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第84話 痴話喧嘩のような

「な……なんのつもりだよ」


 通学路における唐突なゲルの登場に狼狽えた俺があからさまに警戒した態度をしていると、ゲルは嬉しそうににへらっと顔を崩した。

 そして、まるで道すがら鉢合わせたお節介なおばちゃんのようなジェスチャーで「やだなあ!」と明るく否定してくる。


「これは調査! 調査っすよ! 監視っす! 全くやましい気持ちはないっす!!」

「お前はホルン専属の〜、みたいに言ってなかったか……?」


 適当なことをほざくゲルにほとほと呆れる。いったいどういうつもりなんだ?

 屋敷でしか会わないと思っていない相手が日中、俺が一人でいるタイミングに俺が通う学校の近くに現れてくる。つまりは、ゲートの位置も実家の位置も恐らくは特定されてしまっているわけで、深読みをすれば脅しや警告とも取れる行為に俺の心はピリつく。


 神妙に構えながら問いかけた。


「……何が狙いだ?」

「だから、世間話っす!! うち、好きな人相手にそんなことも許されないんっすか!?」


 喚きながら地団駄を踏むゲル。このアホそうな言動を見ていると、深読みする必要さえないのかもとだんだん馬鹿らしくなってきてしまう。

 ………。

 やれやれと首を振った俺は、目の前に立ち塞がるゲルの隣を通り抜ける形で再び帰路に就こうとした。


「良いってことでいいっすか!?」


 すると、嬉しそうな顔をしたゲルはぴょこぴょことアヒルの子のように俺の後ろを付けてくるようになった。

 ……まあ、正直、情報収集はしたい。

 くだらない質問だったら無視をして、気になる内容があったら少しだけ掘り下げてみようと思う。


「好きな食べ物ってなんっすか?」

「………」


「休日によく行く場所とかあるんすか?」

「………」


「趣味とかどうっすか?」

「………」


「好きな女の子のタイプとかあります?」

「―――んんっ、お前はなんなんだ本当に!?」



 くどくどくどくどと飽きもせず……!!

 何度も繰り返されるしょうもないインタビューに俺は足を止めて振り返る。するとゲルは、ようやく反応してもらえたのが喜びなのか「あっ♡」と顔を赤らめるから非常にやりづらく感じる。


 本当になんなんだこいつ……ッ!!!


「なんでそんなに俺のことが好きなんだよ!?」


 人生で一度も言うとは思っていなかった台詞だった。吐き捨ててから住宅地にいることを思い出し、徐々に羞恥心が込み上げてくるなか、必死に目を背けてゲルを睨み続ける。

 ゲルは端的に「顔っす!!」とほざいた。

 ふざけないでほしい。


「俺よりかっこいいやつなんかいっぱいいるだろ!?」

「でももうきょーみないっす!!」

「おいふざけんなお前!」


 マジでふざけんな!

 くっそ、天穹陸を駆け回ったことがこんなトラブルに繋がるなんて思いもしなかった。恐らくゲルにとって初めて目の当たりにする男が俺だったばっかりに、こんな執着されるなんて、貧乏くじにも程がある。

 苛立ちを誤魔化すように後頭部を荒く掻いて、どうすればゲルの興味を失わせられるのだろうかと考えた。


「……お前、俺のことが好きなんだろ?」

「はい!」

「俺はお前のことが嫌いだ」

「ちょっ、直球すぎないっすか!?」

「だからもう、二度と近寄らないでほしい」

「なんでそこまで言われなきゃならないんすかぁ!?!」


 俺だって人の心がある人の子なので、ここまで言い切るのはいくら迷惑な相手だとしても心苦しいものを感じる。

 ゲルは力をなくしたように項垂れて意気消沈していたが、それから呟くようにぼそりと何かを言った。


「……なに?」と、俺は思わず聞き返す。


 ゲルは涙を堪えた表情でおずおずとこちらのことを見上げ、とんでもないことを言い出した。


「やっぱりもう、ホルンとえっちなことしたんすか?」

「はっ!? な、何言ってんだお前!!」


 こいつの思考回路が分からない……!!


 飛躍しすぎた妄想の意図を汲み取ろうとして頭がぐるぐると回転するが、やはり辿り着けない域だ。

 そもそも、俺の人生においても大したラブロマンスの記憶がないから、世の女子はこういうものなのか!? とそんなはずはないのに下手な勘繰りまでしてしまう。

 ほ、本当に疲れる……! 早く帰りたい……!


「してねえよ!」

「じゃあまだうちにもチャンスがあったっていいじゃないっすか! まだホルンのものじゃないんでしょ!?」

「ホルンのものってなんだよ!!」


 人を所有物みたいに……ッ!


 気付けば肩で息をしてしまっていたので、一度深呼吸し、冷静になって考えてみることにする。


 ……つまり、こいつの目線では、俺はホルンと取り合いの対象だということだ。

 結局は、ホルンに対する当てつけである可能性が非常に高く、そこを詰めていけば俺に対する好意なんて本当はなかったとボロが出る可能性がある。


「うちは本当におにーさんのことが好きなんすよ!?」

「だぁあああ!」


 うるせえ! それヤメロ!!


「でもホルンはそうとは限らないじゃないっすか! うちは本当に運命を感じたんすよ!? なんでホルンはよくて、うちはダメなんすか!?」


 ――うちはこんなにも愛しているのに!! と、日没時の住宅地の真中で堂々と宣うゲルに俺は追い詰められる。

 いますぐにでも走って去りたいくらいの逆境だけど、こいつはこのまま放置したらどんどんとエスカレートしていきそうで恐ろしい。


 ……だから俺は、核心に触れてちゃぶ台を返すことにした。


「だいたいっ、お前は俺と触れられないだろうが!」

「うち、触れられてもいいんすよ……?♡」

「ハァ!?!?」


 頭を掻きむしりたくなる気分だ。そのしっとりとしたトーンダウンは怖気が走るので切実にやめてほしい。


 いっそのこと、もうゲルを掟破りにしてしまって、ワルキューレ生命を終わらせてしまうのもありに思えていた。

 だけど仮にそうしてしまえば、スクルドやレギンレイヴは直ちに契約を破断して俺たちのことを敵だと見做すんだろう。

 ホルンやオリヴィアさんの邪魔はできない……。

 そんなことが起きていいはずはないのに、ゲル自身が歓迎的なのが一番のバグだ。ややこしい。


 こいつは、人狼ゲームなどでよく言われる、本来の役割を放棄して自分のやりたいことだけをやる〝リア狂〟ってやつなんじゃないだろうか……。


「とにかく! うちはもう、それくらい好きって意味っすよ!! もう止められないす! これは、無理なんす!! 本当はホルンなんかとはもうお喋りさえしてほしくないっす、うちと楽しく話してほしいっす、ただうちは、おにーさんのことが心の底から知りたいだけなんすよ……!」


 言葉を失う。理解のできない熱量だ。

 だからといって、付き合ってはいられない。それはできない。

 俺は苦々しい顔をする。


「うち、ずっと奪われ続きだった」


 そんななか、おもむろにゲルは独白をした。


「……?」

「おにーさんの存在は、そんなうちが絶対に欲しいと思えた、生まれて初めての人なんす!」


 どうすればその勘違いを辞めてもらえるのか、誰か俺に答えを教えてほしい。

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