのだろう。
その唇が、今度は震えているかもしれない。
私は笑った。
声にならない、乾いた笑い。
——結局、誰も救われない。
彼女もまた、背徳の果てに裁きを受けた。
私と同じように。
鉄格子の外から響く靴音が近づいてくる。
私は新聞を折りたたみ、冷たい床に置いた。
何も残らない。
欲望に呑まれた者たちは、それぞれの形で同じ結末に辿り着く。
ただそれだけの、徹底的な平等。
本作品は現代へのアンチテーゼ的な気持ちを込めて書いています。
こんな人が実際にはいないことを祈るばかりですが。