リュウヤ大ピンチ!?赤点を回避せよ!!
放課後
窓から差し込む夕陽が橙色に、部室の机を染めていた。
その机の上には、いつものガンプラではなく、教科書やノートが山積みにされている。
「来週から中間テストですよ~。赤点を取ったら……部活禁止ですからね?」
ふんわりした口調で、ユリ先生がにこやかに告げた。
「ま、まじかぁぁぁぁぁ!!」
椅子から転げ落ちそうになりながら、リュウヤが叫ぶ。
「そんなルール聞いてねぇぞ!? 俺の命運、もう尽きたかもしれねぇ……」
「言ってたよ。授業中に居眠りしてたから聞いてなかったんだと思う」
ツバサが苦笑しつつ、冷静に突っ込む。
「おぉぉ……やっべぇ……」
リュウヤは机に突っ伏して呻いた。
そんな彼を見て、ハルノが小さく首を傾げ、柔らかく微笑む。
「じゃあ……今日はガンプラじゃなくて勉強会にしよう? 三人でやればきっと大丈夫だよ」
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勉強会スタート
ノートを広げたツバサが、真剣な顔で数式を指差した。
「ここはね、2次関数のグラフを考えれば自然と解けるんだ。だからまず軸を――」
「ストーーップ! ツバサ!」
リュウヤが両手を振って止めに入る。
「なんか頭に入ってこねぇ! もっとこう……わかりやすく!」
「う、うん……ごめん」
ツバサが困ったように眉を下げると、横からハルノがそっと補足した。
「例えばね……坂道を登るときって、一番上が頂上でしょ? グラフも同じで、真ん中に“てっぺん”があるの。それを見つければ答えになるんだよ」
「おぉぉ……わかりやすっ!!!」
リュウヤの目が輝いた。
「さすがハルノ! ツバサも見習えよぉ」
「……あのね」
ツバサが小さくむくれ、ノートでリュウヤの頭を軽く小突いた。
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「魏、呉、蜀の三国に使者を送った女王は?」
ツバサが小テスト形式で問題を出す。
「そんなの決まってんだろ! 卑弥呼って三国志の武将だ!」
胸を張って答えるリュウヤ。
「……答えは合ってるけど、全然違うよ、リュウヤ」
ツバサが苦笑しながら首を横に振った。
「卑弥呼は“武将”じゃなくて、倭の女王なんだ。三国志には出てこないよ」
「えぇ!? マジか……完全に勘違いしてた……!」
頭を抱えるリュウヤに、ハルノがくすっと笑った。
「ふふっ……リュウヤくんらしいね」
――次は英単語暗記。
「apple、りんご。desk、机……」
(PC端末から再生される声)
「なぁ、ハルノ。ハルノの声で読み上げてくんね? その方が頭に入りそうなんだ」
「えっ!? そ、そんなの恥ずかしいよ……」
「バカなこと言わないの」
ツバサのノートが二度目のヒット。
――さらに理科。
「H2O、水。HCl、塩酸。NaCl、塩化ナトリウム」
ツバサが淡々と読み上げると、リュウヤが急に身を乗り出した。
「おぉぉ、なんかモビルスーツの型番っぽくね!? H2O、出撃! NaCl、援護だ!」
「……そんなテンションで覚えてるの、リュウヤくんだけだよ」
ハルノがくすっと笑い、ツバサも呆れながらも口元を緩めた。
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窓の外はすっかり夕焼け色に染まっていた。
机の上にはお菓子の袋や、飲みかけのペットボトルが散乱している。
「ふぅ~……もう頭パンパンだ……」
リュウヤが大きく背伸びをして呻く。
「でも、頑張ったね。今日のリュウヤくん、すごく集中してたよ」
ハルノが穏やかに微笑んだ。
「……あぁ。みんなのおかげだ。これで赤点は……ギリ逃げられるかもしれねぇ!」
リュウヤが豪快に笑って拳を突き上げる。
「うん、でも次はもっと上を目指そうね」
ツバサが柔らかく言うと、3人は顔を見合わせて――自然に笑った。
その笑い声は、夕暮れの部室に溶け込んでいった。