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敗北のその次へ



リュウヤと別れて帰宅したツバサは、自分の部屋の机に突っ伏すように座っていた。

鞄から出したノートは真っ白のまま。鉛筆を握っては、無意味に線を走らせ、消しゴムで擦り消す。

その繰り返し。


「……何を、作ればいいんだろう」


ぽつりと呟く声が、部屋の静けさに吸い込まれる。

思い出すのはマコトに完膚なきまでに叩き潰されたあのバトル。

頭では避けたいと思っても、機体は鈍く反応し、武装は空を切った。

勝ちたいと思ったのに、ただ一方的に追い詰められるだけだった。


「やっぱり僕には……センスなんて無いのかな」


胸がじくじくと痛む。悔しさと情けなさが交じり合い、ため息が漏れた。

その時、机の端に置いていた携帯端末がふっと光を放つ。

画面に淡い文字が浮かんだ。


『ツバサ、また悩んでいるのですね。私で良ければ、力になりますよ』


「……OMTi」


ツバサは端末を見つめ、小さく笑った。

彼が作り上げたAI。音声認識でチャットを返してくれるが、画面越しにしか言葉を交わせない。

けれど、ツバサにとっては大事な“話し相手”だった。


「ねぇ、OMTi。僕、この前のバトル……全然上手く動けなかったんだ。

頭では『避けろ』って分かってるのに、機体は鈍くて……。

剣も、振り回すだけで全然当たらなくて……」


画面に、即座に返答が表示される。


『それは「認識速度」と「操作」の差によるものです。

ツバサが考えた通りに反応できるよう、機体に適した設計を行う必要があります』


「機体に……適した設計……」


その言葉が、ツバサの心に小さな光をともす。

彼はノートに再び鉛筆を走らせた。


「じゃあ……もっと、僕でも扱いやすい武器。大きく振り回すんじゃなくて……

正確に狙えて、当てられるものがいい」


『はい。ツバサは派手な戦いよりも、堅実さに向いています。

“確実に当てる武装”と“確実に守る手段”。

それがあれば、勝機は広がります』


「確実に……当てて、守る……」


言葉を繰り返すと、ぼんやりしていた輪郭が少しずつ形を結んでいく気がした。

マコトの卑劣な奇襲に翻弄されながらも、「ここで反撃できれば」と何度も思った。

防御があれば、もう少し粘れた。

取り回しの良い武器があれば、反撃もできた。


――そうだ。僕は派手じゃなくてもいい。

一撃必殺じゃなくてもいい。

僕は……「確実に届く」ガンプラが欲しい。


『それが、アナタの“色”なのかもしれません』


端末に浮かんだOMTiの言葉は、まるで小さな励ましのようだった。

ツバサは胸の奥に小さな火が灯るのを感じ、鉛筆を握る手に力を込めた。

迷いは消えない。

けれど、確かに“最初の一歩”が描かれ始めていた。

________________________________


ガンプラショップから帰って来て

机の上に広げたパーツ箱を前に、ツバサは深呼吸をした。

未だ形にならないアイデアを、少しでもカタチにするために。


「……よし。やってみよう」


ランナーを手に取り、慎重にニッパーを入れる。

カチリ、と小さな音を立てて外れるパーツ。

その一つひとつが、ツバサの胸の奥を少しずつ満たしていく。


「武器は……大振りじゃなくて、小回りが利くもの。

剣より、ライフルや……扱いやすいサイズのサーベルがいい」


ノートに走り書きしたメモを横目で見ながら、ツバサは思考を言葉にしていく。


『その選択は理に適っています。

ただし、攻撃の軌道を単調にすると、回避されやすいですよ』


「そうだね……じゃあ、シールドに仕掛けを……ただ守るんじゃなくて

相手の攻撃を逸らしたり、受け止めながら反撃できる……そんな装備にしたい」


『興味深い発想です。防御と攻撃を兼ねる……

それなら、ツバサの“苦手”を補えるでしょう』


OMTiの淡々とした文字が浮かぶ。

けれど、ツバサにはその一言一言が、不思議と心強く響いた。


組み立てが進むにつれ、まだ色も塗られていない真っ白な骨組みが机の上に立ち上がる。

頭部はまだ仮のまま。

腕や脚も可動域を確認するだけの、未完成そのもの。


「……でも」


未完成のプロトタイプを前に、ツバサの瞳は輝いていた。


「これなら……僕にも、できるかもしれない」


その呟きに、画面が静かに応える。


『はい。ツバサ、これはまだ始まりです。

ですが――確かに“ツバサだけの機体”が産声を上げましたね』


胸の奥に広がる熱は、昨日までの灰色の毎日では感じられなかったもの。

迷いも不安もある。

それでも今はただ、作りたいという衝動に突き動かされていた。


窓の外では、いつの間にか夜が深まっていた。

机の明かりに照らされながら、ツバサはパーツを手に取り続ける。

その姿は、まるで――新しい自分を組み上げているかのようだった。

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