第8話:解決と新たな。
「…で、話って結局何だったんだ…?」
「え、えぇと…。そう、だなぁ…」
不思議そうに小さく首を傾げ、俺の方をじーっと真っ直ぐ見詰めている冴島と、どうやって話を切り出しそうか完全に困り切ってしまった俺_紫暮瑠伊。
この二人の会話はいつ始まるのか…。じゃないよ!!脳内演説してる場合じゃないよ!!
…とはいえ、俺から話題を上げなきゃずっとこのままなんだろうな…。
俺は冴島の事堂々と見れるのも嬉しいから良いけど、冴島はきっと嫌だよねぇ…。
うぅ…。頑張って…話題を…!!
「あ、の…!」
「あの…さ」
「「…あ。」」
…やっちゃった。推しの声に被せちゃった…。
可愛い可愛い冴島の声に…。
申し訳無いよりも悔やみが先に来てしまう。
推しの尊い可愛い声に、俺なんかが…?
「…あ、ごめん紫暮。先良いよ、何?」
「いやいやいや…!!俺は良いよ全然後からで…!!」
「いやでも…話あるって声掛けてくれたの、陸斗と紫暮じゃん。何か用あったんだろ?」
「それは…、そうだけど…。俺よりも冴島の話の方が大事だと思うし…!!俺の事は全然気にしなくて大丈夫だから冴島から話して…!!」
案の定、話題の譲り合いが始まってしまった。
あぁもう、こうなると思ってたよ…!!
俺が推し様よりも先に話すとか有り得ないから…!!
でも、冴島の事だし…、やっぱ心配だし…、気になっちゃうし…。
でもでも、俺なんかが聞いて良い事なのかな…。
流石に踏み込み過ぎ…な気すらしてきた。
「…っふ…」
そうぐるぐると考え事をしていると、目の前で冴島が小さく笑みを零した。
…っぇ、かわい…。ゑ…?(困惑)
「何をそんなに困る事があんだよ、何聞こうとしてんだよ。えっち」
「ぇっ…。ち、違うから…っ…!!そんなんじゃないから!!」
えっち。そう言いながら冴島は自身の身体を守るように腕でかくしてみせた。
ぬ、濡れ衣だぁ…!!!
けど…。そう言うの、思った事無いといえば、嘘になる…ケドォ…。
「じゃあ何?ちゃちゃっと聞けよ、答えてやっから」
そう真っ直ぐ、先程よりも澄んだ瞳で俺の方を見詰めながら、小さく首を傾げた。
お、男らし過ぎるな、相変わらず…。
けど、良かった。ちょっとは調子が戻った、みたい…。
ほっ、と小さく安堵しつつ、俺は小さく口を開いた。
「お、俺が気にする事じゃ無い事は、分かってるんだけどさ…。ちょっと、元気無さそうに見えた、から…」
ぽつり、と小さくその言葉を冴島に伝えてみる。が、返事は特に帰ってこなかった。
…え、何で…。俺、何か変な事聞いちゃった…!?
そう思い慌てて冴島の方をぱっと向くと、驚いた様な、そんな表情を浮かべているのが見えた。
…え?
「…冴島…?」
彼に声を掛けると、はっと我に返った様な表情を浮かべ、俺の方を向いた。
「っあ…、悪い悪い。何でも無い。まさか、心配掛けてたなんて思ってなかったから」
あはは…、と何かを誤魔化すかのように、小さく笑みを浮かべそう述べた。
…誤魔化され、てる…。
そう思うと、つきりと胸元に小さな痛みが走ったような気がした。
…駄目。
これは、“気の所為”だから…。
そう、思い込む。
「別に、大した事じゃねぇから気にすんな!もうとっくに解決したしなぁ~」
「…あれ、そう…なの?なら、良いんだけど…」
何か、隠してる。そう思ったけども取り敢えずは信じる事にした。
…元気になったのは、本当みたいだし…ね。
「ちょっと、元気無さそうに見えた、から…」
その、彼の言葉に酷く嬉しさを感じてしまう。
紫暮が、俺の好きで好きで堪らない人が、俺なんかの事を…心配してくれていた。
心配を掛けてしまったのは申し訳ないけれど、やはり嬉しさの方が勝ってしまう。
俺の事、気に掛けてくれたのが俺にとってはとっても嬉しい事、だから…。
「…冴島…?」
そんな事をぼうっと考えていると、不思議そうな表情、声色で紫暮に名前を呼ばれた。
その声にはっと我に返る。
…やば、無意識に呆けちゃってた…。
「っあ…、悪い悪い。何でも無い。まさか、心配掛けてたなんて思ってなかったから」
本当に思ってなかった。だからびっくりした。
そう思いながら紫暮に伝えると、少し表情を曇らせた。
しかし、ぱっといつもの表情に戻ったから、もしかしたら気の所為か、俺の見間違いかも、と思う。
けど、もし見間違いじゃなかったら…?
…あ、もしかしてまだ俺の事心配してくれてんのかな…。
だとしたら、申し訳ないなぁ…。
「別に、大した事じゃねぇから気にすんな!もうとっくに解決したしなぁ~」
…これは、嘘。何も解決なんかしていない。
…だって、俺の悩みはお前だから。
…けど本人に伝えられる事でもねぇし。
これ以上、大好きな人を不安にさせたくないし…。
「…あれ、そう…なの?なら、良いんだけど…」
紫暮は、ほ、と安堵したような表情を浮かべ、そう小さく呟いた。
…君が、安心してくれたのならそれで良いんだよ。
「…あ。そういえば、冴島も何か話があったんだじゃないの…?」
其の儘少し世間話をしていると、ふと思い出したようにそう聞いてきた。
…げ、忘れてるかと思ってたのに…。
だって、だってさぁ…。
「紫暮ってぶっちゃけ、アイツ…、如月の事どう思ってんの?好き…なの?」
とか、聞ける訳ねぇじゃん…!?
さっきはその、吹っ切れようと、諦めるつもりで聞こうとしたけど、実は気にしてくれてたって分かった今、迂闊に変な事言えねぇって…!!
「…あの、冴島~…?」
でもほら、俺が何も答えないから紫暮がちょっと不安そうにこっち見てるじゃん…!!
俺が“えぇと…、あの~…”とか言葉を濁していると、更に怪訝そうな表情を、紫暮はあ浮かべて見せた。
あーもう…。変に誤魔化しても疑われそう(?)だし、正直に答えてみる、かぁ…。
「あれ、最近他校の奴と仲良いよな~、珍しいな~って思っただけだよ。陸斗とか枢木とかとしか話してんの見たこと無かったから」
そう、俺の本当の心の内を悟られぬように、若干重要な所は濁しつつ、紫暮に伝えてみる。
だ、大丈夫…だよな…?色々ばれて…ねぇ、よな…?俺の気持ち、とか。
「あぁ、如月の事…?俺も最初は絶対仲良くなれないだろうな~って思ってたんだけど…偶然やってるゲームが一緒でさ」
そう、俺にスマホの画面を見せながら教えてくれた。
見てみると個性豊かなキャラクターに“Heart of Lond”の文字。
あぁ…。最近やたら女子達が騒いでるやつ…。
キャラのビジュがどうとかって言ってたっけ…。
「あぁ、なんか流行ってるよな~…。それ、そんなに面白いん?」
そう、何となしに聞いてみると、紫暮はとても分かりやすく瞳を輝かせた。
な、何だ…。どうしたんだ…?
「もうめっっっちゃくちゃ面白いよ…!?ストーリーモードも滅茶苦茶良いし、キャラ設定も一人一人凝ってるから、進める度に続きが気になっちゃうし、伏線も綺麗に回収してくれるから読んでてももやもやしないし面白いし…。何よりキャラのビジュが良いから一緒にマップ内旅してて尊さしか感じないんだよねぇ…。ほんっっとうに良いよHoLは…」
「お、おう…?」
唐突に紫暮の口から発せられた、怒涛の情報量に若干驚きつつも話を聞いていると、はっと我に返った様な表情で俺からぱっと視線を外した。
「ごっ…、ごめん冴島…。HoL、本当に好きだからつい…」
そう、紫暮は申し訳なさそうに眉を下げ、小さく呟いた。
別に謝らなくても良いのに…。
…けど、ふぅん…。そんなに好きなのな、このゲーム…、のキャラ達…。
…って、二次元コンテンツにまで嫉妬してどうするんだよ、何やってんだ俺…。一旦落ち着け…!!
「良いよ別に、気にすんな。…けど、そんだけべた褒めされると流石に気になるなぁ…」
そう、小さく呟くと、再び紫暮は瞳を輝かせ俺の方を真っ直ぐ見詰める様にばっと顔を上げた。
「冴島もする…!?HoL、操作方法結構単純なのに面白いし…、凄くお勧めだよ…!!」
…その反応を見て、つい“可愛い”と思ってしまった俺は…悪くない…筈…。
だって可愛いし…って、一体誰に言い訳してんだ俺…。
…けど、何がともあれ、ちゃんと話が出来て良かったな。
如月と紫暮はまだ、ただのゲーム仲間…。
良かった、悩み事も解決した…し。
「…冴島もやってくれるの、嬉しい…。俺も、始めた切っ掛けは冴島だったし…」
「…え?」
紫暮から唐突に発せられたその言葉に、ぽかーん…としつつ短く声を漏らしてしまう。
それを聞いてか、紫暮はまるで“しまった”とでも言いたげな表情を浮かべ、ぱっと口を両手で押さえた。
え、何そのポーズ可愛い…じゃなくて…!!
「え、えぇと…。ご、ごめん…っ…!!何でもない、忘れて…っ…!!」
がたんっっ…!!と勢いよく席を立ち、紫暮はその場を走り去ってしまった。
「…えぇ…?」
新しい悩み事、また増えた…みたい…?
はてさて、瑠伊君のその言葉はいったいどういう意味だったんでしょうね~???