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♯4. 勘違いとかそうじゃないとか

 あれから数日経ったとある日。

勉強会の甲斐あってか、四人全員見事に赤点を回避することが出来た。

広瀬…基い、一君なんか、いの一番に冴島や俺にテストの答案用紙を見せに来た。

しかもテスト返却の度に毎回。そりゃもう自慢げに。































「みなみなみなー!!見て見て50点!!初めて取ったこんな点数!!マジびっくり!!」


 先生からテストの答案用紙をを受け取った瞬間、嫌そうに曇っていた表情から一変、ぱぁあっと嬉しそうに笑みを浮かべながら自分の席_ではなく、冴島の席に真っ直ぐ向かってきた。

しかも、駆け足で。


「うぉ…。凄ぇ喜びよう…。良かったじゃねぇか。これで部活再開出来んな、はじめ」


 “十六夜達にもお礼言うんだぞー?”とまるで自分の事かのように笑みを浮かべながら広瀬の頭をわしゃわしゃと撫でる冴島。

え、優しすぎ…。てか何その笑顔…、かわいい…かも…?

いや、そもそも冴島自体がかわいいんだから、かもじゃないか。

かわいいです。冴島。


そんな事ぼーっと考えながら、冴島の方をチラ見していると、はっと何かに気付いたような表情を浮かべた広瀬が、こちらへ向かって来る。

…え、何。もしかしてこっそり冴島の事見てたの、バレた…?


「んだな!!“瑠伊”もありがとうな―!!」


「はぁっ!?」


 そうお礼のお言葉を述べながら、がしりと俺と肩を組もうとする広瀬。

は、ぇ…。距離近…。陽キャってみんなこうな訳…?

陸斗だってこんなに、近くに居る事無いから、急に踏み込まれたパーソナルスペースに、思わずどぎまぎしてしまう。


てか、今しれっと下の名前で呼んだ…?この人…。

俺をそう呼ぶの、今までは陸斗か美沙くらいだったのに…!


…しかし、意外にそれに反応したのは俺ではなく、冴島だった。


「なっ…。いつの間にそんな仲良くなったんだよ…!お前ら…というかはじめ!!」



「えー?良いだろ別にー?てか、勉強会のお礼言っただけだし」


 そのまま二人_特に冴島が俺の事を挟んで言い合いを始めてしまった。

えぇ…、俺放置…?巻き込まないでよ関係無いんなら…。

てか何で冴島そんなに怒ってるの…。…あぁ、親友取られるのが寂しいとか…?

なにそれ可愛い。てか怒ってる冴島が可愛い。
































 …という感じで、皆無事に…。

というか、50点で喜ぶって…、普段どんな点数取ってたのさ…、一君…。


…あ、因みにこの呼び方もその時に強制されました。

はぁ、辛い…。俺が陸斗以外の男子を名前呼び、なんて…。


「…今回はやけにぼーっとしてんな。俺の話聞いてたんかよ」


「っあ、ごめん陸斗。ちょっとね…」


 因みに今は、とある日のなんともないお昼休み。

いつも通り、俺のクラスで陸斗とご飯を食べている所だ。

美沙は体調不良でお休みのよう。


いつぞやの勉強会の事や、テスト返却時の事を思い出すのに必死で、陸斗の話は右から左に流れてしまっていた。

ごめんね陸斗。


「はー…、別に良いけどよ。夏休みの合同外泊、今年も自由参加らしいけど、お前はどうすんだ?って話な」


「行かないよ」


「だよな、知ってた」


 ここ_神楽坂高校では毎年夏休み恒例、各学年ごとに分かれて合同外泊が行われている。

行先は日本各地のどこか、海や山、スケート会場や温泉街等々…沢山の選択肢の中から生徒の投票にて決められる。

…俺?どこにも投票してないよ。

だってどうせ行かないし、夏休みは家でダラダラしてたい派だし。


「えっ、瑠伊行かねぇの!?折角の海なのに!?」


どこから聞いていたのか、後方からそんな言葉が聞こえてきた。

…わざわざ振り返らなくてもわかる、一君だ。…てか、こっち来てる…ような…?


「…いつからそんな仲良くなったんだ…?お前ら…」


 そうどこか怪訝な瞳で、俺と一君の方へ視線を向けている陸斗。

そ…そんなの、俺だって知りたいよ…!気付いたらこうなってたんだからさ…!


「別にいつからでも良いだろー?な、行かねーの?海になんて滅多に行く機会ねーのに!!」


「い…行かないよ…、日光苦手だし…。休みは家でゆっくりしてたいし…」


 俺がどれだけ断り続けても、言い訳をし続けても、でも、だって、なぁ、と根気強く一君は俺の事を合同外泊に誘って来る。


…正直、面倒くさい。こういう厄介なの、本当に苦手で…。

あ、いや、別に一君が苦手な訳じゃないけどね…?


「なー!!みなも瑠伊に来てもらった方が楽しいよなー?」


「えっ…」


 冴島は一君に急に声を掛けられた為かぴくり、と小さく肩を跳ねらせどこか驚いたような表情で俺達の方へぱっと視線を向けた。


「…あー…。そう、だなぁ…。参加者は、沢山居た方が楽しいとは思うぞ?」


 “紫暮が嫌なら強制はしないけどな?”なんて、かわいらしくはにかみながら言葉を続ける冴島。

…う・・・。そんなさ…、推しに、可愛い顔で言われたらさ…。


「…分かったよ…、行けば良いんでしょ行けば…!!」


 断れる訳無いでしょ…!!チョロい?うるさい!!!































「…え、先輩今年は参加するんっすか…?珍し…」


「俺だって参加するつもりなかったんだけどさ…。クラスの子から滅茶苦茶しつこく誘われて…」


 はぁ…と教室近くの渡り廊下をほうきではわきながら後輩に相談する。


彼は藍原柚樹。俺と掃除当番が一緒になったことがきっかけで話すようになった。

仲良くなったきっかけは、藍原が陸斗の“部活の後輩”だったからだけれど。


…まぁ、それは良いや。今は合同外泊の話だ。


「二年は確か、登山だったっけ。俺等よりも大変そう…。頑張ってね」


「うす。まぁ…、部活の練習にもなりますし、俺は別にあんま気にしてないっす」


 そうけろっ…と本当に気にしていないような表情で、さも当たり前のように言ってのけた。

…流石、陸斗に負けず劣らず運動バカ…いや、サッカーが好きすぎるだけかも…。俺には絶対無理…。


「…まぁ、頑張ってください。相談くらいは乗りますんで」


「相談も乗ってほしいけど、それよりも俺の代わりに行ってほしい…」


「先輩、そういう“沢山の人と過ごす”って行事全般苦手っすもんね。修旅の時も十六夜先輩に愚痴零してましたし」


 はー…と小さく溜息をつきながら俺の話を聞いてくれる藍原。

うっ…。相変わらず優しい…。良い後輩だよ本当に…。好き…。


「…まぁ、良いんじゃないっすか。噂の推し先輩も参加されるんでしょ?」


「う…、そう、だけど…」


 …そう。藍原は、俺の推し_冴島の事を知っている数少ない存在のうちの一人だ。

…まぁ、俺が我慢できずに話し…いや、語りつくしちゃったせいなんだけどね。

あの時は30分も付き合わせちゃったっけ。長い間聞かせちゃってごめんね。

でも、なんやかんや付き合ってくれる藍原はやっぱり優しいと思う。


「なら、いつもよりは楽しいかもしれないっすよ。ほら、海ならその推し先輩の水着姿とか見れるかもしれないですし」


「なっ…」


 にま、と人をからかう時の様な表情で言う訳でもなく、普段と変わらぬすん…とした表情を浮かべながら、藍原はそう言ってのけた


。…いや、いやいや…!!流石に俺もさ?ちょーっと思ったけど…。ちょっとだけね…?

けどさ…。流石に…、推しに対して下心を持ってしまったら駄目だよなぁ、なんて思ったので…。はは…。


「いや…いやいや…!!流石にそんな事思って…ないよ…!!確かに推しの新ビジュ見れるのは嬉しい…嬉しいけど…!!けっっっしてそんな感情無いからね…!!下心とかほんと無いから…!!」


 そう言い訳_いや、言い訳じゃない!!本音!!本音だから…!!_をつらつら並べるも、藍原は意味が分からないとでも言いたげな表情で“…はぁ”と短く零すのみだった。


「好きなら別に、下心あっても良いんじゃないっすか?俺だってそれ位普通に思いますし…、別に変な事何にもないと思いますよ」


 そう言う藍原に、少々驚いたような表情を浮かべてしまう。

…もしかして藍原、なにかとんでもない勘違いしてる…?


「ちょっ…。確かに俺は冴島には少なからず好意…好きだけど!それはあくまで俺の“推し”だからで、そういうんじゃないから…!!」


 そうやや慌てつつも一生懸命弁明をする。

…と、藍原にまた小さく溜息をつかれてしまった。

…えぇ、何でそんな呆れてるの…。うぅ…。


「…俺には、よく分かんないっす。そういう細かい違いとか、一緒じゃねぇんすか」


「一緒じゃないよ!?大分違うからね!?」


(…はぁ。なんだ、無自覚なのか、この人)


 はぁ…ともう一度小さく溜息をつく藍原。未だそんな勘違いをしてるとは、思ってもみなかった。


(…勘違いなんかじゃ、ないと思うっすよ。それ)
































 …そして、時はつらつらと早かったり遅かったりと気まぐれに過ぎていき、今日はー…。


「うみだーーー!!これ一遍やってみたかったんだよなー!!」


 …合同外泊、開始の日です。


「…やっぱ無理、日差し無理…。帰りたい…」


「おい諦め早すぎんだろ。ちょっとは頑張れよ」


「…」


 …初日から、大波乱の予感がするのは、俺の気の所為でしょうか…。



本日更新致しました…!

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