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第89話 A日程選抜

 そんな一夜から、流れるように数日が経った。

 ホルンも環境の変化であったり、任務にゲルが同行するようになったりしたことで、長らく不満を抱え込んでいたようだが、あれ以来憑きものが晴れたような表情で過ごしている。


 溜まったものを吐き出せたのなら何よりだ。


 かくいう俺も、あれ以来ゲルからの接触はなく、順調に受験勉強に向けての自習を続けることができていた。

 長かった一月もようやく終わりが見え、二月の第一週は目前となる。


 だから。


「オリヴィアさんたちも、ホルンも。よかったら一緒に仙台に行きませんか?」

「あら?」


 ふと、俺はそんな提案をしてみた。

 東京都にある志望大学の一般選抜は、A日程(三回)とB日程(一回)に分けられており、計四回、それぞれが各主要都市で試験会場を設けて執り行われる。

 宮城県では仙台市がその会場の設置場所に該当しており、俺はその場所で試験を受ける予定だ。

 つまり、東京都にあるこの屋敷から一度仙台まで向かわなければならない。


 いまのオリヴィアさんにゲートを追加で作ってもらうお願いは到底できないので、もし単独で向かう場合、通学用のゲートがある登米市から電車に乗って仙台市を目指すことになるだろうか。


 夫妻やホルンたちとも行動するなら、アクセスのしやすさなども含めて、東京都から直接新幹線に乗って仙台市へ向かうことになるかもしれない。


 とにかく、当日の俺は試験にガチガチに緊張しているだろうが、オリヴィアさんたちにとってはプチ旅行のような感覚で息を抜くことができるはずだ。


 オリヴィアさんは、俺の提案にこれまでにないくらい瞳を輝かせた。


「行きたいわっ!」


 それは予想通りの反応だった。

 以前から真面目なシグルドさんはともかく、オリヴィアさんは日本文化がとても大好きで、色々な観光地や名産品の食べ物を食べに行きたい! という欲望を持っていたことを明かしていた。


 ホルンだって、気晴らしするにも焦る気持ちはあるだろうが、リフレッシュの時間は必要だと思う。


 いい機会かな、と思ったのだ。


「許すわけがないだろう」

「うわ、いたのかよレギンレイヴ……」

「舐めるなよ人間」


 と、柱の影からおもむろに姿を表したレギンレイヴが、冷ややかな眼差しで水を差してくる。俺の正直なリアクションには不快感を露わにしていたが、ちょうどいい。


 強気に接近して交渉を試みる。


「なんでダメなんだ? 魔物はいま全国各地どこにでもいて、仙台なんて特に巨獣発生の地と限りなく近い場所だ。お前らにとっても都合がいいはずだろ?」

「そうよそうよっ」

「長く滞在するわけでもないしな」

「………」


 ぷりぷりとわがまま奥さんモードに入ったオリヴィアさんが、俺の意見に同調してレギンレイヴを圧した。

 レギンレイヴはあからさまに言葉を詰まらせており、手の打ち方を考えているようだった。


 逃げ場を無くすように回答を迫る。


「……好きにしろ。スクルド様には報告させてもらう」

「報告してなんになるんだコレ」

「………」


 最近気付いたことなのだが、異界警備隊ワルキューレという組織はわりかし幼稚っぽい気がする。

 そりゃあ、姉妹間でパワハラモラハラが横行しているような組織である以上、ろくな組織ではないのは明らかだが、それにしても思った以上に不貞腐れた態度を見せてくる。

 このようにこちらが強気に出てしまえば、案外、融通効くことも多い、といった印象だ。


 とはいえ、その組織のトップであるスクルドは、まだディベートが強いという印象があるが……。


「じゃあ決定ね! ダァリンには私が説得するから!」

「し、しぐま。本当にいいんですか?」

「うん。あと、オリヴィアさんたちには紹介したい人もいるんだ」


 金の払えない子どもの俺たちが行くよりは、夫妻のような大人が観光目的で来てくれたほうが嬉しいだろう。

 交差点での戦いのときに事情を説明し、協力してもらって以来か。

 恩返しも兼ねて、妙子さんのお店にはもう一度足を運びたいと思っていたのだった。



 ――かくして、仙台へのプチ旅行は急遽決行されることとなった。

 俺も正直、心細くなくて大変嬉しい。


 日本に来てからというもの、まともに観光できる日がなく鬱憤が溜まっていたらしかったオリヴィアさんは、特に興奮した様子でいつの間にか仕入れたるるぶを手にしながら仙台の名所に目印を付ける。


「この分厚い牛タンが食べたいわ、夜はこれでいいわよねダァリン?」

「うむ……」


 そのあまりの押しの強さに、腕を組んで瞑想するように新幹線の座席につくシグルドさんは若干気圧され気味だ。

 監視者であるレギンレイヴらに関しては、その上空から新幹線で移動する俺たちを追跡して追ってくるらしい。


 ひとまず、仙台駅で別れたら俺は会場に向かい、その間に夫妻とホルンは気晴らしの旅行を楽しんでくれることだろう。


 懐から取り出したスマホで、綾姉やじっちゃんにメッセージを送る。


『受験、頑張ってくるよ』


 結果が出るのは二月の中旬。その後に控えるホルンの試験のためにも、良い流れを作ってやるために、ここは十分な成績を残しておきたいところだ。

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