新たなる小さな仲間?
放課後の校舎裏。
部室へ向かうツバサたちの耳に、微かな鳴き声が届いた。
「……今の、猫の声?」
ハルノが足を止め、耳を澄ます。
もう一度、「にゃあ」と弱々しい声が響いた。
声を辿るように3人が茂みに近づくと、そこには小さく震える白い子猫がうずくまっていた。
「わっ……!」
ハルノが思わず駆け寄る。
白い毛並みは少し汚れてはいたが、透き通るように綺麗で、瞳は不安そうに揺れている。
「かわいいな……でも、痩せてるし、お腹空いてるんじゃねぇか?」
リュウヤが膝をついて覗き込み、そっと手を差し出す。
「大丈夫だよ、怖くない」
ツバサの静かな声に応えるように
子猫はおずおずと近づき、リュウヤの掌に顔を寄せた。
「……放っておけないよね」
ツバサの言葉に、ハルノは小さく頷き、子猫を抱き上げた。
「大丈夫。私たちが一緒にいるから」
そのまま3人は子猫を部室へ連れて行った。
⸻
部室に戻ると、机の上にタオルを敷き、子猫をそっと寝かせた。
「よし、まずは水だな!」
リュウヤが慌てて紙コップに水を汲んできて、子猫の前に置いた。
「ちょっと待って、これじゃ飲みにくいかも」
ツバサが指先を水に浸し、子猫の口元へ運ぶと、小さな舌がぺろりと舐め取った。
「……飲んだ!」
「よかったぁ……」
3人同時に安堵のため息が漏れる。
ハルノはそっと撫でながら、微笑んだ。
「ふわふわ……。でも、すごく細いね……」
「こいつ、どうする?」
リュウヤが椅子に座り込みながら子猫を見つめる。
「飼い主いなさそうだし……ここで飼っちまうか?」
「で、でも……学校で飼うなんて……」
ツバサが困ったように言うと、ハルノは胸に抱きしめたまま、少し寂しそうに呟いた。
「……本当はうちで飼ってあげたい。でも、お父さんが動物苦手で……きっと無理」
しんとした空気が流れる。
「だったらさ」
リュウヤがパッと顔を上げ、ニッと笑った。
「部室で育てようぜ!ガンプラ部のマスコットってことで!」
「えっ……!」
ハルノが目を丸くする。
ツバサも少し驚きつつ、しかし穏やかな笑みを浮かべた。
「確かに……みんなで世話をすれば、一人で抱え込まなくてもいいしね。責任を持ってやれるなら……」
「決まりだな!」
リュウヤが親指を立てると、子猫が「にゃあ」と小さく鳴いた。まるで賛同するかのように。
⸻
翌日。
3人は顧問代わりのユリ先生に事情を話し、真剣に頭を下げてお願いした。
ユリ先生は少し困ったように笑みを浮かべる。
「生き物を飼うのは簡単じゃないのよ? でも……あなたたちが本当に責任を持つなら、許可してあげます」
「もちろんだぜ!」「はい!」
リュウヤとツバサが即答し、ハルノも胸に抱くように子猫を撫でて、しっかり頷いた。
⸻
その日の放課後。
机の上をとことこ歩く子猫を、3人が見守る。
「名前……つけてあげないとね」
ツバサがぽつりと呟いた。
「うーん……シロ?」「いやいや、もっとかっこいい名前がいいだろ!」
リュウヤが案を出すも、どれもピンと来ない。
ハルノはしばらく黙って子猫を見つめ――やがて小さな声で言った。
「……ナド。ナドちゃん」
「ナド?」
「うん。……白くて綺麗な毛並みが、ナドレに似てるから」
ツバサが優しく微笑み、リュウヤも「いいじゃねぇか!」と笑った。
子猫は「にゃあ」と鳴き、まるで自分の名前を気に入ったように、ハルノの膝へ飛び乗った。
――その日から、子猫は「ナド」として、正式にガンプラ部の仲間になった。
机の上を歩き、ガンプラの箱に潜り込み、時には3人の膝上で眠る。
小さな命が加わったことで、部室はますます賑やかになっていくのだった。